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【通商弘報(ジェトロ)】サンフランシスコ~ロサンゼルス間に初の寝台バスが運行(米国)

(2017/7/28 05:00)

サンフランシスコ発

2017年07月27日

スタートアップ企業キャビン(Cabin)は7月14日、本社のあるサンフランシスコとロサンゼルスを結ぶ寝台バスの運行を開始した。両都市間の寝台バスは初めて。コンセプトは「移動するホテル」だ。

片道115ドルからの「移動するホテル」

  • 走行中の「キャビン」(キャビン提供)

サンフランシスコ~ロサンゼルス間の距離は383マイル(約616.4キロ、東京~岡山間に相当)あり、移動には飛行機でおよそ1時間半、車だと6時間ほどかかる。バス会社が運行する長距離バスも複数路線あるが、停留所での乗り降りや休憩時間をとるため、車での移動より時間がかかることが多い。料金は片道20~60ドル程度と安価だが、座席の足元に十分なスペースがあるとはいえず、移動には疲労が伴う。そのため米国では、長距離バスを避ける人も多い。そんな中、両都市間を快適に移動するための寝台バスを運行開始したのが、サンフランシスコに本社を置く「キャビン」だ。

社名と同じ「キャビン」と名付けられた2階建て寝台バスには、「ポッド(Pod)」と呼ばれる個室スペースと、共用の洗面台付き水洗トイレ、ラウンジスペースがある。「移動するホテル」をコンセプトにしているとあって、ポッド内のベッドには形状記憶マットレスを採用し、寝具もホテルで使われるような高品質なものを使用しているという。

  • 室内に並ぶ「ポッド」(キャビン提供)

ポッド内には、読書灯やコンセント、USBポート、Wi-Fiが完備されているほか、景色を楽しむための小窓、プライバシーを守るカーテンもある。壁の素材には防音効果のあるものが使われており、耳栓も無料で用意されている。運行時にはアテンダントも乗務し、水、コーヒー、紅茶のほか、2回軽食とスナックを提供する。定員は24人で、10~16歳は保護者同伴で利用できる。料金は片道115ドルからで、時期によって変動する。

到着を遅らせ効率的な行程に

ロサンゼルスへ向かう場合は、サンフランシスコ中心街を夜11時に出発、ロサンゼルスの海岸沿いの観光地サンタモニカに翌朝7時に到着する。サンフランシスコへは、夜11時にサンタモニカを出発し、翌朝7時に到着する。8時間に及ぶ走行時間は、途中停車がないにしてはかかり過ぎのようだが、同社によると、利用者のニーズを満たすとともに快適な旅を楽しんでもらうための工夫の1つだという。

同社を設立したトム・カリヤー最高経営責任者(CEO)は「ロサンゼルス・タイムズ」紙(7月10日)に、「利用者は合理的な時間に目的地に到着することを望んでいる」と語っている。夜11時に出発したキャビンは、交通状況が順調なら翌朝5時ごろには目的地に到着するが、この時間帯では、到着後の移動手段や開いているレストランやコーヒーショップが限られる。利用者にとっては朝7時到着にした方が、目的地に着いてからの予定が組みやすいというわけだ。

加えて同社は、アップダウンが多く、大型のトラックが多数走行する道路を避け、時間はかかるが交通量の少ない道路を選んでいるのだという。そうすることで走行が安定し、「癒やし効果も期待できる」とカリヤーCEOは他メディアのインタビューでも述べている。

試験運転ではキャンセル待ちも

片道で115ドルからという料金は、他社の長距離バスや飛行機と比べて安いとはいえない。さらに、車での移動よりも長い時間をバスの中で過ごさなければならず、「キャビン」の利点は少ないようにもみえる。しかし、車社会の米国だけに、寝ている間に目的地に到着する寝台バスは新鮮に映るようだ。同社が2016年に「スリープバス(SleepBus)」という名称で両都市間での試験運転を行った際には、販売開始から3日間で乗車券が売り切れ、キャンセル待ちが2万人以上に上るほどだった。

試験運転中に利用した人々の評判も上々で、口コミサイト大手「イェルプ(Yelp)」に寄せられた投稿には、「ベッドは広く、車内も清潔で快適」「ベッドも寝具も柔らかくて気持ちが良い」「絶対に眠れないだろうと予想していたが、ぐっすり眠れた」といったコメントが多くあった。さらに、他社の高速バスと比較して「快適とはいえない座席に、赤の他人と隣り合わせで長時間座り続ける必要がない」「少々不気味で安全面で不安になるような雰囲気がない」といった声もあった。

時間効率の良さや非日常体験が評判に

また、「移動中に就寝できるので、(空港への移動時間や待ち時間を考えると)時間の無駄がない」といった、寝台バスのコンセプトを評価する投稿も目立った。サンフランシスコで仕事をし、翌日早朝にロサンゼルスに戻らなければならなかったという利用者は「空港近くのホテルに宿泊して翌朝の早朝便で戻ることもできたが、寝台バスは(宿泊と移動の)両方のニーズに応える」と語り、「非常に良いコンセプトだ」と述べている。

ほかにも、「朝起きると、就寝前に見た景色とは違う市街や海岸が目の前に広がる。素晴らしい経験」「乗り合わせた他の乗客と話してみたくなるような独特な雰囲気がある。車内で知り合った人と下車後に朝食を共にした」などといったコメントも寄せられ、これまでになかった長距離寝台バスを楽しんだことがうかがえる。

この新たなサービスは、SVエンジェル、フラッドゲート、ボックスグループなどの投資会社からも注目を集め、6月末までにキャビンは330万ドルの資金調達に成功しているそうだ。カリヤーCEOは「宿泊中に移動することで、人々が必要としている自由な時間をつくり出すことができる」と述べている(「ビジネスワイヤー」6月28日)。現在のところ運行は週末だけだが、8月からは週3日、9月からは毎日運行する予定だ。

(高橋由奈、永松康宏)

(米国)

(2017/7/28 05:00)

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