[ オピニオン ]
(2016/2/3 05:00)
兵庫県豊岡市で、地域の特性や自然の技術を採り入れながら新しいライフスタイルをデザインする試みが進んでいる。人口減少による公的サービスの縮小、企業の流出、さらなる人口減少という悪循環を避ける意味でも、示唆に富む試みといえる。
県北に位置する豊岡市は人口8万人強。2005年の1市5町の合併時と比べても8000人近く人口が減った。地方都市共通の悩みである限界集落、準限界集落を多く抱えている。
「豊岡ライフスタイルデザインプロジェクト」は、東北大学大学院環境科学研究科と共同でスタートした。資源の枯渇、気候変動など、2030年以降に想定されるさまざまな地球環境の制約下でも、心豊かな暮らしを実現することを目的としている。
ユニークな手法の一つが、90歳前後の市民からの聞き取り調査だ。「豊岡から失われつつある暮らし」「失いたくない価値」を、古老の話を参考に具体化する。科学技術振興機構の社会技術研究開発センター(JST―RISTEX)の「持続可能な多世代共創社会のデザイン」の研究課題にも採択された。この一環として、このほどシンポジウムを開いた。複数の地区の代表らが登壇し、それぞれの活動について報告した。
またシンポジウムでは、市の環境経済部が市内中筋地区で進めている「雪室プロジェクト」についての報告もあった。冬場の雪を利用し、電気を使わずに一年中野菜を保存できる雪室を保冷庫にすればランニングコストを大幅に低減できる。豪雪という制約条件を生かし、地域発の新ビジネスに結びつけようという試みだ。保存した野菜は学校の給食センターに供給する予定で、ビジネスとして成り立つ見込みという。
豊岡市のように限界集落を多く抱える地方では、コミュニティーの喪失が懸念される。住民自らが地域の個性、特徴を再認識し、誇りを取り戻すことは、政府が提唱する地方創生のカギといえよう。上意下達式や、多額のカネを要する公共事業とは異なる自立的な取り組みに期待したい。
(2016/2/3 05:00)