[ 機械 ]
(2016/11/16 17:30)
切削加工の中でドリルによる穴あけ加工が占めるウエートは大きく、効率性の高さからその適用領域が拡大している。金型加工では高硬度の焼き入れ鋼への直彫りをドリルで効果的に行うことで生産性の向上が図られている。難削材など加工実績の少ない素材への対応も産業界にとって大きなテーマで、工具メーカーは加工精度や信頼性の向上、製品の長寿命化などニーズを捉えた製品開発により、モノづくりの課題解決を推し進めている。
難削材への対応課題
高まる存在感
ドリルによる穴あけ加工は電子機器や自動車、産業機械、航空機など幅広い分野で欠かせない技術。汎用の工作機械を使って高速で高効率に加工でき、生産性や付加価値の向上につながる技術として存在感が高まっている。
部品加工や金型加工では、加工精度の向上や生産リードタイムの短縮が厳しく求められるようになっている。このため、素材を粗加工した後に熱処理をして仕上げ加工を行うといったこれまでの一般的な工程では、ニーズへの対応が困難な状況になってきている。
そこで、焼き入れ処理した後の高硬度の素材に直接穴あけ加工することで効率化を図る取り組みがなされている。穴あけ加工後に熱処理しないので、熱処理に起因した素材の歪みによる穴精度の低下が抑えられる。これにより仕上げ工程が省け、効率化が実現する。
ただ高硬度鋼など焼き入れ後の素材への穴あけは、熱処理前と比べて切削抵抗が大きくなり、加工時に発生する熱も高まる。振動による影響も増える。これらがドリルの切れ刃欠損や本体折損の発生原因となり、工具寿命を縮めてしまう。
微細・複雑化
ドリルによる穴あけ加工は、加工点の状態が見えにくいので、ドリルに大きな負荷がかかるような異常が発生しても発見が難しい。これがドリル破損のリスクとなる。さらに加工が微細・複雑化し、難削材などの加工が増えるなかで、ドリルには以前にも増して高い耐久性が求められるようになっている。
このため、メーカー各社は工具材料の改善や独自のコーティング技術の開発、形状の最適化などを推進。耐久性や耐摩耗性、高精度化など品質を高める取り組みに力を入れることで、課題解決を進めている。
ドリルの長寿命化対策では、超硬合金コーティングドリルの開発が挙げられる。工具の素材に靱性を高める微粒子超硬合金を採用することで、耐折損性や耐欠損性をアップさせる。
このような超硬合金工具の素材は、コバルトをバインダーに、タングステン・カーバイドを焼結したものが一般的。これに化学気相成長(CVD)や物理気相成長(PVD)のコーティングを施し、アルミニウムやチタンなどを蒸着する。これらのコーティングは密着性に優れ、工具の耐摩耗性や耐靱性の向上に役立つ。
超硬合金工具の性能向上 製造現場の効率化に貢献
大幅な改善
超硬合金工具の技術進化に伴って、細穴放電加工やワイヤ放電加工に頼っていた高硬度鋼への穴あけ加工が、切削でできるようになっている。ドリルは放電加工に比べて高速で加工でき、時間短縮できる。放電加工で起こる変質層の発生もない。リードタイムとコスト面で大幅な改善が図れる。最近では硬さ70HRCの高硬度鋼の被削材でもドリルでの切削が可能になっている。
超硬合金工具を形状面から見ると、心厚を増して本体の曲げ剛性を高める対策などがある。切れ刃の欠損に対しては、ねじれ角を従来のドリルより小さくして刃物角を大きくする工夫や、外周コーナー部を丸みを帯びたR形状にすることで切削抵抗や耐熱性を向上する動きが顕著になっている。切りくずが排出されやすい形状への改善も耐欠損・折損性に影響する。
こうした取り組みによる超硬合金工具の性能向上は、製造現場の効率化に大きく貢献している。
難削材の代表格である炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、自動車や航空機分野などで工業材料として採用が拡大している。CFRP加工には、ダイヤモンド焼結体(PCD)を切れ刃に用いたドリルが多く適用される。
炭素繊維は鉄の10倍の強度を持ち、重量は4分の1程度で、強くて軽い。この炭素繊維に、主にエポキシ樹脂を含浸させたものがCFRPで、金属材料と比べて強度や弾性、耐食性に優れる。特に航空機業界では燃費向上やメンテナンスコストの低減が強く求められ、CFRPの利用が進んでいる。
劣化の危険
CFRPへの穴加工は、繊維層間はく離(デラミネーション)と表面はく離、未切断繊維(バリ)の発生をいかに防ぐかがカギとなる。CFRP自体が高剛性のためドリルの刃先が摩耗しやすく、工具寿命が極端に短くなる問題がある。またドリルとCFRPとの間で発生する摩擦熱は、層間はく離を引き起こす一因となり、樹脂を劣化させる危険もある。
樹脂の耐熱温度は200度Cと低いため、加工スピードを上げられない。とりわけ、デラミネーションによる強度低下は品質管理面から大きな問題となる。鉄やアルミ合金への穴あけと比べると非常に困難な加工で、工具メーカーでは耐摩耗性の向上と切削抵抗の低減を両立する専用工具の開発を進めてきた。
PCDドリルが使われるのは、加工効率を妨げる問題に対応するため。PCDの熱伝導率は超硬合金の約10倍で、高硬度で耐摩耗性に優れており切削面の品質を長く維持でき、刃先材料に最も適していると見られている。さらに加工には、デラミネーションやバリの発生を誘発する可能性が比較的低いねじれ角度の小さい多刃工具が有効とされる。
刃先高強度に
従来のPCDドリルは、PCD素材を超硬ドリルにロウ付け接合したものが一般的。最近では、PCDと超硬合金を同時に焼結したPCD超硬合金一体焼結型ドリルが注目されている。一体焼結のためロウ付けによるPCD素材の脱落がなく、刃先を高強度に保てる。
これまでデラミネーションやバリの発生を抑えるにはドリルが抜ける際の送り速度を抑え、加工による負荷を低減することが重要視されてきた。しかし、PCD超硬合金一体焼結型ドリルは毎分300メートル以上で高速切削加工してもドリルの温度上昇やバリの発生を抑制する。こうした製品が次々に登場するなど、難削材の加工技術は急速に進展している。
CFRPなど難削材の利用が拡大するなかで、これにドリルで高精度・効率的に穴あけ加工できれば、競争力強化や差別化に大いに役立つ。工具メーカーも製品・技術の進化に向けた取り組みを続け、新たな価値を生み出していく構えだ。
(2016/11/16 17:30)