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豊かな発想で新たな活用法を切り開く 進化するウオータージェット技術

(2017/7/31 05:00)

業界展望台

ウオータージェット利用技術 材料評価と表面改質

広島大学大学院 工学研究科 准教授 礒本 良則

 ウオータージェットというと、ウオータージェットカッティングがよく知られているが、ウオータージェットの利用技術の一つにすぎない。ウオータージェットは化学装置、発電装置に使われる材料の耐エロージョン性(抵抗性)の評価、開発技術としても用いられている。いずれもウオータージェットで材料を破壊する行為であるが、ウオータージェットによる材料の破壊挙動を理解することで、いろいろな利用技術を構築することができる。

■固体粒子・水の衝突現象

 ウオータージェットというと、水による材料の切断や加工を思い浮かべる。水で金属材料やセラミックス材料を思いのままに切断したり、複雑な形状に成形したりすることができるイメージがある。しかし、実のところ水だけで切れるのはプラスチックなどの軟質材料で、金属材料やセラミックス材料は簡単には切れないし、加工も難しい。

 現在のウオータージェットカッティングと呼ばれている技術には、ウオータージェットのみの場合と、ウオータージェットの中に研磨粒子を同伴させて、その固体粒子で硬い材料を切る場合の2種類がある。水のような軟らかい物質だけでは、そう簡単に硬い材料を切ることはできないことに注意が必要である。

  • 毎秒250mのウオータージェット例

 ウオータージェットカッティングを学術的な領域に引き込むとすると、それはエロージョンという世界に誘う。エロージョンとは渓谷や海岸段丘など自然の浸食現象を語源とする言葉で、現在では工業・工場の装置材料に発生する損傷現象、減肉現象を表す学術用語となっている。ウオータージェット技術をさらに活用するにはウオータージェットカッティングで得られる固体粒子の衝突現象、水の衝突現象を理解することから始まると言えよう。

 固体粒子衝突による材料の劣化を固体粒子衝突エロージョンという。固体粒子の持っている運動エネルギーが材料の変形エネルギーに変換されると考えればよい。固体粒子が材料表面で擦れる現象を摩耗といい、学術的には材料の損傷機構が異なるためにエロージョンと区別している。

 ウオータージェットカッティングでは通常150メガ~350メガパスカルで噴射するウオータージェットの速度は毎秒300メートルを超えるため、ウオータージェットに含まれる固体粒子の速度も相当なものである。形状の丸くない、先のとがった固体粒子が材料に衝突すると、たかが毎秒1メートルの低い衝突速度であっても材料は必ず傷つくことからみても、研磨材を含むウオータージェットカッティングによる材料加工性能が高いことは簡単に理解できる。

■金属切断も可能

 それでは固体粒子を含まないウオータージェットはどれくらいの材料切断性、加工性を持っているのだろうか。まずウオータージェットがきれいな液柱になっている場合の加工性は、材料として軟らかいプラスチック、肉、野菜などの食料くらいであって、金属材料を切ることはできない。その理由は液柱状のウオータージェットの威力が金属材料の強度を上回らないためである。材料の切断性、加工性は材料の強度とウオータージェットの威力の相対関係で決まる。

 それでは金属材料を切断できるほどの高い威力のウオータージェットは可能か。答えは可能である。ウオータージェットから威力の強い液滴を発生、衝突させれば良い。液滴衝突による材料の劣化を液滴衝突エロージョンという。液滴が材料表面に衝突する際に衝撃圧を生じ、その衝撃圧(威力)が材料の強度を超えると材料は壊れる。

 ウオータージェットによる材料の切断性や加工性を考えてみる。固体粒子が材料に与える応力は固体粒子が材料に接触する時の面圧に相当し、粒子衝突速度が毎秒1メートルもあれば金属材料やセラミックス材料の強度を上回る。衝突が繰り返されることにより材料が損傷を受ける。損傷量は粒子が持つ運動エネルギーに比例するので、粒子速度の2乗に比例するとみて良い。

 一方、研磨粒子を用いず、ウオータージェットを液柱として用いる場合の材料に与える応力は、液柱の運動エネルギーに依存する。例えば、液滴速度が毎秒500メートルである時の威力は概算で約130メガパスカルである。これでは炭素鋼のような金属材料の強度(引っ張り強度としておよそ400メガパスカル)を上回らないので、炭素鋼を簡単に壊すことはできない。

 しかし、液柱が液滴になると同じ速度でも衝撃圧の発生により威力はおよそ6倍となるので炭素鋼を壊すことができる。液滴が繰り返し衝突すれば、液滴速度毎秒100メートル程度でも損傷は起こり、それよりも液滴速度の高い領域では材料の損傷は液滴速度の2乗に比例する(図1)。

  • 図1 液滴衝突エロージョン量の衝突速度依存性(高速度領域で運動領域で運動エネルギー則が成り立つ)

 しかし、液滴自身は材料表面の衝突とともに大きく壊れてしまうために速度が同一の固体粒子の衝突よりも威力は小さくなる。ある衝突実験条件において液滴の威力は固体粒子の5分の1になるというデータがある。

■表面改質に応用

 液滴衝突現象を用いたウオータージェット応用技術を紹介したい。化学装置や発電設備におけるポンプ、蒸気タービンや粉体・流体を取り扱う装置には、キャビテーション、液滴衝突、固体粒子衝突によるエロージョンが工業金属材料、セラミックス材料に発生する可能性があり、装置材料の寿命を著しく縮める場合がある。これらの材料のエロージョン挙動を解明することや、耐エロージョン性材料を開発することは重要である。

 ウオータージェットを用いると、キャビテーションと液滴衝突による材料の耐エロージョン性を評価することができる。これは両者の損傷メカニズムが衝撃圧による材料の破壊現象という面で共通しているためである。

 スギノマシン製90メガパスカル級プランジャーポンプ(写真)を用いて、この条件で最高液滴速度毎秒250メートルを得ることができる。炭素鋼なら潜伏期間と言われる明確な損傷が起こらない期間が数秒生じ、その後にはっきりした損傷が始まる。その損傷深さ速度は毎秒80マイクロメートルに達する。

 この条件の衝撃圧はおよそ375メガパスカルで、この値は炭素鋼の引っ張り強度に近い。金属材料ならば硬いほど耐エロージョン性は高いが、セラミックスでは破壊靱(じん)性と硬さに耐エロージョン性が複雑に関与する。

 もうひとつの応用技術に表面改質がある。ウオータージェットピーニングである。表面改質には金属表面に軽微な表面荒れまたは、残留圧縮応力を付与したい場合、材料表面にアンカーパターンを付与したい場合、あるいは塗装、溶接スケールを除去したい場合などさまざまな要望がある。

 汎用ノズルを用い毎秒0.4ミリ~7ミリメートルの操作速度でアルミニウム合金表面にアンカーパターンを付与した例を図2に示す。

  • 図2 アルミニウム合金表面にアンカーパターンを付与した例

 キャビテーションピーニングに比べて衝撃圧の発生頻度が圧倒的に高く、表面改質効果は高い。しかしサンドブラスト、ショットピーニングなど固体粒子を用いる方法に比べると、前述の理由から表面改質効率はやや劣る。

 実用化にはいくつものハードルを乗り越える必要があるが、液滴衝突エロージョンの損傷挙動を把握しておけば、液滴衝突現象を用いたウオータージェットによる思いの表面改質が期待される。

【中堅・中小企業の導入事例】

■小野産業システム 本社工場移転・拡張し増産

 「この機械を入れるために移転してきたといっても過言ではない」―。小野産業システムの小野始社長は銅板を次々と切断するスギノマシン製「アブレシブジェットカッタNC―5AX」を前に力を込めた。

 同社は2017年5月1日に「清水産業」だった社名を現社名に変更。同時に本社工場を移転・拡張した。その狙いの一つは広くなった現場で、増産体制を構築、旺盛な需要に応えることだ。併せて導入したウオータージェットはその構想の中核となる装置だ。

  • 厚板切断を内製化し生産効率化

 同社はUPSや整流器などに用いる大電流・大電圧の電気を配線するための導体棒「ブスバー」の製造を専門としている。扱う素材の99%は銅で、切削加工には特殊なノウハウが必要だ。曲げ加工や薄板の切断、穴開けには自社が保有する曲げ機械やタレットパンチプレスを用いていたが、厚さ6ミリメートルを超える厚板の切削までは手に負えないので、専門業者に外注していた。

 転機となったのは15年ごろ。太陽光発電のパワーコンディショナー向けブスバーの受注が急伸して生産が逼迫(ひっぱく)し、効率化を迫られた。そこで目を付けたのが6ミリメートル以上の銅の厚板でも難なく切れるウオータージェットだった。これで厚板切断の工程を内製化すれば、生産時間の短縮が見込まれた。

 工場が手狭になっていた上、新装置の置き場の確保する必要もあり、本社工場の移転・拡張を決断。旧工場より4倍広い新工場の開設に合わせ、ウオータージェットで厚板切断を自ら手がけるようになった。

 効果は上々だ。内製化により納期や品質の管理も容易になった。「ドリルで切るより水で切るから安価」と小野社長は喜ぶ。外注費の削減分で1年かからずに装置費の元がとれる見通しだ。「稼働中はジェットの大きな音がすると思っていたが、実際は水の中で加工するので音が静か」と静音性にも満足している。

 現在はブスバー単体を製造し、それを顧客に納めている同社だが、小野社長は「ブスバーに配線も組み上げ、産業システム機器を作るところまで発展したい」と将来の青写真を描く。新社名に「産業システム」の名を入れたのもそのためだ。ウオータージェット導入で増強した生産体制を足がかりに新境地に立とうとしている。

□MEMO□

▽事業内容=電気導体の製造

▽所在地=神戸市西区見津が丘5の2の11

▽社長=小野始(おの・はじめ)氏

▽電話=078・994・7771

■恒成 新たにチタン事業を開拓

 水を満たしたプールのような形状の加工テーブルの中に漬かる厚さ10ミリメートル超のチタンの鋼板。これほどの高強度を誇る厚板でも、スギノマシン製「アブレシブジェットカッタNC―5AX」は研磨剤を混入したウオータージェットを浴びせて、難なく切り目を入れていく。恒成が本社近くに構える小関工場(新潟県燕市)で2016年11月から稼働するこの装置は、ステンレス鋼材の加工販売が主力の同社に、チタン事業という新たな道を切り開いている。

 グループ会社のセブン・セブン(同)がチタン製の水筒を作っている流れで、新規事業としてチタン鋼板の取り扱いに乗り出した恒成。セブン・セブン向けの薄板ならば既存のステンレス用ラインで切れるものの、厚板の切断には新設備の導入が不可欠だった。

  • チタン鋼板を切るNC-5AX

 そこで採用したのがNC―5AX。レーザーやプラズマといった熱を用いる方法も考えられたが、切断面で熱の悪影響を受けやすいのがチタン加工の難点だ。その点、「ウオータージェットは熱影響がない」(坂井健市場開発部課長)。これが導入の決め手となった。

 ただ、ウオータージェットの扱いは初めての経験。当初はスギノマシンから受けた使い方の指導をもとに「見よう見まねで動かしていた」(白井和久鋼材事業部コイルセンター次長)。そんな同社の助けになったのは手厚いサポート体制だ。スギノマシンの本社が隣県の富山県ということもあり、「何かあれば2時間半で来てくれて、対応は素晴らしい」と白井次長は感嘆する。

 装置の扱いに慣れた現在は、販売するチタン鋼板の切断に使うだけでなく、「他社からの賃加工にも徐々にトライしている」(坂井課長)。

 金属加工の一大集積地である燕市といえどウオータージェットを保有する加工業者は珍しく、レーザーやプラズマでは実現できない加工の依頼が舞い込むようになった。例えば、板厚より小さい直径の穴開け。「レーザーやプラズマだと板厚3ミリメートルの板に、3ミリメートルより小さい直径の穴は開けられないが、ウオータージェットだと加工できる」(同)。

 いずれはニッケル合金のような高付加価値の素材加工にも挑む考えだ。チタンの鋼板作りをベースにしつつ、空いた時間には賃加工にも生かす。ウオータージェットのフル活用による収益向上を狙っている。

□MEMO□

▽事業内容=ステンレス鋼材やチタンなど 加工販売

▽所在地=新潟県燕市小池4929

▽社長=澁木収一(しぶき・しゅういち)氏

▽電話=0256・63・5105

■髙橋ゴムパッキング製作所 一品一様のゴム加工

 髙橋ゴムパッキング製作所はゴム・スポンジ・パッキングに特化した加工メーカー。土木・建築や機械設備用の緩衝材、ドアのあたりなど、その用途先は実にさまざまだ。多様な形状に加工を施し、一品一様のオーダーメードで応えている。

 同社は1971年に創業し、82年に株式会社化。「こだわらず、顧客の要望に応えること」(髙橋晴男社長)を基本に技術を磨き、高品質提供で信頼を集めてきた。製造拠点は本社工場のほか、神奈川県寒川町に湘南工場、福岡市博多区に九州工場を構える。

 ウオータージェット加工機は、いち早く本社工場に導入。「鉄と違い、水で切るウオータージェットはゴム(加工)に最適」(髙橋社長)と重視し、3月には本社工場に5台目となる米フロー製の加工機を導入した。

  • ウオータージェットはゴム加工に最適

 生産拡大を目的としたものだが、背景には顧客が求める加工範囲が大きくなってきたことがある。導入機「Mach3 3020b」は長さ3メートル、幅2メートル、厚さは180ミリメートルまで対応できる。

 従来機の加工サイズを超える場合は、スリッターで切断後、穴開けを行うなど、手間をかけ応えていた。導入機により、髙橋社長は「作業効率は2倍以上に上がった。需要もある」と、そのメリットを話す。また、湘南工場には2台のウオータージェット加工機を導入し、設備強化も図っている。

 市場ニーズに適した加工設備の充実を図る一方で、新たな用途開拓にも取り組んでいる。大規模なつり橋ケーブルに使う保守用のゴムシートだ。

 ケーブルの防食には被覆ゴムシートが使われる場合があるが、劣化で部分的に剥がれたところだけを塗料で塗る処置作業は困難。そこで、同社が提案した保守用のゴムシートをケーブルに貼った実証試験が行われている。

 顧客の要望に応える一品一様のモノづくりが支持され、同社事業のフィールドがさらに広がろうとしている。

□MEMO□

▽事業内容=ゴム・スポンジ・パッキン グの加工

▽所在地=大阪府吹田市東御旅町5の16

▽社長=髙橋晴男(たかはし・はるお)氏

▽電話=06・6382・4952

▽設立=1982年12月

■石川樹脂工業 樹脂成形、新素材に挑戦

 石川樹脂工業は新素材へ挑戦するために、澁谷工業製ウオータージェット加工機「AWS4705S型」を導入した。その用途は、樹脂成形前の素材の形状トリミングといったユニークなもの。豊かな発想でウオータージェット加工の活用法を切り開き、モノづくりの幅を広げている。

 同社はさまざまな樹脂成形品を手がける。その事業は仏具、食器、工業製品、OEM製品の四つの柱からなる。樹脂製仏具は「世界一のシェア」(石川章会長)を誇り、業務用食器は自社ブランド「Plakira」を展開する。

 同社の特徴は素材から金型、成形までの一貫生産体制。また熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の両方の成形を手がける点で珍しく、「これだけの設備と経験がある企業はない」(同)と自負する。そのため多くの樹脂成形の相談が寄せられ、2015年に炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)の成形の依頼が舞い込んだ。これがウオータージェット加工機導入のきっかけとなる。

  • 豊かな発想で新たな活用法を切り開く

 CFRTPは生産性の高さなどが期待され用途開発が進むが、成形方法に課題が多く残る素材だ。依頼された長い繊維のCFRTPは、射出成形で素材を送り込む際に繊維が切れてしまい、炭素繊維の特徴である強度が落ちる。これを解決するため、金型に素材を置いてプレスする圧縮成形を採用した。

 通常は熱硬化性樹脂の成形に用いる圧縮成形を熱可塑性樹脂に応用したのは、硬化性と可塑性、双方のノウハウを持つ同社ならではだ。ただその準備として、プレス成形に適した形状に板状の素材をトリミングする必要がある。研究の結果、選択した方法がウオータージェット加工だ。

 導入したAWS4705S型は複合材の加工に強みがある。他社製も含め検討したが、「端面がささくれずきれいに仕上がった」(石川勤専務)ことが決め手となった。端面がきれいであれば成形しやすく、安全だ。粉じんの問題も起きない。成形方法の確立に大いに弾みが付いた。

 試行錯誤は続くが、澁谷工業が同じ地元の企業ということも心強い。劣化しにくい炭素繊維の特徴を生かし、インフラ関連への用途提案も模索する。「炭素繊維を5本目の柱にしたい」(同)と将来を見据える。その柱を強固にするには、ウオータージェット加工機が欠かせない。

□MEMO□

▽事業内容=樹脂製の食器雑貨、工業部 品、仏具、その他OEM商品の企画、 製造並びに販売

▽所在地=石川県加賀市宇谷町タ1―8

▽会長=石川章(いしかわ・あきら)氏

▽電話=0761・77・4556

▽設立=1965年4月

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(2017/7/31 05:00)

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