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深層断面/突破せよ日立(1)次世代製造業目指し変革

(2016/12/21 05:00)

日立製作所が創業以来最大のビジネスモデル変革に挑んでいる。目指すのは、IoT(モノのインターネット)技術を使って顧客の課題解決に当たるソリューション企業。人、組織、技術プラットフォーム(基盤)まで変化の波は日立全体に広がる。製品に加え関連サービスまで提供し、高収益を上げる次世代製造業への脱皮は日本の電機メーカーに突きつけられた共通課題だ。先陣を切る日立は壁を突破できるか。

  • 社会イノベーション事業拡大について説明する東原社長(豪シドニーでの自社展示会)

講師に“異端”の日立マン/課題解決する人材育成

【スキル獲得】

2016年春、日立は「フロント強化特別研修」と呼ぶ新たな人材育成プロジェクトをスタートさせた。注目は講師役の人選。商社やコンサルティング企業から転職してきた“異端”の日立マンがその任を受けた。

生徒となったのは鉄道や電力など各フロントビジネスユニット(BU)から選抜された40人。育成のポイントは二つ。顧客との対話を通じて課題を把握し、それを解決するソリューションの骨格をつくる「顧客協創構築」、その骨格を実際のビジネスに仕上げる「ソリューション構築」の両スキルの獲得だ。

「一緒に課題を見付け、解決策を探りましょう」。研修では実際のビジネス現場が舞台となった。講師役を含め4―5人のチームが、鉄道や電力会社といった顧客に対し3カ月間、営業展開した。

人材戦略を担う中畑英信執行役常務は「まず顧客の課題があって、『その解決のためにこの製品が役立ちますよ』という提案が不可欠。製品主導のトークはなし」と研修の“ルール”を明かし、「モノがないことを前提にビジネスをつくってきた元商社マンらに講師として活躍してもらった」と解説する。

【1丁目1番地】

この研修は、日立が成長戦略の1丁目1番地に位置付ける「社会イノベーション事業」拡大の方向に沿った取り組みだ。同事業はITとインフラ技術により顧客や社会の課題解決を目指すもの。例えばオフィスビル。センサーとIoTを使って照明の電力を最小化、共有会議室の使用状況を分析し部屋の数や大きさを最適化、監視カメラでエレベーターの待ち人数を把握し運行台数を調整といった各種サービスを組み合わせて省エネや設備の運営効率化につなげる。

日立は創業以来、優れた製品を開発し提供することで成長を遂げてきた。これと比べ課題解決を出発点とする社会イノベーション事業は根本から異なる。製品に強い人材に加え「課題解決策を提供できる人」(中畑執行役常務)が求められる。

協創・コネクトで社会イノベーション拡大/収益力高め設備投資継続

  • 日立のIEP向け車両。27年半にわたって保守サービスも提供

【東原改革元年】

日立は4月、東原敏昭社長が最高経営責任者(CEO)を兼務するマネジメント体制を始動した。また6月には18年度までの中期経営計画を始めており、16年度は“東原改革”元年となった。

「社会イノベーション事業拡大のカギは『協創』と『コネクト(つながる)』」と繰り返す東原社長。変革に取り組むのは人材の質に留まらない。4月1日付では21年ぶりとなる組織再編を実施。従来の製品別のカンパニー制から、顧客接点拡大を狙いとし市場別に設けた12のフロントBUを主体とする新体制に移行した。

またグループ再編も活発化しており、日立物流や日立キャピタルの保有株式の一部を売却した。「デジタル技術とつなげて強くなる事業は近づけ、強くならない事業は遠ざけていく」(東原社長)方針で今後もポートフォリオ見直しを進める。

【普通の会社】

日立は08年度に国内製造業で過去最大の7873億円の当期純損失に転落した。その後、社会イノベーションという旗の下で構造改革を実施し11年度には過去最高の当期純利益3471億円を達成。さらに14年度は過去最高の営業利益を更新した。

しかし15年度を最終年度とする中期経営計画では営業利益率や当期利益などの主要項目が目標未達に終わった。「日立は普通の会社に戻っただけ」(日立幹部)。社会イノベーション事業拡大戦略は緒に就いたばかりだ。

世界の電機業界における日立のポジションは決して安定的ではない。競合の米ゼネラル・エレクトリック(GE)は15年度(15年12月期)の営業利益率が16・5%、年度末のキャッシュは704億ドル(約8兆2870億円)。これに対し日立の同年度(16年3月期)の営業利益率は6・3%、キャッシュは6993億円に留まる。

収益力を高め設備投資を継続し、機動的なM&A(企業の合併・買収)を仕掛けられなければ蹴落とされる。「今後、業績が横ばいというのはない」(中畑執行役常務)。勝つか負けるか―。日立は転換点に立っている。

【現場を熟知】

勝機はある。「IT、OT(制御技術)、プロダクツ(製品)の三つを保有している。これが当社の強み」と東原社長は強調する。製品を売って終わり、コンサルだけして終わりではなく、ビジネスモデルづくりから、実現後の運用までトータルで手がけられる。また実際にモノが動く現場を熟知しているからこその「かゆいところに手が届く」サービスを提供できるのもPRポイントだ。

例えば鉄道。すでに車両、列車制御システム、運行管理システムなどを一括提供できる体制にある。英運輸省から受注した都市間高速鉄道計画(IEP)向けプロジェクトでは車両「クラス800」の提供のほか、27年半の長期にわたる保守契約も結んだ。鉄道事業を統括するアリステア・ドーマー執行役専務は「鉄道事業は社会イノベーションの先導者」と胸を張る。IoT時代の日立の潜在能力は高い。ソリューション型ビジネスを指向する意識を全社に浸透させ、優れたソリューションを生み出すために各BUの融合を加速できれば道は拓ける。

■生き残りへIoTカギ/問われるサービスの“質”

薄型テレビやスマートフォンで韓国、中国勢に敗北したことが象徴するように、日本の電機メーカーが製品のみの競争力で世界市場で存在感を維持することは難しい。

生き残りのカギを握るのはIoTだ。販売した製品にセンサーを取り付け、利用データを把握し省エネ稼働を促すサービスや、消耗品の不具合を検知し、故障前の交換でダウンタイム(稼働停止時間)短縮につなげるサービスなどを実現できれば、顧客との長期的な関係を構築し価格競争を回避できる。IoT利用の次世代サービスを巡っては米GEや独シーメンスも取り組みを活発化させている。

日立や東芝、三菱電機といった日本の電機メーカーに共通するのは製品に対する蓄積ノウハウと、実際に設備が稼働する施設や工場での現場力の高さ。これら二つの強みとITを組み合わせ、使い勝手の良いIoTサービスを提供できるかが問われる。

(明日から電機・電子部品・情報・通信に掲載します)

(2016/12/21 05:00)

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