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製造業に新たな価値を―モノづくり日本会議で議論、事例も紹介

(2017/5/19 05:00)

モノづくり日本会議は4月12日、大阪市北区のアプローズタワーで価値創造型サプライチェーン検討会を開いた。製造業が品質、コストパフォーマンスだけでなく、デザイン思考などにより新たな価値創造を目指す必要性について、近畿圏を中心とするさまざまな業種が集まり議論した。大阪府八尾市が官民挙げて取り組んでいるクリエイティブ産業創出事業に参加する製造業も事例発表した。

【基調講演】オラクルひと・しくみ研究所代表 小阪裕司氏

《入り交じる「作る」と「売る」》

  • オラクルひと・しくみ研究所代表 小阪裕司氏

  • 価値創造型サプライチェーン検討会の会場内

私が取り組んでいるのは人の心と行動の研究で、例えば人が商品を欲しくなる気持ちはどういうメカニズムで起きるのか、といったこと。本日集まっている皆さんの多くはBツーBの取引をされていると思うが、ある会社が信頼できると感じるにはどんな要件が必要なのか、についても。研究で得られたヒントをどんどん実践の現場に投入し、結果をフィードバックする。こうした理論と実践手法を「ワクワク系」と呼んでおり、経済産業省の認定も受け、全国に広げようとしている。

検討会の問題意識は、良いものを開発し正当に売れる仕組みをつくろうということ。サプライチェーンの下流では値段の話ばかり問題になるのが現状。上流である製造業の皆さんが値段だけでなく機能性を盛り込み、クリエイティブな意味合いを込めて開発する。価値もモノもきちんと流れて、という状況を作らないとしわ寄せは上流に行く。

現在は「作る」と「売る」が複雑に入り交じっている。製造業はクリエイティブ産業になることについて考えなければならない。そのためにどんな感性を持ち、どのような商品をどう売るか。そうしたことについて問題提起していきたい。

【講演】ハーズ実験デザイン研究所代表 村田智明氏

《自社の感性価値を見極める》

  • ハーズ実験デザイン研究所代表 村田智明氏

本日のテーマである感性価値について言うと、私は2009年に経済産業省などが開いた感性価値創造ミュージアム in KOBEに実行委員長としてかかわり、西日本を中心に70品の商品を選んで、その商品がどんな感性価値を持っているか考える場を設けた。商品の成熟といった点で考えると、まず例えばコップが割れていたら商品価値未満。次に形は整っていても使いにくかったりする段階。さらに商品としての使用レベルは達成している段階など。そして値段が高くても買ってもらえるような商品を作るというのは、感性価値の段階に入ってくる。そうした価値を全国的に広げるのがミュージアムの考え方だ。

さまざまなグラスを並べて、直感で優劣というか好みの順位をつけてもらう実験をしたことがある。順位付け後に、それぞれの商品の歴史的背景などを解説すると順位が大きく変わる。背景感性価値がある商品の方が高く評価されるというわけだ。

そのように考えていくと商品を価値づける六つの要素があることがわかる。これをまとめて図示したものがヘキサゴングラフだ。まず背景感性価値は背景に物語があり、それを知ることで商品価値をより高められるというもの。企業にしつこいくらいヒアリングをすると創業時からの歴史などを発掘できることがある。受賞歴やメディア評価なども関係する。

新しい提案や発想の転換は、創造感性。新しい価値観や新しい機能などで、自動車の回生ブレーキなどマイナスをプラスにする考え方もある。実は日本人はこれが一番得意だ。次に技術感性。ナノテクやロボットといった先端技術もあれば、熟成技術もある。それから思想感性。文化感性ともいう。クールジャパンで世界にモノを売るには必要で、例えばわびさびといった日本古来の美学を商品に取り込むことを指す。古いものばかりでなく漫画などポップカルチャーもそうだ。

さらに五感に訴える感覚感性もある。視覚や聴覚に訴えるスポーツカーなどがそうで、生理的に受け入れてしまう要素だ。そしてなかなか難しいのが啓発感性。周囲を巻き込んで広がるもので、普通に売っている商品と震災のボランティアに関連した商品で値段が同じならどっちを買うか、といったことだ。啓発的な試みをしていくのが肝心だ。

商品の発信側と受け手であるユーザーとの間に共感があって初めて互いの感性が流れあう。ユーザーは商品を認知して共感し購入する。人間の歴史では直感による消費行動がずっと続いてきた。しかし昨今は自分の感性を信じずにSNSや口コミなどさまざまな情報が背景感性として先行して購入動機となる。これが現代の消費行動だ。さらにモノができてないのに企画に同意して購入するクラウドファンディング型も出てきた。新サービスを生み出すには自分の会社を一度分解して考え、どこに感性があるかを見極め、長所を伸ばしていくべきだろう。

【講演】memesスクエア代表 奥田充一氏

《価値もリスクもシェア》

  • memesスクエア代表 奥田充一氏

私は2008年、シャープ在籍時に英国に招かれて同国の官僚らとクリエイティブ産業についてじっくり議論する機会を持った。英国が国力を維持しているのは金融とクリエイティブ産業によるもので、特にブレア政権以降クリエイティブ産業に力を入れている。なるほど、モノを作らなくてももうかるのだとわかった。日本に帰るとシャープだけでなく日本の大手メーカーはこぞって海外に行ってしまっていて、残された企業はどうなるか不安を感じた。日本も早くクリエイティブ産業に移行しなければいけないと痛感した。

「クリエイティブ産業時代」の到来ととらえると、いくつかのキーワードがある。まず産業資本主義社会からポスト産業資本主義社会へと移行してきたということ。産業資本主義時代は労働集約型で作れば売れる時代。日本でいえば1980年代後半にはそんな時代は終わっていた。だから大企業は海外へ出て行ったのだが、私には漠然とした不安があった。世界を見回してみても欧州の一部と米国だけがクリエイティビティーを理解していて日本はじめ残り各国は労働集約型から現在も抜け出せていない。またポスト産業主義時代は多様な価値を認めていく時代でもある。各個人に価値観があり、それらをどうピックアップして、商品にしていくかが重要だ。

また、グローバル化が進むと新しい価値構造も生まれる。村田さんは感性と表現したが、私は価値と言おう。観念的価値、感性的価値、利用価値、基本価値。それらをユーザーが体験できれば商品のファンになってくれるし、ブランドも作られる。

商品をいくら作っても利益を拡大させなければ意味がない。そのためには知財的価値を大きくしなければいけないのだが、あるアイデアが社会に受け入れられるかどうかは最初から答えが出ているわけではない。だから事業主と、デザイナーや知恵を出した人は価値をシェアすべきではないか。それはリスクもシェアするということ。売れたら売れただけ価値が生まれるようにしておけば、クリエイティビティーが高い人の収入はどんどん上がることになる。

価値を分配する以前に、例えばデザイン料に補助金を当てていたら知的生産性は落ちてしまう。事業主体もデザイナーも自分の投資で仕事をすれば知的生産性にシビアになれるはずだ。

ある会社にリソースがあったとすると、それをどう使うか、どう磨くかには事業課題を踏まえた目標が必要だ。そして商品企画をして、デザイン企画、商品像開発、商品化デザインと進めていく。

いきなりデザイナーを使わなくても良い。どの段階にどのデザイナーが当てはまるかを見極める必要がある。STADIの場合でいうと参加企業にプロデューサーをつけているが、彼らがデザインしても良いし、外部から連れてきても良い。事業課題とユーザー価値を一致させるようなデザイン戦略が大切だ。

【事例紹介】八尾市製品・サービス開発型クリエイティブ産業創出事業(STADI)

《加工技術を生かしてデザイン性の高い自社製品》

  • 写真左からテクノグローバル社長・髙田弘之氏、さくら精機社長・村本一平氏、STADI事務局・多賀谷元氏

地元大阪から八尾市製品・サービス開発型クリエイティブ産業創出事業(STADI)の事例紹介も行われた。本年度が3年目で、奥田充一氏が産業政策アドバイザーとして総合的に助言し、村田智明氏ら有名デザイナーがプロデューサーとしてサポートする。まず西野賢二同市経済環境部産業政策課長が「(検討会活動が)更なる価値創造への一助となるよう期待する」との田中誠太同市市長のメッセージを紹介。後藤伊久乃同課係長がモノづくりの町と呼ばれる同市の概況のほか「製品開発力や営業力などが(市内企業が抱える)経営課題」と事業の背景を説明した。

STADI事務局を務める多賀谷元氏(大阪市都市型産業振興センター産創館事業部部長)は事業内容を解説。「中小にも商品開発などの戦略が大事。15年に10社を認定して毎月プロデューサーや専門家が各社を訪問し、事業計画をもとに開発を進めた。展示会などにも出し、いよいよ今年度は販売を中心に支援する」とした。

認定企業2社が取り組みを紹介。村本一平さくら精機社長は「社員数70人の中小企業で、事務機器などを企画、設計、開発し加工するものの、OEM生産中心でオリジナルブランドはなかった」と説明。自社商品の値段を自分たちで決め、販路を見つけて売ることに意欲を燃やしたという。村田プロデューサーのデザインで、アルミなどの枠がないホワイトボードを開発。室内空間に溶け込むデザインが特徴だ。「自社の強みを生かして内製化するようアドバイスを受けた。同じ商品でも新たな需要を探せることに気づいた」という。

高田弘之テクノグローバル社長は「金型製造、成型加工を行いベトナムでも生産。金型市場が激変し、BツーC商品開発を考えた」と自社を紹介。村田プロデューサーの指導で、長さは同じだが幅が違う秒針、分針、時針を備えた時計と、ティッシュボックスというデザイン性が高く加工技術を活用した2商品を開発した。「販路開拓の指導も受け、ショッピングサイトを準備している。プロデューサーには売り上げに応じロイヤルティーを支払う」という。「金型を作っているが、型にはまらず思いを形に変える」と意気込む。

参加者はグループに分かれて感想・意見を交換。登壇者との議論も白熱した。小阪氏は「製造業がクリエイティブ産業に変わっていく際も、肝心なのは人。考え方が変われば市場を作り、価値を創造する会社になれるはず」と締めくくった。

(2017/5/19 05:00)

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