[ トピックス ]
(2017/3/13 05:00)
ICT・ビッグデータ対応
米国の建設機械市場が、トランプ政権のインフラ投資への期待感が先行する形で熱を帯びている。ラスベガスで11日(現地時間)まで開かれた北米最大級の建機展示会「コネクスポ」では、大手建機メーカーが需要回復を見据え、新型機や最新の工事支援技術をこぞって披露した。情報通信技術(ICT)や工事のビッグデータ(大量データ)を生かす競争が本格化していることも印象づけた。低迷のトンネルを抜け出した後の各社の戦略が明確化してきている。(米ラスベガス=孝志勇輔)
作業支援サービス拡充
【商機を逃すまい】
コネクスポは3年に1度開催される展示会で、世界の建機メーカーやディーラー、工事関係者が集結する。会場には5日間の会期中、商機を逃すまいとする雰囲気が充満した。コベルコ建機の三木健取締役専務執行役員は「前回のコネクスポよりも活気がある。我々は油圧ショベルなら何でも(需要に)応えられる」と拡販への意欲を燃やす。
米国の足元の建機需要は楽観できない。コマツによると、一般向けが堅調なものの、レンタル向けの機種が低迷しているという。こうした現状で、トランプ政権が始動したのは建機市場にとっては好材料。10年間で累計1兆ドル規模のインフラ投資を表明したためだ。石油やガスのパイプラインの建設に伴う資源開発も追い風で、早くも拡大局面を織り込むかのように市場の潮目が変わろうとしている。
【データ分析と建機融合】
建機最大手の米キャタピラーは需要動向を踏まえながら、コネクスポで建機の性能に加えて、ビッグデータなどの活用によるサービス路線を鮮明にした。主導するのが、ジョージ・テイラー最高マーケティング責任者(CMO)。例えば、建機部品の電子商取引(EC)サービスで、訪問者の行動状況を分析している。購買の有無などを把握し、顧客が必要とする部品の提供につなげられる。一般的なEC事業者顔負けのデータの扱い方を身につけることで、部品やサービスの売り上げ増加を見込んでいる。
社内には「スマートな(賢い)建機の時代が始まっている」(ジム・アンプレビー最高経営責任者〈CEO〉)との認識も広がる。建機市場の変化に対応するのが、建機や施工、安全性を一元管理するサービス「キャットコネクト」。キャタピラーにとっては、現場の生産性を支援する切り札だ。建機技術とデータ分析を融合したビジネスモデルを確立する。
【日本での実績生かす】
コマツは測量から施工までの工事全般をICTで支援するサービス「スマートコンストラクション」(スマコン)を、コネクスポに初めて出展した。日本では建機各社に先行して始めたことで、工事現場のICT化の呼び水となり、米国にも持ち込んで顧客を開拓する。日本よりも早く全地球測位システム(GPS)搭載の建機が普及したことから、スマコンが浸透する下地は整っているといえる。施工品質を高められるICT対応のブルドーザーや油圧ショベルに加え、飛行ロボット(ドローン)による測量やクラウドでの工事データの管理などのサービスを提供する。
スマコンが受け入れられるどうかは、顧客対応力にかかっている。コマツは代理店の人材にICTの専門知識を身につけてもらうために、担当者の育成を進めてきた。ICT建機などの導入に向けて、担当者の役割は大きい。丁寧な支援を行き届かせることで、キャタピラーの牙城を崩しにかかる。
高性能で独自の強み
【一線画す性能で勝負】
一方、コベルコ建機は燃費性能を打ち出して、米国市場で商機を探る。リチウムイオン電池を搭載するハイブリッド型油圧ショベルに強みを持っていて、米国でマーケティングを強化する。現地では作業量の多いショベルが好まれる傾向だが、他社とは一線を画す機種で需要を取り込む。一般的なショベルとは異なり、「ディーラーの考え方を変える必要がある」(三木取締役専務執行役員)という。そのためハイブリッド機の提供に必要なサービス体制を整える。
日立建機は米州向け油圧ショベル事業での米ジョン・ディアとの提携がものをいう。コネクスポでも両社の展示スペースが一体化しており、長年続く結びつきの強さを物語っていた。新型機を複数出展していたが、両社のブランド力を生かして拡販できるメリットは大きい。米国市場をめぐる有力な陣営の一角として、キャタピラーやコマツとの競争で火花を散らす。
【底打ちの可能性も】
コネクスポの熱気だけを踏まえれば、市場はすでに反転しているかのように錯覚しかねない。需要が弱含んだままなのが実情だ。ただ、中国市場と同様に底打ちする可能性は高まっている。
建機各社はトランプ政権が進める政策の恩恵を受ける前に、ビッグデータやICTなど、商機が膨らむ要素を取り込む必要がある。需要の回復とともに、新たなビジネスモデルを構築する動きが加速する。
(2017/3/13 05:00)