[ オピニオン ]
(2016/1/22 05:00)
政府は、中小・零細企業の社会保険未加入問題に改めて取り組む姿勢を示している。法に定める加入義務を怠った企業に言い訳は許されない。しかし、もともと現行の年金・医療保険制度には不十分な部分があり、そのしわ寄せが中小・零細にばかり及ぶようになっては困る。政府には、簡素で公平な制度運用をお願いしたい。
現行制度では、すべての法人事業所と雇用者5人以上の個人事業者は厚生年金と医療保険に加入する義務がある。保険料の半分は事業者負担だが、中小・零細ではこれを嫌った未加入が少なくない。未加入企業の従業員は国民年金と国民健康保険を利用するのが普通で、老後の年金額が社会保険より少ないなどの問題がある。
中小には休眠企業も多く、未加入の実態はよく分かっていなかった。日本年金機構は国税庁のデータ等を活用して給与支払い実績のある企業を特定し、加入督促を進めている。対象は79万事業所、従業員200万人に及ぶという。
保険料の事業者負担は支払った人件費の15%程度。未加入の中小・零細企業には耐えがたい額になることもあろう。ただ大多数の企業が適切な対応をしていることを考えれば、負担増を理由とした加入逃れは通用しない。対象企業は早期に体制を整えるべきだ。
社会保険の未加入問題がクローズアップされた最大の要因は、いうまでもなく社会保障の財源不足である。その面から考えると、この問題以外にも制度が不合理に思える部分が少なくない。
例えば法人は1人企業でも加入義務を負うが、個人事業なら義務はない。保険料負担に耐えられない小規模法人は解散して代表者が事業を引き継ぐ”個人成り“を選択するかもしれない。社会保険に加入してもパートやアルバイトなら対象外となるため、雇用形態にも影響しよう。また複数企業の社外役員を兼務して報酬を得ている場合など、保険料を合算で納付していないケースもあるだろう。
税に比べると社会保険の制度は複雑で、企業に認知されていない部分も目立つ。政府はそうした実態の改善に努めるべきだ。
(2016/1/22 05:00)