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深層断面/東芝「半導体」上場で再建へ-分社化や出資受け入れ検討

(2017/1/19 05:00)

米原子力発電事業に関する巨額損失リスクに揺れる東芝。危機脱却に向け重要な役割を担うのは半導体メモリー事業だ。東芝は18日、半導体メモリー事業の分社化を検討していることを明らかにした。外部企業から出資を受け入れ資金調達する案が検討され、米ウエスタンデジタル(WD)など複数企業が興味を示している。総合電機メーカーの経営再建を振り返ると似通った例がある。NECだ。東芝の半導体事業再編は、それと同じような筋書きで進む公算が大きい。

  • 東芝の四日市工場

  • 3次元構造のNAND型フラッシュメモリーを生産する新第2製造棟の内部

  • 四日市工場の新棟稼働で会見する東芝の綱川社長(中央)と米WDのスティーブ・ミリガンCEO(左、16年7月)

■米原発の巨額損失響く

【カネのなる木】

東芝が金融機関に向け米原発事業の損失リスクについて都内本社で説明会を開いた10日、四日市工場(三重県四日市市)では半導体メモリー事業の方針説明会が開かれた。

東芝幹部は冒頭で「減損問題で心配を掛け申し訳ない」と謝罪したが、「半導体メモリーの設備投資は必ずやる」と強調。その後の懇親パーティーでは数百人のサプライヤー関係者らが笑顔をみせた。業績好調な半導体メモリー事業はカネのなる木。東芝の命綱だ。

同社は2016年12月27日、原発事業の中核を担う米子会社ウエスチングハウス(WH)を通じて買収した米CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)の資産価値を見直した結果、数千億円規模の減損損失が発生する可能性があると発表した。2月中旬に予定する16年4―12月期決算の発表までに減損額を明らかにする見通しだが、株主資本の毀(き)損は避けられない。

そこで資金調達策として現実味を帯びてきたのが、メモリー事業を主体とする半導体事業の分社化だ。

【需要が急増】

東芝はスマートフォンなどに搭載する「NAND型フラッシュメモリー」に特化してメモリー事業を展開している。NANDメモリーはスマホの大容量化に伴い需要が急増しているほか、中長期的にもデータセンター向けや、フィンテック(金融とITの融合)関連など新分野の市場も伸びる見通し。また東芝は、シェア首位の韓国サムスン電子とともに2強を形成しており、価格面などで競争を優位に進められるポジションにある。

東芝は、18年度の全社の営業損益目標である2700億円の黒字(15年度は7087億円の赤字)のうち、メモリーを主体とする部門「ストレージ&デバイスソリューション(SDS)社」が5割弱に相当する1300億円を稼ぎ出す計画を掲げてきた。ただSDS社は16年度内にこの目標を達成する見通しで、18年度に向け「さらに収益力が高まっていく」と東海東京調査センターの石野雅彦企業調査部シニアアナリストはみる。

【勝てる博打】

波はあるにせよ今後も高い市場成長が期待されるNANDメモリービジネスは、「張れば勝てる博打」(半導体製造装置メーカー幹部)で再編の動きが出てきた。16年12月には韓国SKハイニックスと、ハードディスク駆動装置(HDD)などを手がける米シーゲートが、NANDメモリーを使った記憶装置「SSD」事業での提携を検討していることが明らかになった。業界関係者は「今後、NANDメモリーの品薄感が高まる見通しで、シーゲートは数量を確保することも狙い」と解説する。

東芝の半導体事業を巡っても「出資したいという会社はいくらでもある」と石野シニアアナリストは指摘する。

実際、東芝とメモリーの主に生産面で協業するWDのほか、メモリー分野では下位に甘んじる米インテルも興味を示している。またIHSグローバルの大山聡主席アナリストは「一般論としてシーゲートや米マイクロンテクノロジーに出資を募るのも選択肢の一つ」と話す。

  • 米ウエスチングハウス製の原子炉を採用した米の原子力発電所(ブルームバーグ)

■NECの事例参考―主力行と思惑の違いも

【親子上場】

半導体事業の分社が具体化した場合、その道筋についてはNECの事例が参考になる。

遡ること約14年前。NECは02年に半導体事業を切り出し、NECエレクトロニクスを100%子会社として設立した。03年には異例とも言えるスピードで東証1部に上場させた。NECは新規株式公開(IPO)時に株式の30%を放出し418億円を調達、NECエレも937億円を調達した。NECエレがルネサステクノロジと統合し、10年にルネサスエレクトロニクスが発足するまで、NECとNECエレは親子上場という形で経営再建を進めた。

実はこのスキームを支援したのが、三井住友銀行とみずほ銀行。両銀行は東芝の主力行で、現在の経営再建を主導している。

【再建の確実性】

今後、一つの焦点となるのは東芝が分社化した半導体子会社が、外部からの出資をどの程度受け入れるか。東芝本体が株式の過半数を握り続けることは確実視されるが、銀行と東芝との間には思惑の違いもみえる。銀行側は「(支援を継続する条件として)それなりの意思を示してもらいたい」(取引先銀行幹部)としており、東芝に早期に資本を受け入れ自力で資金調達するよう促す。顧客が株主になればメモリーの安定供給先を確保でき、経営再建の確実性が高まる効果もある。

一方、東芝は「もちろん半導体事業を分社化し、すぐに外部からの出資を受ける選択肢もあるが、それだと買い叩かれる可能性がある」(幹部)とみる。また半導体事業の運営上の不安定要素が増えることへの警戒感もある。業界では「半導体事業を上場させれば、2兆円の価値はある」との見方もあり、東芝では上場まで全株式を保有し続ける案を推す声も根強い。

一連の不適切会計問題、そして16年末に突如明らかになった米原発事業の減損リスク。16年度に綱川智社長の新体制が発足し、再スタートを切ってからも経営陣に対する不信感は払拭されておらず、東芝の発言力は低下している。両者の綱引きは、半導体事業を分社化し、同時に外部から資本を受け入れるという銀行案を、東芝が受け入れる形で決着するシナリオが優勢だ。

(2017/1/19 05:00)

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