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深層断面/日独車部品-変革に挑む 自動運転・中核技術でシステム提案

(2017/7/14 05:00)

日独の巨人―変革期に攻める

世界最大の自動車部品メーカーである独ロバート・ボッシュとデンソーが100年に一度とも言われる自動車産業の変革に果敢に挑んでいる。両社ともに自動運転や電動化の中核技術をそろえ、完成車メーカーに必要なシステムを提案する体制を整えつつある。日独自動車部品メーカーの巨人の戦略を追った。(下氏香菜子、名古屋・今村博之)

ボッシュ、ロボタクシー実用視野/相次ぎ投資、スピード勝負

  • ボッシュの電動車両用システムを搭載したEVコンセプトカー

のどかな田園風景が広がる独南西部のボックスベルク市で開かれたボッシュの自動車技術イベント。グループ最大のテストコースには最新の自動運転技術を搭載した車がずらりとならんだ。中でもひときわ注目を集めたのが米テスラの電気自動車(EV)をベースにした自動運転車だ。

運転手がステアリングのボタンを数秒間押し続けると車両による運転制御に切り替わる。緊急時を除きシステムが運転する「レベル3」に相当。ミリ波レーダー、ステレオカメラなどに加え、高い認識性能を持つ赤外線レーザースキャナー「ライダー」を採用。車の周辺環境を正確にとらえ、自動走行できる。

ボッシュは2月にライダーを手がけるベンチャーに出資し、同技術を取得した。「自動運転に必要なセンサーはそろった。信頼性の高い自動運転システムを提供できる」。ボッシュドライバーアシスタンス部門シニアバイスプレジデントのシュテファン・シュタース氏はこう断言し自信に満ちた笑顔をみせた。

自動運転技術の高度化に向けて着々と歩を進めるボッシュ。4月には独ダイムラーと市街地を走り運転手の操作が不要な「レベル4」の完全自動運転車の共同開発で提携し、2020年初めの市場投入を目指す。将来は運転手がいらない「レベル5」に相当するロボットタクシーの実用化も視野に入れる。

自動運転ビジネスで死角がないように見えるボッシュだが、「(自動運転技術の)レベル4、5に向けて人工知能(AI)の開発強化が課題」とシュタース氏は指摘する。

市街地で安全な自動走行を実現するにはセンサーによる高度な認識技術だけでなく、センサーデータを元に多様なリスクを想定して走行対応するための「頭脳」が必要。この頭脳を担うのがAIだ。

業界内外で車用AIの開発競争が過熱しており、ボッシュも一層のてこ入れが必要だった。そこで今年、米半導体大手エヌビディアとの提携を決め、自動運転車用AI搭載コンピューターの開発に着手した。エヌビディアが持つ機械学習アルゴリズム搭載の半導体を活用し、20年初めに量産する。ボッシュはこのほか独シュツットガルトなど世界3カ所にAIの研究施設を開設し技術者を配置する予定。今後5年間で3億ユーロを投じる。AI研究を強化し自動運転技術の高度化を加速する。

ボッシュが自動運転と並んで経営資源を集中しているのが電動化への対応だ。同社の小型電気自動車(EV)のコンセプトモデル「eGO」はその象徴。モーター、バッテリーといった基幹部品はもちろん、ディスプレーや情報表示用のアプリケーションソフトまで中身はすべてボッシュ製。eGOのような4輪車のほか2輪車、3輪車向けシステムをワンパッケージで提供していく。

電動車両は環境規制が厳しくなる中国や欧州で普及が見込まれるほか、インド政府が30年に国内販売車両をEVのみにする構想を打ち出した。「ボッシュのシステムを使えば、あらゆる企業が1―1年半程度の短期間で電動車両を市場に投入できる」(オートモーティブエレクトロニクス事業部長のハラルド・クリューガー氏)。ボッシュは完成車メーカーのほか電動車両を使った事業を展開したい新興メーカーや異業種との取引も狙う。

自動運転も電動化も自社に足りない技術があれば豊富な資金力をバックに次々と有力企業と手を組み、一気に駒を進める。ボッシュはスピード勝負で100年に一度の荒波を乗り越える。

デンソー、運転支援幅広く提案/電動化“”老舗”の実力発揮

  • デンソーアイティーラボラトリの自動運転体験設備

世界第2位のメガサプライヤー、デンソーも決してボッシュに後れを取ってはいない。デンソーも走行環境認識では画像センサーやミリ波レーダー、レーザーレーダー、ソナーなどを幅広くそろえ、組み合わせて提案できる強みを持つ。20年に向けて高速道路での合流支援や車線変更支援、緊急時の退避支援などの技術を開発中だ。

自動運転などの先進技術の開発競争が活発化する中、有馬浩二社長は「モビリティーの新たな価値創造を目指す『第2の創業期』を迎えている」と表現する。5月には画像認識用のAIの共同開発などで手を組む東芝と協業を拡大すると公表。富士通テンへの出資比率は10月に51%まで高めるなど、外部の技術の取り込みも積極化する。

自動運転技術で重要となるAI関連ではデンソーアイティーラボラトリ(東京都渋谷区)で先行開発を実施。AIなどの世界的権威である金出武雄米カーネギーメロン大学教授と技術顧問契約も結んだ。今後はトヨタ自動車のAI研究子会社の米トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)などと、どこまで踏み込んで連携するかも注目される。

これらの分野でデンソーが公表している数値目標は先進運転支援システム(ADAS)で20年度に市場2000億円(16年度比2倍)。16年1月に設立した「ADAS推進部」が主導する。

デンソーはパワートレーン分野の売上高も25年度に16年度比2倍の3兆円に引き上げる意欲的な目標を掲げる。けん引するのは電動化の領域で、1兆円以上伸ばす計画だ。デンソーの強みは長年にわたる技術やノウハウの蓄積。約20年前に発売されたトヨタのハイブリッド車(HV)「プリウス」の初代から重要な役割を担ってきた。

「電動化の中で非常に大事な会社」。6月の定時株主総会で有馬社長はアスモ(静岡県湖西市)についてこう述べた。アスモはデンソー最大の子会社で連結売上高4000億円超の自動車用小型モーター大手だ。モーターと制御回路を一体にした「スマートモーター」ではデンソー社員も含めて「100人ほど集まって日々開発を進めている」(有馬社長)と、グループの総力を挙げて取り組む姿勢を鮮明にした。

インバーターや電池、ECU(電子制御ユニット)など電動車両の基幹部品を幅広く展開するデンソー。1月にはEVなどの電動化技術開発を担当する「エレクトリフィケーションシステム事業グループ」を新設し、トヨタが16年12月に発足したEVの企画・開発を担う社内ベンチャー「EV事業企画室」にも社員を派遣した。EVへの歩み寄りも本格化する時がきた。

(2017/7/14 05:00)

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