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[ 科学技術・大学 ]
(2015/12/15 05:00)
昨年に続き2015年も日本人がノーベル賞に輝いた。同賞は自然科学分野で最も権威ある賞であり、受賞者の数はその国力を示すともいわれる。科学分野における日本の受賞者の数は00年以降、米国籍も含めると16人に達しており、米国に次ぐ世界第2位のポジションを獲得している。
生理学医学賞を受賞した北里大学の大村智特別栄誉教授は、寄生虫による疾患の治療に革命を起こし、多くの人の命を救った。世界ではその名が知られていたにもかかわらず、日本では専門家以外で知る人は少なかった。
最大の理由が、薬を共同開発したパートナーが日本ではなく、米国の企業だったことだ。当時の日本では、「学問は神聖なものであり、産業界とは独立であるべきだ」との風潮が根強く、産学連携は歓迎されなかった。しかし、大村教授は米国時代の豊富な人脈を活用し、薬の開発を成功に導いた。これが後に”大村方式“として広がり、日本の産学連携の先駆けとなった。
一方、物理学賞は日本の伝統分野に再び光が当たった格好だ。素粒子ニュートリノに質量があることを発見した東京大学宇宙線研究所の梶田隆章教授が受賞した。02年に物理学賞を受賞した恩師の小柴昌俊東大特別栄誉教授、08年に死去した戸塚洋二東大特別栄誉教授らと連綿と続く「ニュートリノ研究の系譜」をさらに紡いだ。
米企業と共同で社会に役立つ特効薬を開発した大村教授と、日本のお家芸である素粒子物理学分野で人類の知をさらに深めた梶田教授。対照的にも見える両者の業績だが、研究環境と師に恵まれたことは成功の必要条件だったといえる。
翻って、現在の日本には若手が夢を持って研究できる環境が整っているだろうか。研究費が先細り、成果が急がれる環境では、独創的で長期的な研究に挑む意欲も削がれかねない。科学の発展の物差しとなるノーベル賞を今後も継続して輩出していくために、我々が果たすべき責任は重い。(藤木信穂)
(2015/12/15 05:00)