[ オピニオン ]

【電子版】論説室から/トランプ大統領とグローバル経済

(2017/1/26 05:00)

昨年に創設50周年を迎えた東南アジア諸国連合(ASEAN)。その創立メンバーであるインドネシア、タイ、マレーシアなどは、いずれも当初、国内産業保護の「輸入代替型工業政策」を取っていた。しかし、1970年代末ごろから、自国の優位さを生かせる「輸出志向型工業政策」による経済成長に舵を切り、今日のASEANの繁栄の礎を築いた。

一方で、80年代に入ると、中国が沿岸部を中心とした「開放経済政策」を本格展開して「世界の工場」となり、経済大国への道を歩む。さらに、インドは90年代に入り、国際通貨基金(IMF)の勧告を受け入れ、独立後堅持していた社会主義的な「混合経済政策」を放棄し、経済の自由化を進めた。その結果、中国経済が停滞している今、インドは世界が注目する直接投資先となり、7%台の経済成長を達成している。

いずれの例でも、経済の開放とグローバル化が各国の経済発展を後押しし、ITの普及がそうした動きを加速していることが分かる。そもそも米国のIT開発を担ったのは、IC(インド人と中国人)でもあった。

さて、20日に発足した米国のトランプ政権の政策である。トランプ大統領は就任演説の中で「米国産品を買い、米国人を雇う」とした。自国産品愛用などといわれると、インドの独立闘争時に、マハトマ・ガンディーが唱えた「スワデーシ」を思い出してしまう。トランプ演説は米国の暗い面を強調し、「強い米国」の復活を鼓舞した。

トランプ大統領は就任当日、オバマ前大統領が推し進めた医療保険制度改革法(オバマケア)を見直す大統領令を発令。独自政策履行へのベルを鳴らした。同日、ホワイトハウスのウェブサイトにエネルギー、外交、雇用と経済、国防力の再建、移民と治安、貿易の6分野に分類した基本政策を掲載した。エネルギーでは、オバマ前政権が定めた地球温暖化対策の行動計画などを「有害で不要」な政策として撤廃を表明。50兆ドルと推定される未開発のシェールオイル・ガスといった国内資源を活用し、石油輸入依存からの脱却。その利益で学校などのインフラ整備を推進すると表明した。

外交では、イスラム過激勢力である「イスラム国」(IS)などのテロ組織撲滅に向け、必要なら連合を組み軍事作戦を敢行するとした。テロ組織の資金調達を阻止し、情報共有を拡大し、宣伝や勧誘を阻止するサイバー戦を進めるため、国際協力の推進も明記した。雇用・経済では、今後10年間に2500万人の雇用を創出し、4%の経済成長を目指し、所得税・法人税の大幅減税を掲げた。治安・移民に関しては、法執行機関を強化し、不法移民や犯罪集団、麻薬の流入を阻止するため、メキシコとの国境に壁を建設、暴力的な犯罪歴を持つ不法滞在外国人を送還するとした。貿易では環太平洋連携協定(TPP)から離脱し、北米自由貿易協定(NAFTA)に関しても再交渉。また、米国の利益を害する国には断固たる措置で対抗する、などとしている。

「米国第一」の政策のオンパレードだが、具体策はまだ示されていない。前述のように、トランプ大統領の就任演説では、米国の暗い側面が強調され、その側面はワシントンをはじめとする既得権層が招いた、との批判が込められている、と欧米紙などが分析している。同大統領は23日、TPP離脱の大統領令に署名。米国のTPP離脱が現実なった。大統領選の時と同様な、アジテーション気味の政策表明だが、その公約を「即実行」している。

米国は93年ごろから始まったインターネット時代を先導し、IT、ICTで先端を走り、現在では生命科学、ロボット、人工知能(AI)、自動運転、航空宇宙といった分野でも先頭集団を率いている。

こうした米国の強さの主因は、有能な人材を引き付ける「磁力」にあった、と思われる。米国の磁力に引き付けられた有能な移民が米国の豊かな社会づくりに貢献したことは歴史が証明している。この磁力があるからこそ、不法移民の流入も相次ぐ。そうした移民はカリフォルニアなどでの農業労働や危険な作業、低賃金労働などを担う。

移民は、米国の繁栄の「エンジン」ではなかったのか。1990年代の中ごろ、米国駐在を離れる際に、息子が通っていた小学校の20代の女性の担任教師が「いつでも戻ってらっしゃい」と言ったのが忘れられない。「米国が一番」といった矜持に満ちていた。

トランプ大統領の就任演説を聞き、その後のトランプ政権の動きを見ると明るい気持ちにはなれない。トランプ政権は、日本に「TPPを批准したようですから、それをベースにして、二国間の自由貿易協定を結びましょう」と交渉してきそうだ。23日には中国と同様、日本との貿易も「不公正」と貿易赤字是正を求める姿勢を鮮明にした。米国はたぶん、日本の批准したTPPの内容を「最低条件」として、農産物などの大幅関税引き下げを求めてくるだろう。日本は、トランプ大統領の好む「メイク・ディール(取引交渉)」に対する間合いをどうすればいいのかをまず考えるべきではないのか。

(客員論説委員 中村悦二)

(2017/1/26 05:00)

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