業界展望台
10月14日は「鉄道の日」
進む"鉄道事故被害拡大防止対策"
10月14日(金曜日)付 日刊工業新聞 10面 広告特集から
明星大学 理工学部
教授 宮本 昌幸
鉄道の安全については、長らく「いかに事故を起こさないか」に主眼を置いて研究がなされてきた。その結果鉄道は非常に安全な乗り物となっているが、確率は低いが事故は起きている。そこで「事故被害拡大防止」の観点からの研究を開始した。まず(1)2003―04年の発表内容(2)04年10月の中越地震による上越新幹線脱線事故を契機として、JR各社で検討され実施に移されている列車の逸脱防止対策(3)現在明星大学で取り組んでいる模型車両での対策効果確認走行実験と今後検討が必要と思える事柄について述べる。
【被害拡大防止の研究】
筆者の国鉄技術研究所に入っての最初の仕事は、北海道狩勝実験線での貨車脱線実験であった。その後も脱線現象の解明を通して鉄道の安全性向上に努力してきた。その過程で、100%脱線をなくすことは難しく、脱線後の被害拡大を防止する研究の重要性も感じるようになった。
大学教員になった後に、この分野の研究を開始し、その成果を03−04年3月に発表した。
(1)過去の脱線、転覆事故の調査
1998年ドイツでのICE脱線事故、03年九州旅客鉄道(JR九州)での特急電車脱線事故では、脱線しても直線で大きな外乱がなければ線路に沿って走行していた。
ICE事故では右側に脱線して約6キロメートル走行した後分岐器区間で左車輪がリードレールに誘導されて列車は右へ大きく振られ道路橋の橋脚に激突し大事故となった。00年営団地下鉄(現東京地下鉄)日比谷線中目黒脱線衝突事故では脱線後約60メートル走行した後、横取り装置のリードレールに誘導され列車は右に振られていき、対向車と衝突し大きな事故となった。
この二つの事故では分岐器のリードレールが車体を左右に大きく振る役目をしていて、事故拡大要因となった。見方を変えると、線路間に設けたレールにより列車を誘導できるということである。すなわち、脱線後の列車を大きく左右に振らせずに、地上構造物への激突や、転覆を防ぐ、「逸脱防止レール」が成り立つことを示唆するものである。
(2)計算機シミュレーションによる調査
脱線後にレールが車両の逸脱を防止できるかを、比較的簡易なモデルを作成し検討した。その結果、脱線後、レールは車両のレール外への逸脱防止に効果があることが確認された。また、「鉄道版防護柵」の効果が確認され、自動車用剛性防護柵と同レベルの仕様で成り立ち得る見通しが得られた。
【JR各社の逸脱防止対策】

04年10月に最大震度7の中越地震で上越新幹線が脱線した。営業中新幹線の初めての脱線であった。幸い死傷者は出なかったが、最後尾車両は対向線を支障し、大事故になる可能性もあった。
この事故を踏まえ、新幹線関係鉄道事業者、鉄道総合技術研究所(鉄道総研)、鉄道・運輸機構、国土交通省により「新幹線脱線対策協議会」が設置され、今までの地震対策に加えての対策の検討、開発が行われた。
東日本旅客鉄道(JR東日本)では、新幹線脱線事故で先頭車両の排障器受けと脱線した車輪がレールを挟んだ状態で走行した結果、先頭車両がレールから大きく逸脱しなかった点をもヒントとして、L型車両ガイドを開発し、08年8月に全ての新幹線車両に設置が完了した。軸箱下部に取り付けたL型ガイドにより脱線した車輪をレールに沿って走らせ、かつ車輪がレール締結装置を破損させない位置となる逸脱防止対策である。合わせて、L型ガイドが有効に機能するための接着絶縁継ぎ目の破断防止策、レール転倒防止装置の導入も進められている。
東海旅客鉄道(JR東海)では、まず脱線を極力防止するために、保守作業に悪影響を及ぼさない構造の脱線防止ガードの設置、万一脱線した場合の逸脱防止のための台車中央部への逸脱防止ストッパーの設置が進められている。
西日本旅客鉄道(JR西日本)では左右レール間に幅約50センチメートルの逸脱防止ガードの設置を開始した。
【L型ガイド効果確認模型実験】

明星大学でのL型ガイド効果確認模型走行実験
逸脱防止車両ガイドが脱線時に実際に効果を発揮するかの確認について、JR東海での直線軌道においての実台車での実施例もあるが、直・曲線などの軌道条件、脱線の形態など多様な条件での実施は難しい。そこで、模型車両を用いての台車軸箱下に取り付けたL型車両ガイドの効果確認実験を進めてきた。
約8分の1模型による振動台を用いての定置の正弦波左右加振実験では、42回中L型車両ガイドが効果を発揮しなかったのは1回のみであった。
HO模型を用いた走行実験では、車両を加速する直線傾斜部の先に設置した食い違いレール部でのL型車両ガイドの効果は、食い違いレールが曲線の場合には車輪がレールを乗り上げL型車両ガイドが効果を発揮しない場合があった。
5インチゲージ軌道、縮尺約8分の1車両を用いた、屋外での長さ約25メートルの軌道での25度の角折れ部脱線実験では、車輪がレールに大きなアタック角度で衝突していくので、L型車両ガイドは効果を発揮しないことが多かった。
これらの結果をまとめると、車輪とレールが平行して脱線する場合にはL型ガイドの効果が大きいが、両者が角度を持つ場合には車輪の乗り上がりと同時にL型ガイドもレールを乗り越えてしまい効果を発揮しないことが多いと言える。
今後は軌道条件、脱線形態などの組み合わせに対する逸脱防止対策効果の評価を深度化して、より安全性を増す対策の組み合わせなどの検討が必要と感ずる。検討には計算機シミュレーションも有効な手段と考える。
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