[ オピニオン ]
(2016/1/21 05:00)
労働安全衛生法が改正され、化学物質が健康被害を引き起こす可能性を調べるリスクアセスメント(評価)が6月から事業者に義務づけられる。塗料、洗浄液、メッキ、工作機械の切削油など、扱い慣れた化学品でも使用前にリスク評価を実施しなければならない。企業規模を問わないため、中小企業を含めた数十万の事業者が対象となると見込まれる。義務化まで半年を切っており、生産工程の多い事業者ほど対策が急がれる。
リスク評価は化学物質の「使い方」に着目した調査だ。強い有害性がない物質でも長年、体内に取り込むことで発がんなどの被害が起きるリスクを判定する。義務化の対象は640物質。作業で使う化学品に対象物質が含まれるとリスク評価が必要となる。
化学品の成分情報は、購入時にメーカーや代理店から受け取る「安全データシート」(SDS)で確認できる。また対象物質は厚生労働省のウェブサイト「職場のあんぜん」で検索可能だ。同省はインターネット上でリスク評価をする簡易システムも無料提供している。物質名と使用量を入力するとリスクレベルが分かる。
同じように日本化学工業協会が提供する評価システムでは、作業時間の変更や換気設備の導入によるリスクの軽減も盛り込んでいるので、対策の検討にも役立つ。会員企業の紹介があれば一般の事業者も無料で利用できる。
リスク評価には罰則はなく、換気などの対策も義務化していない。さらに評価が必要なのは作業手順を変えたり、新たに化学品を採用したりした時だけだ。
しかし従業員に健康被害が出れば経営者は責任を問われ、社会からの信頼を失う。そもそもの改正のきっかけが、2012年に印刷工場の作業者に胆管がんの発症が相次いだ労働災害だった。当時、大きな社会問題となった。
多忙な中で新たな義務を負うことは確かに負担だろうが、経営者は担当者任せにせず、自分の課題として化学物質管理をとらえてほしい。リスク評価は化学物質について知る機会となり、従業員への管理徹底の教育にもつながる。
(2016/1/21 05:00)