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深層断面/東芝、売却へ“まな板の鯉”−WHの破産法、28日にも申請

(2017/3/28 05:00)

東芝が海外原子力発電事業からの撤退を急ぐ。早ければ28日、米原発子会社ウエスチングハウス(WH)が米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当=用語参照)の適用を申請する。東芝はWHを売却し、海外原発事業のリスクを断ち切る。ただWHは東芝の巨額損失の発生源になった“難あり物件”。スポンサー候補との交渉は難航必至の情勢だ。(後藤信之、渡辺光太)

  • 東芝は原発リスクを断てるか、いばらの道が続く

■スポンサー候補に安心感−裁判所主導で公平に

「アラブの富豪が買収に関心を示しているらしい」―。東芝がWH売却の方針を示した14日以降、原発業界や金融筋では真偽不明のうわさが飛び交っている。WHの“嫁ぎ先”がこれだけ注目されるのは、東芝の先行きに不透明感が強いことの裏返しでもある。

東芝は社会インフラ事業を柱とした経営再建策を打ち出したものの、WHを売却し、米原発プロジェクトという“バケツの穴”をふさがなければ再建はおぼつかない。

しかし、米原発プロジェクトは将来リスクが不透明なほか、顧客である電力会社との契約が複雑。また建設中のボーグル発電所の2基には、米政府が債務保証を付けている。関係者の利害が絡み合っており、スポンサー候補からすると手を出しにくい。こうした中、効果的な手段となるのが破産法11条の適用申請だ。

破産法11条の適用申請により、裁判所の主導による公平、オープンな環境下で、債務を整理し、再建策を検討することになる。企業法務に詳しい安國忠彦弁護士は「WHは自ら『まな板の鯉』になることで、スポンサー候補に安心感を与えられる」と説明する。また清算リスクが意識され、企業価値が下がることもスポンサー候補にとってメリット。

WHを売却できれば、米原発プロジェクトに関する電力会社とWHのEPC(設計・調達・建設)契約は書き換えられ、東芝は同プロジェクトから撤退し、経営再建への大きな一歩を踏み出せる。

■厳しい条件、難航必至

【将来リスク】

WHが破産法11条の適用を申請しても、スポンサー候補や電力会社、米政府を含む関係者との交渉は難航が予想される。WHが手がける米スキャナ電力のVCサマー発電所(サウスカロライナ州)の2、3号機、米サザン電力のボーグル発電所(ジョージア州)の3、4号機の建設は、いまだに大きな将来リスクを抱えるからだ。

それは建設コストのさらなる上昇。両原発とも08年に受注したが、この間、コストが増加し、巨額損失の元凶になった。東芝は2月、「相当に保守的」(畠澤守執行役常務原子力事業部長)に、完工までの追加コストを61億ドル(約6732億円)と見積もったが、業界では超過の可能性を指摘する声は少なくない。

WHのスポンサー候補は将来リスクを抑えるため、東芝に厳しい条件を突きつけてくる公算が大きい。61億ドル以上のコスト超過分について一定範囲内で東芝に負担を求めるケースが想定される。

また東芝にはWHに対する7000億円超の親会社保証がある。建設が完工予定日に間に合わなかったり、完工が不可能になったりすると、WHは電力会社から損害賠償を請求される。これをWHが負担できない場合、東芝が肩代わりしなければならない。通常、親会社保証は売却に伴って解除されるが、東芝は一部の継続を求められる可能性もある。

【買い叩きも】

スポンサー候補はこれらを見越し、WHを買い叩く可能性が高い。いずれにせよ“円満離婚”とはいかず、安國弁護士は「いろいろな交渉で、せめぎ合いになる」と指摘する。

さらにWHの破産法11条の適用申請により、東芝に一時的に損失が発生する公算も大きい。東芝はWHに対して投融資を実施しているとみられる。WHの債務を整理する手続きで、東芝の債権者としての地位は下がるため、金融筋は「債権放棄を求められるのではないか」とした上で「その場合、数千億円の損失が発生する可能性がある」と予想する。

東芝は米原発事業による巨額損失で16年度末に債務超過に陥る見通し。WHの破綻処理で追加の損失が発生すると、財務基盤がより弱体化することを避けられない。綱川智社長は14日の会見で「さらなる痛みを伴う改革が必要だが、経営陣で責任を持って進める。振り出しに戻った気持ちで、誠心誠意、努める」と表情を引き締めた。

メモリー新会社を高値で売却すること、米原発事業という底なし沼から脱すること、経営再建はいばらの道が続くが、腹をくくってやり切るしかない。

  • WHが原発建設を進めるVCサマー発電所

■WHの価値、3000億円?−経営感覚の問題

東芝は6000億円を投じてWHを買収した。そのWHの現在の価値はいくらなのか。ファンド関係者は「3000億円のバリューが出てもおかしくない」とする。原発の新設事業が赤字を垂れ流している一方、ストック型の燃料・サービス事業があるからだ。この事業の15年度の売上高は3786億円、営業利益は341億円と堅調で、綱川社長も「収益性は高く、評価してくれる企業もあるはず」と期待する。一方、ドイツが脱原発にかじを切るなど、世界では脱原発や原発縮小の動きが鮮明になっている。再度、東京電力の福島第一原発のような事故が発生すると、「世界の新設計画はストップするだろう」(業界関係者)。

安定事業とハイリスク事業を抱えるWHの価値をどう判断するか。「経済合理性というよりは、経営感覚の問題になってくる」(安國弁護士)。WHが韓国電力公社グループに支援要請したとの見方もあるが、同グループとの交渉がスムーズに進むのか、ほかにWHを高く評価するスポンサー候補が現れるか、予断を許さない。

【用語】米連邦破産法11条=日本の民事再生法に該当し、通称「チャプター11」と呼ばれる。スムーズに再建するため、対象企業の経営陣が引き続き経営するのが一般的。再建を目的とするチャプター11に対し、清算処理をする米連邦破産法7条がある。チャプター11が適用できない場合に清算処理に移行する。

(2017/3/28 05:00)

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