[ 機械 ]

工場用IoT基盤、開発競争本格化−故障の予測・生産を最適化

(2017/5/9 05:00)

  • 4月の新製品発表展示会ではフィールド・システムが高い関心を集めた(山梨県忍野村のファナック本社)

  • シーメンスのマインドスフィアの概念図

IoT(モノのインターネット)技術を使い工場の生産や設備保全を効率化する基盤システムを巡り競争が本格化する。ファナックは工場用IoT基盤を9月末に発売するのに先駆け、同システムで活用するアプリケーション(応用ソフトウエア)4種類を開発。三菱電機は第三者企業がアプリを開発できる製造業向けIoT基盤の構築に乗り出した。さらに独シーメンスは日本で産業用IoT基盤の提供を始めるなど各社が対応を強化している。(西沢亮)

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《ファナック/規模が強み 世界をつなぐ》

「我々の強みは『人口』だ」。ファナックの稲葉善治会長兼最高経営責任者(CEO)は4月28日、山梨県忍野村の本社で開いた決算説明会で、同社が開発する工場用IoT基盤「フィールド・システム」の特徴をこう表現した。

ファナックはこれまで工作機械などを制御するコンピューター数値制御(CNC)装置を累計約370万台、溶接や搬送などを手がける産業用ロボットを同約45万台出荷し、「世界で一番使われている」(稲葉会長)という。フィールド・システムは他社製のNC装置などもIoTでつなぎ効率化できるが、世界の工場現場で最も普及する同社製品との親和性が高く、ワンストップで連携できるのが強みとなる。

もうひとつの特徴が工作機械など各装置から集めた稼働情報を、ユーザーに近い製造現場などのエッジ(縁)にサーバーを設けてデータを処理する「エッジコンピューティング」技術だ。同社によると稼働情報をクラウドシステムに上げて処理する場合、早くても数十ミリ秒(1ミリ秒は1000分の1秒)かかっていたが、エッジコンピューティングでは処理速度を数ミリ秒に短縮できるという。

実際にロボットの制御では「数十ミリ秒も待っていたらぶつかってしまう」(稲葉会長)ことがあるため、フィールド・システムではエッジコンピューティングの採用でリアルタイム性の高い情報処理能力を確保。製造現場に設置したサーバーで情報を扱うため、クラウドで処理する場合と比べデータ通信費用の削減やデータ流出のリスクも低減できる。

また、アプリの開発もエッジ層での情報処理を重視したフィールド・システムと、クラウドを活用して製造現場だけでなくサプライチェーン全体の管理なども視野に入れた大型のIoT基盤で動かす場合と比べ、発想が全く異なるという。

【制御を熟知】

そのため稲葉会長は米ゼネラル・エレクトリック(GE)や日立製作所が手がける大型のIoT基盤「プレディックス」や「ルマーダ」などと「(フィールド・システムは)けんかしているわけではない。むしろ各社とより有機的な統合管理システムをつくるため良く話し合いをしている」と指摘。あくまでエッジ層での情報処理に特化し、制御を熟知したファナック固有の機能を追求する。

ファナックはフィールド・システムの販売に向け体制も強化する。4月に工作機械やロボットなど工場内の各機器の稼働情報を収集し、分析して改善に必要な情報を抽出するアプリなど4種類を開発。ソフトウエア開発会社など第三者企業が同システムで動かすアプリの開発キットの供給も始めた。また同システムを導入するシステムインテグレーターやソフト開発会社などのパートナーは400社近くに拡大し、「欧米でもパートナーに名乗りを上げてくださる企業がたくさんいる」(稲葉会長)。中途採用でソフトウエア技術者100人の募集も開始し、フィールド・システムや「次世代CNC」の研究開発を加速する。

《三菱電/オープンな開発環境・シーメンス/日本に商機》

三菱電機はエッジ層での製造業のIoT活用を支援する基盤「FA―ITオープンプラットフォーム」を開発する。第三者企業がアプリを開発できるほか、他社製の工作機械やロボットなどとも接続してデータ収集を可能にするなど、オープンな開発環境を提供する。4月以降に新基盤に対応したアプリの開発キットの提供を始めるなど、年内の実用化を目指す。

【方針を転換】

同社はこれまで自社の制御機器やロボットなどと、パートナー企業のIT(情報技術)製品を一括提供し、工場の稼働状況を「見える化」して生産改善などを支援する「e―ファクトリー」を提案。あくまで自社の工場自動化(FA)機器がベースで、他社の機器との連携には積極的ではなかった。

一方、新基盤ではオープンな環境を提供するなど従来の方針を転換。三菱電機の高橋俊哉執行役員は「従来の枠組みだけでは広がらない」とし、e―ファクトリーで連携するパートナー企業とのアライアンスの枠を超え、他社の機器や生産設備との接続も可能にすることなどで付加価値を提供し、新基盤の導入拡大を図る。

【他社と協力】

また、独シーメンスは4月から日本でクラウド型の産業用IoT基盤「マインドスフィア」の試験提供を始めた。

マインドスフィアは他社製の機器や設備などとも接続できるほか、オープンな開発環境を提供。工作機械などから収集した稼働情報をクラウドシステムで処理し、故障の予測や生産の最適化につなげる。

4月中旬にはジェイテクトと製造業のデジタル化領域での協力を開始。ジェイテクトはマインドスフィアを採用するほか、同基盤で活用するアプリを開発する。シーメンスや第三者企業、ジェイテクトの工作機械などを活用する顧客が開発するアプリと合わせ、ソリューションサービスも提供する。

各社が対応を強化する工場用IoT基盤だが、アプリ開発などは今後本格化する見込み。IoT基盤を導入する加工メーカーなどの顧客が、豊富なアプリから自社に最適なシステムを自由に組めるようになるには「あと数年はかかる」(制御装置メーカー幹部)との指摘もある。ただ、IoTを活用した生産改革には高い関心が集まっており、ビジネスチャンスの拡大が期待される。

各社がどのような収益モデルを構築し、開発や販売の体制をどのような規模で構築するのか。本格的な普及を前に、各社の動向が注目される。

(2017/5/9 05:00)

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