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【知財特集】ビジネスモデル特許で第四次産業革命下の競争に勝つ

(2017/4/20 05:00)

業界展望台

◆収益モデルの転換が必要

  • 弁護士/弁理士 鮫島正洋

 近年、人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータの三点セットが産業構造の重要部分を占めるようになり、俗に「第四次産業革命」が到来したなどと言われている。「物」を大量に製造して販売しても十分な利益が出せなくなった昨今、この三点セットが脚光を浴びるのは、当然の成り行きに過ぎないと考えるのは筆者だけではなかろう。そうだとしたらこの流れを「革命」と呼ぶことが妥当なのかどうか、という議論もあるかと感じる。

 この議論はひとまずおいておいて、物を製造販売することによって利益が出なくなった時に考えるべき、収益化に向けた道筋がいくつかあろう。モノづくりとは全く関係しない分野で新たな収益を目指すというのもその一つだろうが、せっかくモノづくりにたけているのであれば、「物の製造販売」から「製造販売した物に関連するデータを利用したサービス」に収益モデルを転換するという考え方もあり得る。

◆データを保有し競争に勝つ

 製造販売した物に関連するデータは数多く存在する。その中には物の購入者の属性データ、購入者が物を利用する際に得られるデータなどがある。前者をモニタリングすればマーケティング活動に応用できそうだと気づいた者は、コンサルティングビジネスによって収益を得ることができる。後者の典型例は、体重計の購入者が測定した体重データである。これを収集できれば、体重計の購入者に対してダイエットや運動を勧めるという健康アドバイザリーサービスによって収益を上げることが可能になる。

 物に関連するデータは宝の山なのだ。そこに着目すると、物に関連するデータを効率よく収集できないかという発想が芽生えてくる。体重計の購入者に測定の都度、体重データを記録してもらい、定期的にメールで送信してもらうよりも、デフォルトで体重計をインターネットにつなぎ、体重データを吸い上げてしまった方がデータの収集効率が上がる。データが宝の山ならば、多くのデータを収集した者、もしくは、より早くそのインフラを形成した者が競争に勝つと考えるのが自然である。こう考えた末に登場した、データを効率的に吸い上げるためのモデル・手法は、後日IoTと呼ばれるようなった。

 IoTによって効率よく、自動的に吸い上げられてくるデータはやがて膨大な量になる。メモリーコストによる制約から一定量以上には蓄積できなかったデータは、やがてメモリーコストの制約から解き放たれ、膨大な蓄積量になり、ビッグデータを形成する。

 データが少ないうちは、何らかのアルゴリズムを作って収益につなげるべくデータ処理をしていれば用が足りたが、データ量が増え過ぎるとデータ処理が困難になる。それだけではなく、ビッグデータの中に、今までのアルゴリズムでは気づき得ない新たな宝の山が埋まっているかもしれない。人間の代わりに、膨大なデータと格闘し、新たなアルゴリズムを作り出してくれる存在はないのか。人間の何億倍もの記憶容量を持ち、疲れ知らずに24時間働く、人間の脳の構造を電子工学的に再現した脳があればそれが可能となる。AIは、そのような人間の欲求の末に登場した。

 ビッグデータ以外は20年近く前から存在していた概念である。ただ、これらの三点セットが「製造販売した物に関連するデータを利用したサービス」という観点で融合したのは、ここ最近の現象である。そのような現象を「革命」と称することは、あながち的外れではないかもしれない。

◆本質は技術革新ではない

 さて、AI、IoT、ビッグデータという三点セットの本質が以上のようなものだとしたら、それらに対して特許はいかなる役割を果たすことができるのであろうか。

 まず、特許として保全すべき対象は個々の技術ではなく、「新しい収益モデル」となる。なぜならば、この革命の本質は技術革新ではなく、そのような新しい収益モデルにあるからだ(図1)。一見すると非技術的に見える収益モデルを特許化することはできるのか。幸いなことに、わが国では十数年前から「ビジネスモデル特許」というジャンルの特許が認められてきた。当時からの実務的な蓄積がようやくここで花開こうとしている。

  • 第四次産業革命の本質

 それでは、収益モデルを特許化することに、事業戦略的な意味はあるのだろうか。かつてのビジネスモデル特許が実質的な競争力に転化されずに休眠してしまったことから、疑問の余地がある。

 アマゾンがいくら特許取得に力を入れても、インターネットによる物販を独占できないように、ビジネスモデル特許を取得して、ひとつの収益モデルを独占することは困難である。しかし、特許取得をすることに意味がないわけではない。

 あるサービスにおいて、ユーザーに訴求し得るオプション的な機能を特許化できたらどうなるだろうか。そのサービスのコンペティターは、そのオプション的な機能を採用することはできなくなる。あたかも、いわゆる「ワンクリック特許」を保有しているアマゾン以外のコンペティターが、ワンクリックによるカジュアルな発注システムを採用できないが如しである。

 このように、ビジネスモデル特許には、他社に先んじて考案したサービスにかかるオプション的な機能について、自社が独占採用することの法的な裏付けとなるという効果がありそうだ。そのオプション的な機能がユーザに訴求するものであればあるほど、シェアにつながるといっても過言ではない。

◆特許が事業戦略に直結

 「物を媒介としたサービスによる新しい収益モデル」においては、データを多く保有した者が勝つ。ビジネスモデル特許を取得してシェアを上げることができるということは、データの吸い上げ量が増えるということであるから、結果として、ビジネスに勝つという事業戦略に直結していく。このような原理を反映してか、休眠しているように見えたビジネスモデル特許の出願件数は近年、着実に回復をたどっている(図2)。

  • ビジネス関連発明の出願件数

 ビジネスモデル特許を出願しても、特許化には高いハードルが存在するのではないかとの懸念も考えられる。最近特許庁が公表した統計によると、ビジネスモデル特許の特許査定率〈注=全特許出願(出願後放棄された案件を含む)に占める特許となった案件の割合〉は、60%を超えた(図3)。ビジネスモデル全盛と言われた2000年頃の特許査定率が20%を下回っていたことを考えると、大幅な躍進であるといえよう。

 となると、ビジネスモデル特許を活用して事業競争力に資することは、第四次産業革命といわれる昨今、現実的な事業戦略、知財戦略であると言わざるを得ないのである。

  • ビジネス関連発明の特許査定率

【弁護士/弁理士 鮫島正洋】

さめじま・まさひろ 1985年東京工業大学金属工学科卒業。藤倉電線(現フジクラ)、日本IBM知的財産部。99年弁護士登録。2004年内田・鮫島法律事務所設立、現在に至る。12年知財功労賞受賞。「下町ロケット」に登場する神谷弁護士のモデル。

【業界展望台】知財活用特集は、4/28まで連載中です。(全9回)

(2017/4/20 05:00)

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