[ 政治・経済 ]
(2016/7/5 05:00)
【交渉次第】
「ルールが多い欧州連合(EU)において、離脱手続きを定めたリスボン条約50条だけは驚くほど簡潔に書かれている」。6月末、都内で開かれた英国のEU離脱に関する討論会。司会を務めた上智大学のティナ・バレット准教授は、こう皮肉った。
EUは加盟するには基準や多くの決まり事があるものの、脱退手続きはあっさりしている。日本企業の関心が高い関税や人の移動などの細かい事項は明文化されておらず、すべては離脱する国とEU当局との交渉で決まる。
交渉期間の2年間はEU法が適用されるという猶予期間はあるが、交渉次第でいかようにもなりえる状況。それだけに日本企業の不安は募るばかりだ。
【調達に影響】
やっかいなのは英国とEUの関係がどうなるのか定まらないと、日本と英国の経済関係にも影響を与えることだ。英国がEUを離脱した後、日英は2国間の自由貿易協定(FTA)を結ぶ選択肢もあるが、早期に妥結できるとは限らない。仮に妥結できなければ、現在と同じ世界貿易機関(WTO)の枠組みが適用される見通しとなる。
しかし、そのWTOも、英国はEUの一加盟国として参加しており「英国単独になると、新たに加盟交渉が必要かもしれない」(外務省幹部)との声がある。加盟交渉は数年かかる場合もあり、WTOに入っていないと、適用されない税率もある。実は、日本から英国向け輸出税率が今後、どうなるのかも明確ではない。
こうした宙ぶらりんの状況は、日本から英国へ輸出ビジネスを手がける企業のみならず、在英日系製造業の調達戦略にも影を落とす。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によると、英国にある日本企業の部品・原材料の仕入れ先は現地調達が27%、英国を除く欧州が16%に対し、日本からが35%に達する(2015年度)。日英間の関税が変わってくると、調達戦略の再考が必要になる。
【米が焦点】
日本の輸出の1%しか占めない英国との関係でさえ衝撃が走っている。今後、懸念されるのは20%の割合を占める日本最大の輸出相手、米国の大統領選挙の行方だ。
過激な発言で知られる共和党のトランプ候補は、反移民や自国至上主義など多くの点で英国のEU離脱派と共通項がある。今回の国民投票の結果は「トランプ候補の追い風となる可能性がある」とみる向きも多い。
6月28日に米ペンシルベニア州で行われた演説でトランプ候補は「環太平洋連携協定(TPP)から離脱する」と明言した。英国のEU離脱選択で、世界の自由貿易の流れは逆回転するかもしれない。(おわり)
(編集委員・鈴木真央、編集委員・関口和利、栗下直也、杉浦武士、齊藤陽一、大城麻木乃が担当しました)
(2016/7/5 05:00)