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深層断面/核燃料サイクル、カギは「青森」−プルサーマル発電に軸足

(2017/3/20 05:00)

高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の廃炉が正式に決まってから、21日で3カ月がたつ。もんじゅの廃炉によって、使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル=用語参照」の軸足は実質、プルサーマル発電(用語参照)に移る見込みだ。そうした中、存在感を増しているのが青森県。使用済み燃料を貯蔵・管理する施設や再処理工場といった、核燃料サイクルに不可欠な施設の整備が進んでいる現地を取材した。(福沢尚季)

  • Jパワー大間原発の「運転訓練シミュレータ」

本州最北端の地・青森県下北半島。マグロ漁業が盛んな大間町や日本3大霊場の一つの恐山などでも有名だ。同半島は核燃料サイクルに関わる原子力関連施設が多いことでも知られる。

【六ヶ所村で再処理】

日本原燃は同半島の付け根に位置する六ヶ所村で、燃料の「ウラン235」を濃縮する事業や、原発の使用済み燃料から再利用できるウランとプルトニウムを取り出す「再処理」、全国の原発から発生した「低レベル放射性廃棄物」を埋設・管理する事業などを手がける。全国の原発で使われた燃料は、頑丈な輸送容器(キャスク)に入れて再処理工場に運ばれる。その後、一時保管やせん断・溶解、ウラン・プルトニウムと核分裂生成物の分離のほか、高レベル放射性廃棄物をガラス原料と混ぜ合わせて溶融する作業など、さまざまな工程をたどる。

施設は外国からも注目を集めている。日本原燃地域・業務本部広報部の赤坂猛部長は「韓国から2年間で4000人が視察へ来たこともあった」と話す。

【むつ市で貯蔵・管理】

核燃料サイクルは、放射性廃棄物を徹底管理する設備があって初めて完結する。むつ市にあるリサイクル燃料貯蔵のリサイクル燃料備蓄センターは、東京電力ホールディングス(HD)と日本原子力発電(東京都千代田区)の原発から発生するリサイクル燃料を、再処理するまでの間、安全に貯蔵・管理する施設だ。

同施設では「金属キャスク」と呼ばれる鋼鉄製の容器に使用済み燃料を貯蔵する。金属キャスクは全長約5・4メートル、直径約2・5メートル、重量約120トン。一つの金属キャスクには燃料を69体収納できる。金属キャスクはセンサーで温度管理が可能。使用済み燃料をプールで冷やす「水冷方式」は水質管理が必要だが、金属キャスクを使えば同方式に比べ、管理が容易だ。金属キャスクは二重のふたで放射性物質を閉じ込めるので、作業員は特殊な服を着る必要がない。さらに同キャスクの内部には不活性ガスを充填しており、水がない。そのため、水金属反応などで水素が発生する恐れがない。

金属キャスクを貯蔵する建屋は幅約62×奥行き約131×高さ約28メートル。給気口が空いており、自然の風が通り抜ける構造になっている。金属キャスクは使用済み燃料から発生する熱で温められるが、自然の通気によって冷やされる仕組み。

現在建設済みの建屋は3000トンの燃料を貯蔵可能。今後、2000トン貯蔵可能な2棟目を建設する考え。貯蔵期間は建屋・金属キャスクともに50年間。2018年後半の事業開始を目指し準備を進めている。

【大間原発で訓練強化】

一方、東日本大震災の影響で原発は稼働停止や建設計画が延期されている。現地では新規性基準への対応などを進め、稼働を目指している。12年に工事を再開し、着々と建設を進めているのがJパワーの大間原子力発電所(青森県大間町)だ。同原発は「運転訓練・広報センター」内に「運転訓練シミュレータ」を16年に設置。同シミュレーターは19年をめどに、炉心溶融などの過酷事故(シビアアクシデント)を想定した訓練を行えるように強化する。大規模災害にも対応できる人材育成が期待できる。

同発電所は08年の着工後、11年の東日本大震災に伴い本体建設工事を休止していた。敷地面積は約130万平方メートルで、出力は138万3000キロワット。

【東通原発に新防潮堤】

東通村にある東北電力東通原子力発電所は、青森県初の原発として、05年に営業運転を始めた。11年の東日本大震災時は点検中だったため稼働していなかった。同震災では津波が発生したが、沿岸部には2・6メートル以下の津波しか来なかったため、被害はなかった。

震災では被害を受けなかったものの、さらに安全対策を強化するため防潮堤を新設するなど、安全対策を講じ、再稼働へ向けて準備を進めている。

【福島の教訓生かす】

政府はもんじゅの廃炉を決めたものの高速炉開発の旗は降ろさず、フランスなどとの国際協力をふまえた実証炉の設計開発に乗り出す考えだ。しかし、具体的なスケジュールは明確にしていない。建設には候補地の選定などで期間を要するはずで、プルサーマル発電への期待も高まる。青森県内の各施設は、東京電力福島第一原発事故の教訓を生かし、安全対策を実施している。青森県が核燃料サイクル実現のカギを握っている。

【用語】核燃料サイクル=原子力発電所から出る使用済み燃料の中にある、まだ使えるウランや、新たに生成されたプルトニウムを再処理して繰り返し使うこと。

【用語】プルサーマル発電=原子炉で使用した後の使用済み燃料を再処理して、取り出したプルトニウムとウランを混ぜた「MOX燃料」を原子力発電所(軽水炉)で使う発電方法。

(2017/3/20 05:00)

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