[ 機械 ]

工作機械とレーザーの融合 その加工技術の展望(上)ファイバーレーザーが主役に

(2017/6/22 13:00)

 レーザーを取り巻く環境が大きく変貌している。昨年、東京ビッグサイトで開かれたJIMTOF2016(日本国際工作機械見本市)からも分かるように、ここ数年で工作機械装置が急速に変化し、レーザーを積極的に取り込む動きが目立っている。従来の工作機械が高性能で上限付近にまで高度化したことに伴う一種の手詰まり感から、その活路がレーザーに向かっていると言える。既にレーザーでは先駆者の鍛圧機械分野に続いて、工作機械業界でもレーザーとの融合化が始まった。昨今では、あらゆる産業でレーザー適応の模索がみられる。生産加工装置として定着したレーザーとその加工技術を展望する。

【中央大学研究開発機構教授(レーザ協会前会長、現顧問) 新井 武二】

ファイバーレーザーが主役に

 いよいよ工作機械の領域にもレーザーが台頭し、光工具(光ツール)の時代が到来した感がある。

 ここ数年の展示会で主な出展件数だけをみても、レーザー応用生産装置は増大している。例えばJIMTOF2014とJIMTOF2016を比較した場合、レーザー加工機などレーザー応用生産装置の出展社の総数は15社から、我々の調査では30社以上にまで伸びている。

 細かくみると、レーザー加工機は大小合わせて11社となった。レーザーによる光積層造形装置(レーザーメタル・デポジション、3Dプリンターなど)は2014の4社から12社(パネル展示の2社含む)に増加。さらに、工作機械とレーザーとの複合機が3社、微細加工機は6社となり、レーザーによる金型などの補修機2社を含め計30社以上となる。このようにこの2年間だけを見ても急速にレーザーが取り入れられていることが分かる。

 さらに、最近のレーザー加工機はファイバーレーザーが主役となっていて、切断用も6キロ―8キロワットと高出力化している。ファイバーレーザーは集光性が良く、薄板加工で高速加工が可能であり、従来の炭酸ガス(CO2)レーザーと比較して優位とされてきた。

 かつては比較的厚板のものでの面粗度に難があったが、最近の装置はかなり改善している。加工速度は中厚板の場合、従来比で1・5―2倍になるなど飛躍的に向上し、さらに、高出力での窒素切断では厚板でも高速加工が実現している。また最適加工のため、板厚に応じたビームモードを無段階で選択できるように工夫した加工機もみられる。

 ファイバーレーザーはロボットとの直結が容易であるという優位性を持つ。レーザー応用装置に占めるファイバーレーザーの割合は日増しに拡大しつつあり、ファイバーレーザー発振器の国産化も急速に進んでいることから、今後は純国産ファイバーレーザー加工機の増大が見込まれる。

 一方で、実績のあるCO2レーザー加工機も使用環境整備の容易さや加工品質の良さから健在であり、現在の市場規模では依然としてファイバーレーザーをしのいでいる。切断技術についても、厚板は軟鋼で40ミリメートルの切断が可能である。また、3・2ミリメートル以下の薄板の切断加工では精度0・5ミリメートル以下とコンマ台で制御できる。中厚板での中空円筒パイプの切断では、切断後にそのままはめ込みができる(図1)。

  • 図1 レーザー切断の事例

 加工機システム全般では、駆動系にリニアサーボを使用。省エネ対応についてはON/OFFの高速制御が可能で軸停止ゼロなどの機能があり、高速で高精度な加工機となっている。その他、長尺材の角パイプ、円管を加工可能な3次元5軸のレーザーヘッドを持つレーザー加工機もあり、自動供給が行え、長尺パイプ用の治具と回転テーブルを用いて加工する。 

 制御技術の画期的な発展で、丸型や角型の小径パイプを切断する加工精度は飛躍的に向上した。レーザー加工は厚板から薄板、さらに箔(はく)までの加工が可能で、薄板加工では刃物・工具ではできない複雑な形状の精密切断を行うことができる(図2)。

  • 図2 レーザーによる精密切断

複合化で高機能に

  • 図3 切断・溶接などのレーザー複合機による例

 機械装置の複合化の割合が急速に伸びている。従来の工作機械にレーザーを直接取り込む、またはレーザーとの複合や融合を図るなど、レーザー加工と切削加工を組み合わせた複合加工機を大手メーカーが次々に手がけている。レーザーで行う切断・溶接・焼き入れなど複数の工程を1台にまとめた工程集約型加工機も開発されている(図3)。

 複合化の種類は各種あるが、3Dプリンティングやレーザーデポジション加工の後にエンドミルなどによって表面を工具で加工するもの、軸状の加工物を切削して溶接や焼き入れ工程をレーザーで行うものなど多様である。これらはシンセシスとアナリシス(総合と分解)的な発想で開発され、個々の機械(分析要素)と合成機械(組み合わせ)のような関係にある。すなわち、個々の機械の持つ優れた要素機能を合成して、より高度の装置機能を創成することでもある。

光積層造形の利用

 レーザーを応用した光積層造形装置が急速に伸びている。付加技術としてのアディティブ・マニュファクチャリング(金属積層)には、粉末床溶融法(Powder Bed Fusion)と溶融金属堆積法(Fused deposition modeling)と呼ばれる2種に大別される。

その違いは、前者がパウダーをひいた上にレーザーを照射して形状を創成するもので、いわゆる3Dプリンティングと呼ばれるものである。これに対して後者は、レーザー加工ノズル周囲または同軸から金属パウダーをビームと同軸噴射させて溶融固化させるもので、レーザーデポジション、またはレーザーメタル・デポジション(肉盛りとも言われる)と称されている。

 その関係を図4に示す。3Dプリンティングは、比較的に小物加工物で、レーザーデポジションは主に大物加工物であったが、最近では両者の加工物の精度や大きさに対する差異が接近してきている。

  • 図4 レーザーに関連したアディティブ・マニュファクチャリング技術

(一部写真は取材したJIMTOF2016の展示物を使用した)

「工作機械とレーザーの融合 その加工技術の展望(下)創造的加工技術の創出」に続く

(2017年2月3日 日刊工業新聞 掲載「レーザー加工機」特集より)

→ MF-Tokyo2017特集

(2017/6/22 13:00)

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