産業春秋/鰻の味

(2021/7/28 05:00)

作家、向田邦子さんにとって鰻(うなぎ)のかば焼きは、しょっぱい涙の味がした。小学校3年生の時、肺門リンパ腺炎を患う。母に連れられ、よく病院近くの小さな鰻屋へ行った。

母は鰻丼を一人前注文する。(中略)鰻は母も大好物だが、「お母さんはおなかの具合がよくないから」「油ものは欲しくないから」口実はその日によっていろいろだったが、つまりは、それだけのゆとりがなかったのだろう(短編『ごはん』)。

きょうは土用の丑(うし)の日。養鰻業界の関係者によると、スーパーなどで販売されるかば焼きの価格は、昨年より若干値下がりしそう。養殖に用いる稚魚シラスウナギの採捕量は、2019年に落ち込んだが、20年から「比較的順調」という。

室町時代は夏の土用になると疫病にかからないようアズキやニンニクを水でのむ風習があったらしい。丑の日と鰻が結びつくのは江戸中期。発明家の平賀源内が鰻屋のために宣伝文を書いたとの説は、案外真実に近いのかもしれない。

業界関係者は“巣ごもり需要”の盛り上がりに期待をかける。自宅でオリンピックをテレビ観戦しながら、ハレの日のように鰻にかぶりつく。子どもたちには、どんな記憶を紡ぐ夏になるだろう。

(2021/7/28 05:00)

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