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深層断面/熊本地震2週間−工業団地、復旧にハードル

(2016/4/29 05:00)

熊本地震の発生から28日で2週間が経過した。被災企業の多くが復旧に向けて踏み出したが、道路が損傷した工業団地では復旧費用の調達など新たな課題が浮き彫りになってきた。熊本、大分両県で震度1以上の地震は14日以降、1000回を超えるなど地震活動が活発に続いている。人工衛星で熊本周辺の地殻変動を観測し、崖崩れの予測などに役立てる調査も進んでいる。(熊本支局長・勝谷聡、冨井哲雄、福沢尚季)

  • 24社が立地する熊本南工業団地

■道路・水・電気…/資金面に問題も支援の動き

熊本地震で被災した企業が着実に復旧を進める一方、別の課題が浮き彫りになってきた。損傷した道路など工業団地共用部分の復旧には、時間がかかる可能性がある。理由は資金の問題だ。

熊本南工業団地(熊本県嘉島町、敷地面積約18万2000平方メートル)には、装置メーカーや鉄工所、鋳造所など24社が立地する。共用設備には排水・給水施設や水銀灯などがある。今回の地震で道路の擁壁が崩落し、隆起などが起きた。水道施設も破損した。

団地内に本社を構えるプレシードの松本修一社長は「会社は電気がつながり水も出るようになった。設備の復旧は順次取り組んでいる。しかし団地の道路は傷みがひどい。排水もこぼれたまま」と不安を隠せない。

同団地協同組合の富田恭司理事(富田鉄工社長)は「立地企業の被災総額は、調査した約3分の2の企業だけでも約18億円。被災企業は自社の復旧で手いっぱいで共有地の復旧まで手出しできない状況。ぜひとも国や県に協力を要請する」と力を込める。

同団地は共有部のインフラを協同組合が運営しているが今回のような不測の事態には資金面での対応が難しい。背景には、協同組合で修繕費を計上してもインフラ整備に使わなかった分は利益扱いとなり、課税されて翌年に持ち越すことができず「結局積み立てていくことができない」(富田理事)という事情がある。

しかし復旧を資金面で支援する動きが出てきた。熊本県は「制度融資の緊急補正を行う予定。県の融資では協同組合も対象。被災対象は条件緩和もある」(商工金融課)という。また日本政策金融公庫(日本公庫)や商工中金には災害復旧貸付制度がある。日本公庫熊本支店は「激甚災害指定が適用となり、災害復旧貸付金の金利を差し引く制度がある」と説明する。

同団地協同組合は27日、避難状況の確認や今後の取り組みに関する1回目の意見交換会を開いた。行政や金融機関からも参加があり、東日本大震災後の復旧に対する資金面での公的融資の事例が紹介された。富田理事は協同組合の資金調達に関して今後も情報を収集していく。

■地震活動は活発/M3.5以上、内陸・沿岸で200回超える

熊本県熊本地方を中心に発生している地震活動は依然活発だ。気象庁によると、14日の地震以降、震度1以上を観測する地震は28日時点で1000回を超えた。

また、内陸や沿岸で発生したマグニチュード(M)3・5以上の地震の回数は200回以上を記録している。一連の地震活動の発端は、熊本地方で14日21時26分に発生した最大震度7、M6・5の地震だ。続いて最大震度6弱以上の地震が2度発生した。

さらに、16日1時25分にはM7・3と今回の地震活動として最大規模の地震が発生。当初は最大震度6強とされていたが、熊本県の益城町と西原村の震度計のデータを気象庁が解析した結果、最大震度は7に修正された。その後も震度6弱以上の地震が3度発生。北東から南西の方向に延びる長さ約30キロメートルの領域にある、熊本県阿蘇地方や大分県などの周辺域にも地震発生地域が拡大している。

■地震メカニズム/内陸部の真下、右横ずれ断層型

今回の地震の特徴は、最大震度7の地震が立て続けに発生したことと、内陸部の真下で起きた比較的震源の浅い「内陸型地震」であることだ。文部科学省の地震調査委員会によると、今回の地震は主に北北東―南南西にかけて延びる断層を境に地面が南北方向に引っ張られた「右横ずれ断層型」であるとみられる。

右横ずれ断層とは、断層の一方に立った際、反対側の地面が右にずれる場合をいう。一方、反対側の地面が左にずれる場合は左横ずれ断層と呼ばれる。

地震は大別すると「内陸型地震」「海溝型地震」の二つの種類がある。内陸型地震は95年の阪神・淡路大震災、04年の新潟県中越地震も同じメカニズムで発生している。

一方、海溝型地震は海側のプレートと大陸側のプレートが接しているところで起きるため津波が発生しやすい。大きな津波被害をもたらした11年の東日本大震災が典型だ。

■宇宙からも観測/大規模な地殻変動、衛星データで解析

  • だいち2号(JAXA提供)

熊本地震に関する調査は宇宙からも行われている。地震発生後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は陸域観測技術衛星「だいち2号」で熊本周辺の撮影を開始。衛星データを解析した国土地理院は、熊本地震で活動した布田川(ふたがわ)断層帯の北側で地殻が最大1・2メートル以上沈降、同断層帯の南側では地殻が最大0・4メートル以上隆起していると発表した。

同様に衛星データを解析したリモート・センシング技術センター(東京都港区)は活断層に沿って阿蘇大橋(熊本県南阿蘇村)と熊本県益城町を結ぶ地域一帯に大きな地殻変動があることを示した。こうした画像データは崖崩れの予測、道路やダムを点検する際の優先度の決定などの基礎データとして期待できる。

だいち2号は地表に向けて電波を送信し、戻ってきた反射波を捉えて地表の形状を画像化する「合成開口レーダー(SAR)」を備えている。そこに地震前後の地表の画像を組み合わせる「干渉SAR」という処理で地殻の変動量を割り出す。電波を利用して昼夜や天候に影響されずに地表を観測できることが大きな特徴。地震や火山噴火などの災害情報の提供に大きな役割を果たしている。

(2016/4/29 05:00)

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