[ 科学技術・大学 ]

昭和南海地震から70年−南海トラフ地震、生かせ過去の教訓

(2016/12/19 05:00)

  • 昭和南海地震。当時の徳島県海南町(現海陽町)、海岸から約300mの耕地内に打ち上げられた貨物船(徳島地方気象台提供)

1400人以上の死者・行方不明者が出た昭和南海地震から、21日で70年がたつ。巨大地震が繰り返し発生する南海トラフでは、地震の規模を示すマグニチュード(M)8―9クラスの地震が30年以内に70%程度の確率で起きると言われている。70年前の被災経験を風化させず、教訓を今日の防災に生かす取り組みが求められる。(福沢尚季)

日本列島がある大陸プレートの下に、フィリピン海プレートが南側から年間数センチメートルの割合で沈み込んでいる場所が「南海トラフ」だ。

【30分後に大津波】

プレートの沈み込みに伴い、プレートの境界にひずみが蓄積する。過去1400年間に約100―200年の間隔で、蓄積されたひずみを解放する大地震が発生している。

昭和南海地震は、1946年(昭21)12月21日4時20分ごろに発生した。約30分後には、高さ4―5メートルの大津波が和歌山県の広村(現広川町)を襲った。

広村は、村全体が浸水した1854年の安政南海地震の教訓から、堤防が建てられており、村の居住地区の大部分を津波から守ることに成功した。被災経験を防災に生かした事例と言える。

【発生確率70%】

  • 南海トラフ地震防災対策推進地域

政府の地震調査研究推進本部は13年に、南海トラフで30年以内に70%程度の確率でM8―9クラスの地震が発生すると公表。震度6弱以上の揺れに見舞われる上、防災体制の確保が必要な地域を「南海トラフ地震防災対策推進地域」として1都2府26県707市町村を指定した。

さらに、地震発生後、30分以内に津波によって30センチメートル以上の浸水が生じる地域を「南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域」に設定した。1都13県139市町村に対し、防災対策の必要性を呼びかけている。

また、13年の被害総額の想定では、M9・1の地震が起きると仮定した場合、建物の被害や生産・サービスの低下などを合わせ、最悪で220兆円と試算。これは東日本大震災の10倍以上の規模だ。

【見極め冷静に】

ただ、耐震や防火対策などをすれば被害額は、半減できるとしている。地震のリスクを冷静に見極めつつ、政府と自治体、民間企業が一体となった緊密な対策が求められる。

■専門家はこう見る-海底ケーブル整備、万全に

《東京大学地震予知研究センター長、政府地震本部・地震調査委員会委員長 平田直氏》

  • 東京大学地震予知研究センター長 平田直氏

《専門家はこう見る(1)東京大学地震予知研究センター長、政府地震本部・地震調査委員会委員長 平田直氏》

―南海トラフ地震に対して企業が備えておくべきことは。

「東日本大震災で、都内は被災していないにもかかわらず、500万人が帰宅困難者になった。ホテルやコンビニが自主的に帰宅困難者を受け入れた一方で、早期退社を促した企業も多かったが、この対応は矛盾している」

「南海トラフ地震でも、名古屋や大阪といった大都市で非常に強い揺れが発生し、被害が出ることが予想される。大きな事業所の従業員が帰宅を始めると、ただでさえ通りにくい道が人や自家用車であふれる。そういった事態を防ぐ準備が求められる」

―地震や津波の観測システムの整備は。

「日本海溝付近の海底に『S―net』、南海トラフ周辺の深海底に『DONET』があるが、南海トラフの西側、四国の沖合は未整備だ。南海トラフでの地震・津波の発生を一刻も早く検知し、津波予測をするための海底ケーブルが必要だ」

「具体的にどこで観測をすべきかといった検討は始まっている。整備費用は200億―300億円程度かかるが、南海トラフで地震がいずれ起きるのは間違いない。海底で津波の観測をして何分後に大きな津波が来るかを予測し、警報を出す仕組みは絶対に必要だ」

■専門家はこう見る-大学が官民の仲介役に

《京都大学防災研究所教授、政府地震本部・政策委員会委員長 中島正愛氏》

  • 京都大学防災研究所教授 中島正愛氏

―熊本地震では震度7の揺れが2回発生し、被害が出ました。

「ある程度の規模の地震なら、同じ規模の地震が3、4回来てもすぐに倒壊にはつながらないと分かっている。そこで、自社の建物はどれくらいの揺れが2回続いたら危険か、という限界点を正確に把握する必要がある。まずは建物構造の専門家に診断してもらい、耐震補強の必要性を確認してほしい」

―各地で地震が起きても、経験が積み重なっていないという指摘もあります。

「被災時は、地方自治体が真っ先に対応に当たる。そこで、行政とガスや水道、道路といったライフライン系の企業や住民が日ごろから対話し、いざという時に備える仕組みが必要だ」

「被災時の対応には土地勘や人間関係、経験が有効だと言われている。各都道府県には大学があるが、ほとんどの大学が防災センターを設けており、専任の教員がいる。そういった教員が行政と企業の仲介役となる例もある」

「大学は第三者的な意味での中立性を持ちつつ、いろいろな人が集うのに抵抗感がない場所。普段から流通や、避難経路などの事業継続計画(BCP)について話し合っておくことが大切だ」

(2016/12/19 05:00)

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