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【知財特集】経済発展に考慮した戦略の策定と実行

(2017/4/24 05:00)

業界展望台

  • 東京工業大学工学院 経営工学系・経営工学コース 教授 田中 義敏

先進国、新興国、発展途上国それぞれの見方

 社会・経済のグローバル化に伴って、グローバルな知財戦略の策定と実行が求められている。わが国企業の国際競争力の維持向上のために、海外市場をにらんで特許出願戦略はどうあるべきか、その視点を議論してみたい。

海外出願は過去最高

 企業の総売り上げに対する海外での売上比率は、着実に高まってきている。日本貿易振興機構の「世界貿易投資報告(2016年版)」によると、日本の上場企業186社の15年度の海外売上高比率は58・3%となり、過去最高を更新しているという。

 この傾向は今後も継続するものと思われ、企業の海外売上高比率の増加に即した知財戦略の見直しが必要となろう。とりわけ製品に使われている技術の独占排他的な保護が直接的に製品の売り上げシェアに影響するため、海外への特許戦略の策定が急務と言える。

 また、特許行政年次報告書2016年版によると、15年の日本からのPCT国際出願件数は、11年に比べ13・3%増の4万4051件と、過去最高を記録し、引き続き米国に次ぎ世界2位となっており、海外への特許出願件数は着実に増加している。日本企業における知財分野のグローバル化の進展の表れであると思う。

出願国選択の基準必要

 さて、外国への特許出願の判断にあたり、日本企業はどのような観点で出願国を決定しているのだろうか。一般的には、特許発明にかかる技術を用いた製品を製造、販売している国、加えて、当該製品を取り巻く競合企業が参入している国に対して出願していると言われるが、出願国を決定する要因としてこれで十分だろうか。

 知的財産制度がグローバルスタンダードとして世界中で導入されている今日、製造、販売、競合参入している全ての国に出願するというのは非現実的であり、この概念だけではあまりにも大ざっぱで出願件数が限りなく膨らんでしまう。何らかの基準で出願国を選択していくことが必要になる。個別には、対象となる特許発明の技術内容、基本性や改良性、当該出願国における市場の現状と将来、競合企業との関係、出願人企業におけるビジネス上の位置づけなど、多くの具体的要素が関係してくる。出願対象国の発展レベルなどを考慮して基本的な戦略についての考え方を整理しておくことが重要ではないだろうか。

 そこで、日本の技術が世界の中でどのようなポジションを確保してリーダーシップを発揮していけるかという視点で考えるならば、世界の国々の経済成長、市場の将来性、技術力などの観点からの検討も必要になるだろう。

世界の国々の経済成長を考慮した戦略策定の際の指標としては、先進国、新興国、発展途上国という国の経済発展レベルからの分析が必要であろう。

 すなわち、高度な工業化を達成し、技術水準ならびに生活水準が高く経済発展が大きく進んだ先進国への特許出願、冷戦終結後に急速に経済力をつけてきた発展途上国である新興国への特許出願、人口1人当たりの所得水準が特に低く第1次産業の比重が高いなど発展の程度を示す指標の水準が低い発展途上国への特許出願の考え方を、出願国の選択に当たり考慮することができる。

発展度合いで異なる考え方を

 イノベーションの対象技術は必ずしもハイエンドの先端技術だけではなく市場ニーズをさらに満たす改良技術も含まれるが、先進国における特許出願の対象技術は競争対象となるハイエンドの先端技術となるであろう。先進国に対しては、模倣が困難な先端技術を用いた製品により市場を拡大させることが重要であり、基本特許に比重を置いた選択と集中により、ハイエンド領域をリードしていかなければならない。改良出願、防衛出願は、先進国には不要であるとの割り切りが必要である。欧州においては改良技術に関する特許出願数は非常に少なく、特許権取得の対象とはならない。先進国に対してはハイエンドの特許出願に選択集中すべきではないだろうか。

 また、発展途上国では模倣が容易な製品が市場で拡販されているが、模倣が容易な製品は、もはや、わが国のコア技術ではない。また、ハイエンドの技術は模倣困難性を伴うものであるため特許取得による保護の必要性は少ない。模倣品の対象技術である低レベルまたは時代遅れの技術は、発展途上国でどのように保護すべきかよりも、どのようにして技術移転していくかの対象となり、特許出願の対象として重視する必要性は乏しい。

 判断が難しいのは、経済発展が著しく今後大きな市場拡大が見込まれる新興国への特許出願である。そもそも新興国という概念は、冷戦終結後に急速に経済力をつけてきた発展途上国であったが、時代とともに経済力が変化しているため、どの国を新興国として視野に入れておくべきかが難しい。中長期的な目で分析することが必要である。新興国のさまざまな定義は表1に示したが、これらは常にその発展度合いを注視しておく必要があり、わが国の海外ビジネスの展開にあたっても今後の推移を見守る必要がある。世界をにらんで、かなり多くの新興国を視野に入れておくことが必要である。

 そして、新興国における出願対象とする技術としては、先端技術に関する基本特許はもちろん、各国の市場ニーズをさらに満たす改良技術をも含めた両にらみでの出願戦略が必要となるであろう。

【東京工業大学工学院 経営工学系・経営工学コース 教授 田中 義敏】

たなか・よしとし 東京工業大学原子核工学専攻を修了後、1980年より91年まで特許庁、科学技術庁などにおける行政経験、92年から2002年まで欧州企業でビジネスを経験、02年から母校に戻り現在、東京工業大学工学院経営工学系教授。

【業界展望台】知財活用特集は、4/28まで連載中です。(全9回)

(2017/4/24 05:00)

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