[ 化学・金属・繊維 ]

三菱ケミなど素材各社、M&A活況−既存事業の限界突破

(2017/1/1 05:00)

  • 富士フイルムは再生医療事業を強化するため和光純薬工業を1547億円で買収する(16年12月)

素材業界は2017年もM&A(合併・買収)の熱が冷めることはなさそうだ。最近の活況には日銀のマイナス金利政策導入による資金調達コスト減などの遠因はあろうが、現状への焦りが各社の背中を強く押している。既存事業・市場での成長限界を打破すべく、新たな領域を目指す。キーワードは「グローバル」と「ライフサイエンス」だ。

■進むグローバル化

富士フイルムは武田薬品工業の子会社で総合試薬メーカーの和光純薬工業(大阪市中央区)の大型買収を決めたばかりだが、すでにその次も見据えている。助野健児社長は「既存技術や市場の知見を生かせて、1+1が3や4になる案件に限り、この先もあらゆる領域でやっていく」と断言する。

他の化学大手では、三菱ケミカルホールディングスが16―20年度にM&Aなどの累計投融資を従来比で1000億―2000億円増額する方針だ。越智仁社長は「10年後の市場変化を見据えて、技術や販売チャンネルなどへの投資が必要になる」と語り、世界で成長の見込める機能商品分野に重点配分する。

インドの農薬大手を買収した住友化学の十倉雅和社長は17年のM&A方針について「ライフサイエンスが中心になる。グローバル・フットプリント(海外網)の強化に向けて良い案件があれば買いたい」と言い切る。旭化成の小堀秀毅社長も、「数百億円のM&Aや資本提携を逐次やっていきたいし、常に候補は挙がっている」と意欲満々だ。

「ライフサイエンス分野を化学品事業の新たな柱にする」。欧州バイオ医薬製造大手を600億円で買収すると発表し、旭硝子の島村琢哉社長はこう語気を強めた。従来の微生物を使ったバイオ医薬製造事業に、欧社の動物細胞技術を組み合わせて事業領域の拡大を図る。島村社長は「既存事業とのシナジーが見込めればM&Aは積極的に行う」といい、17年はさらに“次の一手”を打つ公算が大きい。

鉄鋼大手では、新日鉄住金がフランスの大手鋼管メーカーの持分法適用会社化やブラジルの高炉大手のウジミナスへの追加出資に大金を投じている。「良い案件があれば、いろいろ検討していく」(進藤孝生社長)と、さらなるM&Aの可能性も否定しない。

JFEスチールも現行の3カ年中計で、2000億円の海外投資枠を設定。ただ、ベトナムの高炉プロジェクトへのマイナー出資や、メキシコにおける自動車用鋼板の合弁事業立ち上げなど空白領域への資本投下が今のところ主な案件だ。

一方、神戸製鋼所は以前から「業界再編は私の頭にはない」(川崎博也社長)と断言するように、独自路線を歩む。鉄鋼や非鉄、機械など社内の経営資源の相乗効果を優先させる戦略だ。

■買収で一貫生産実現

日本製紙は16年6月、米国の林産・木材加工・製紙大手であるウェアーハウザー(ワシントン州)の飲料用紙容器(紙パック)原紙事業を買収することで合意し、9月に全額出資子会社「日本ダイナウェーブパッケージング」として操業を始めた。米社は日本紙にとって紙パック原紙の調達先だったが、買収により原紙から加工まで紙パックの一貫生産を実現した。

国内紙市場が縮小し続けるなか、日本紙は中計で既存事業の競争力強化とともに事業構造転換を経営課題に掲げ、子会社売却や中国企業との資本提携解消など構造改革を推進。その一方、成長が見込まれるアジア市場に狙いを定めて製品輸出だけでなく、手にした資金を生かすM&Aを模索する。

段ボールや紙パックなどのパッケージング事業は、紙おむつなど加工品のヘルスケア事業と並ぶ重点分野で、今回の買収により従来の板紙(段ボール原紙)に加え、紙パック原紙でも印刷・紙工など川下展開を進める態勢が整った。「飲料用紙容器原紙が手の内に入ったのだから当然、M&Aを含めコンバーティング(素材加工)への展開も考えられる」(馬城文雄社長)としている。

M&A市場は活況を呈しているが、手放しで喜べない側面もある。「当初聞いた金額からすぐに3倍、4倍に高騰する」(化学大手幹部)とバブル状態を危惧する声は少なくない。

買収先の実力を正しく反映していない“高値つかみ”は、のれんの減損リスクを膨らませ、各社の持続的な成長の足かせになりかねない。

17年の素材各社はM&Aに対して積極的な姿勢を堅持しつつ、一方で冷静な経営判断も必要になる。不透明な世界経済の下で一段と難しいかじ取りが求められる。

(2017/1/1 05:00)

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