[ 機械 ]

サーボプレス技術の最新動向(上)鍛造加工における活用

(2017/6/16 09:30)

  • 図1 代表的なサーボプレスのスライドモーション制御と期待される効果

 サーボプレスはサーボ機構によりスライドモーションの制御が可能なプレス機械であり、その導入が急速に進められている。スライドモーションを制御することにより、塑性加工プロセスの高精度化や生産性の向上のみならず、従来にはない新しい塑性加工プロセスの研究・開発が進められている。ここでは、これからサーボプレスの利用拡大が期待される鍛造加工において、サーボプレスを活用した研究・開発事例を中心に技術動向を概説する。

【大阪大学大学院 工学研究科 准教授 松本 良】

鍛造加工におけるサーボプレスの活用

 サーボプレスは任意の位置でのスライド速度設定が可能。例えば加工中にスライド速度の減速、加速、一旦(いったん)停止、上下振動など任意のスライド動作が可能なプレスである。このスライドモーションの制御により加工中に加工対象物(ワーク)の歪(ひず)み速度分布や温度分布を制御する。加工形状・寸法の高精度化、加工限界の向上など従来の塑性加工プロセスのさらなる高度化や、従来にはない新しい塑性加工プロセスの研究・開発が進められている(図1)。

 製造現場におけるサーボプレスの活用は、サーボモーターの使用による省エネルギー化や低騒音化、下死点位置精度の安定化による加工精度のバラつき低減、加工時以外でのスライド高速化による生産性の向上などにとどまっている場合が多い。これはスライドモーションの制御がノウハウとアイデアに強く依存することに起因する。

 またサーボプレスは板材成形での活用が先行しており、鍛造加工をはじめとする塊(バルク)材の塑性加工での活用はまだ少なく、さらに温間・熱間加工での活用は極めて少ない。しかしながら鍛造加工では変形量が大きい場合が多いため、スライドモーション制御の影響は大きいと考える。また温間・熱間鍛造では加工中の温度履歴によりワークの材質が変化するため、サーボプレスの活用により特性を大きく変化させられることが期待できる。

 サーボプレスを活用した鍛造加工の開発事例として、スライド速度制御による冷間ヘリカル歯車部品の形状精度の向上や無段変速機(CVT)プーリー部品の加工荷重の低減、下死点保持や振動スライドモーションによる冷間後方押し出し鍛造の形状精度の向上、スライドモーション制御による中空シャフトの一工程冷間鍛造などが報告されているが、いずれも研究・開発段階である。

パルススライドモーション冷間鍛造

  • 図2 潤滑油流路付きパンチを用いたパルス穴あけ加工法の加工原理

 加工途中にスライドを上下振動させながらスライドを徐々に下げるパルススライドモーションによる冷間鍛造が取り組まれている。加工中にスライドを上昇させることで、金型とワーク間に生じる空隙に潤滑油を供給したり、金型の弾性変形を利用したりして、摩擦低減や加工荷重の低減が実現されている。

 図2はサーボプレスと潤滑油流路付きパンチを組み合わせたパルス穴あけ加工法の加工原理である。サーボプレスにより加工途中でパンチを後退させることにより、加工部へ負圧を生じさせ、パンチ内部に設けた潤滑油用流路を通じてパンチ先端部から潤滑油を穴加工部に逐次供給することを狙ったものである。

 例えばアルミニウム合金の加工では適切なパルスモーションの設定により、パンチ直径比に対する加工ストローク=約6の穴が焼き付き・かじり疵(きず)を生じさせずに加工可能であることが確認されている。焼き付き・かじり疵を抑制可能なパルスモーションを繰り返すことにより、さらなる深穴化が可能であることも示唆されている。

 また加工穴の形状精度も向上することが確認されている。これは塑性発熱によるワークの温度分布の不均一度がパルスモーションにより緩和されるためである。一方、パルスモーションでは金型とワーク間の摺動距離が長くなることに起因して、金型摩耗が大きくなる場合があるので注意を要する。

→サーボプレス技術の最新動向(下)今後の展開への期待に続く

(2016年12月6日 日刊工業新聞 掲載「サーボプレス」特集より)

→ MF-Tokyo2017特集

(2017/6/16 09:30)

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