[ オピニオン ]
(2016/6/14 05:00)
富山と長野の県境、中部山岳国立公園内にある黒部ダムを訪ねた。長野県側からはトロリーバスでトンネルを通り、ダムに到着する。国内外から毎年100万人以上の観光客が訪れるという。
困難を極めた工事の様子は1968年公開の映画『黒部の太陽』に描かれている。トンネル工事で軟弱地盤の「破砕帯」から大量の冷水が噴き出し、死者が出た。三船敏郎や石原裕次郎らが自然と格闘する現場のリーダーを演じる。
2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、首都圏の建設需要は活況を呈している。関係者の表情も明るい。しかし昨年来、現場で相次いで発覚した不正行為が水を差す。
施工不良を隠すためにデータを改ざんするとは言語道断だ。現場の使命感を映画で表した泉下の名優もあきれているのではないか。何よりもまじめに仕事している事業者にとっては、業界全体が不正しているイメージで語られることがたまらない。
黒部ダムのように現場に光が当たるのはまれだ。建設の世界では現場はあくまでも黒子。不正行為で注目されるのは悲しい。主役の建造物を立派に造り上げることが現場の誇りだろう。見えない部分だからこそ、プロとしての仕事ぶりが問われるのではないか。
(2016/6/14 05:00)