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第46回日本産業技術大賞(上)内閣総理大臣賞−セイコーエプソン

(2017/3/21 05:00)

  • ペーパーラボの外観

  • 展示会でも注目を集めた(16年12月)

《ペーパーラボの開発》

日刊工業新聞社が主催する「第46回日本産業技術大賞」の受賞案件が決まった。内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞、審査委員会特別賞の3件の詳細を3回にわたり紹介する。

◇ ◇

セイコーエプソンの「ペーパーラボ A―8000」は、世界で初めて水を使わない紙のリサイクルを実現した。給排水設備が必要なくなり、オフィスに設置しやすくなった。紙づくりを知る人にとって、水を使わない技術は衝撃だ。技術に惚れ込み、導入を決めた長野県塩尻市の小口利幸市長は「本当に驚いた」と話す。

紙はパルプ繊維がいろんな方向に重なり、結合している。通常のリサイクルは、繊維間の弱い結合の間に水が入り、繊維をバラバラにする。繊維の溶けた液体は、水分を抜く過程でもう一度結合ができて、紙に再生する。

市川和弘ペーパーラボ事業推進プロジェクト部長は「水なしで繊維をほぐし、もう一度結合をつくる技術に一番苦労した」と振り返る。昔ながらの方法で和紙を作る「紙すき」など、さまざまな体験をした。ブレークスルーのきっかけは、和紙だった。どうしたら繊維にする力が働くか、手で和紙にいろいろな力をかけてみた。すると、その中に有望なものがあったのだ。そのアイデアを基に、エプソンが培ってきた『省・小・精』の技術を応用し、繊維化できる装置を開発した。

もう一つの特徴は「稼ぎながら開発した」(市川部長)ことだ。2013年頃から、プリンター内で余分なインクを吸い取る部材に、古紙から再生した繊維を採用した。同部材を生産する設備はプラントサイズ。実際にモノを作りながら、オフィスに設置できるまで小型化した。

16年11月に開いた発表会で、エプソン販売の佐伯直幸社長は「紙の未来を変えたい」と熱く語った。オフィス内で機密文書を処分するセキュリティー対策や、厚紙や色付き紙にできる付加価値を訴求する。リサイクルでなく、価値を高めるアップサイクルへ。限りある資源を有効に使うモノづくりを目指す。

(梶原洵子)

【技術プロフィル】

ペーパーラボに古紙を投入すると、約3分で新しい紙に再生する。紙厚や色の違う紙をA3、A4サイズで生産でき、生産量はA4用紙で1時間当たり720枚。水は湿度管理のために少量使うだけで、給排水設備は必要ない。バラバラになった繊維は、水に代わり独自の「結合素材」によって繊維間に結合をつくって紙になる。

(2017/3/21 05:00)

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