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【デジタル編集部・特別企画】世界に挑む成長企業−“日本ならでは”で勝負

(2017/8/17 05:00)

2020年の東京五輪開催が近づき、世界中の目がこれまで以上に日本に向いている。こうした中、海外に打って出る中小・ベンチャー企業などの動きにも拍車がかかっている。アニメや漫画、食べ物、「和」テイストのファッションなど”日本ならでは”のモノを売りに、世界市場に挑む企業の姿を追った。(編集委員・碩靖俊)

アニメ・漫画/オタク情報、英語で発信

  • TOMプロジェクツを通じて製作・販売した初のフィギュア(©支倉凍砂/アスキー・メディアワークス/「狼と香辛料II」製作委員会)

トーキョー・オタク・モード(TOM、米デラウェア州、小高奈皇光CEO)は、海外向けEコマースで急成長している。商材はアニメや漫画に登場するキャラクターのフィギュアなど「Otaku(オタク)」グッズ。12年の創業以来5年で早くも年商10億円を超えた。

同社は海外市場を主戦場にするため、本社を米国に置く。ビジネスモデルの軸は海外向けに特化したフェイスブックページ。英語でオタク文化の最新情報を掲載し、集まった海外のオタクファンを独自サイト「オタクモード・ドットコム」に呼び込み、気に入った製品を買ってもらう仕組みだ。

フェイスブックページのファン数(Like数)はすでに2000万人を超える。ソーシャルメディアを分析するソーシャルベーカーズのサイトでは、Eコマースの分野で、米アマゾンなどと並び、常にファン数ランキングの上位を占める。

同社の共同創業者の一人である秋山卓哉執行役員によると、これまで海外のオタクファンが情報を集めたり、グッズを買おうとしたりしても、日本語のサイトばかりで、それが大きな壁になっていたという。そのため、「英語で表記され、正式なライセンスを受けた製品しか扱わないTOMのサイトが、口コミで爆発的に広がった」。

■欲しいモノを形に

  • トーキョー・オタク・モードの共同創業者の一人、秋山卓哉執行役員(写真/冨家邦裕)

TOMは業績の伸びに伴い、事業領域を広げている。オタク文化に関連したオリジナルグッズの製造、クラウドファンディング、翻訳、広告、海外進出コンサルティングの分野に参入した。

グッズ製造については「TOMプロジェクツ」のページを開設。国内外のファンを商品開発に巻き込み、欲しいモノを具体的な形にする取り組みを進めている。

このプロジェクトを通じて製作した初めてのフィギュアが、ライトノベル『狼と香辛料』のキャラクターであるホロだ。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』柄の振り袖なども、TOMプロジェクツを通じて販売した。

同社の目標は20年度に売り上げ100億円。「東京五輪もあり、日本が最も注目されるタイミング。TOMが世界に向けて存在感を示せるか勝負の時だと思う」と、秋山氏は言葉に力を込める。

ファッション/こだわりのモノづくり

アパレル業界で元気なのが、日本発の高級ファッションブランド「45R」を展開するフォーティファイブアールピーエムスタジオ(45rpm、東京都港区、高橋慎志社長)だ。同社は近く英ロンドンに進出する。45rpmはこれでニューヨーク、パリ、ロンドンにそれぞれ店舗を置くことになり、世界ブランドが必ず押さえる3大都市をカバーする。

  • 45R-J社長を兼務する中島正樹45rpm副社長(写真/冨家邦裕)

  • 法隆寺の回廊を模した45rpm・ニューヨーク店の内装

  • 「45R」ブランドの藍染めのジーンズなど(写真/冨家邦裕)

4月に同社の海外事業を集約した新会社の45R−Jを設立し、スピード感ある店舗展開を狙う。

45R−Jの売り上げ目標は20年度に30億円。中島正樹45rpm副社長兼45R−J社長によると、「計画通りに店舗展開が進めば、さらに上乗せも見込める」。

■スピルバーグ氏らも購入

「45R」ブランドは天然素材や伝統技術などへのこだわりが売りだ。「原料を徹底的に吟味し、糸づくりから仕上げまで、すべて独自で取り組むモノづくりへの姿勢が海外でも知られるようになってきた」(中島氏)。

主力である藍染めのジーンズは1着8万円を超えるものでも、年間2000着以上がコンスタントに売れる。米映画監督のスティーヴン・スピルバーグ氏、伊デザイナーのジョルジオ・アルマーニ氏らも購入したという。

高級感を損なわないよう店舗の内・外装にも気を配る。「和」の雰囲気を醸し出すため、日本の材料、専門の職人を日本から送る。「最高級を求めるお客さまが相手。どこにも手を抜けない」(同氏)。

フード/ラーメンで来年度、海外100店舗へ

  • 力の源ホールディングスの清宮俊之社長(写真/冨家邦裕)

  • 一風堂の看板商品「赤丸」(日本版)

  • 米カリフォルニア・バークレーの新店舗にできた長蛇の列

世界にもラーメンファンは多い。豚骨スープをベースにした博多ラーメンのブランド「一風堂」を展開する力の源ホールディングス(HD)は、海外のラーメン人気をリードしてきた一社だ。

現時点で日本を除く世界13カ国・地域(70店舗)に進出。7月にオープンした米カリフォルニア州のバークレー店では2、3時間待ちの長蛇の列ができた。

18年度には海外100店舗の大台に乗せる。力の源HDの清宮俊之社長によると、「特に米国、東南アジアの店舗展開を手厚くする」。

豚を使わない鶏をベースにしたラーメンブランド「黒帯」を立ち上げており、マレーシアやインドネシアなど向けにハラール(イスラム法上で食べることが許されている食材や料理)市場も取り込む。25年度に海外300店舗にする計画だ。

■現地の趣向に合わせて

海外人気の背景には、サービスを各国の趣向に合わせたところが大きい。前菜やアルコール類も提供し、レストラン様式にするなど「日本とはまったく異なるスタイル」(清宮氏)だ。スープに浮いた油分を嫌う中国では背脂を控えるなど、レシピも変えている。

「Zuzutto(ずずっと)」というキーワードで、ラーメンをすすって食べる文化を発信している。この食べ方が、よりおいしいことが科学的に実証されているという。清宮氏は「東京五輪がある20年は日本がショールームになる。この文化を広げていきたい」と語る。

食材/青果物で商流づくり

日本産の青果物は海外でも評判だ。日本の農産物の最大輸出地である香港には、リンゴや柿などが現地の競合商品に比べて3倍でも買う人たちがいるという。こうしたニーズを広げ、日本の生産者につなぐために発足したのが、世界市場(東京都港区、村田卓弥社長)だ。

同社は日本の生産者と海外市場が直接、受発注できるプラットフォーム「NIPPON ICHIBA」の立ち上げ準備を急いでいる。この仕組みは輸送手段を従来の空輸から海上輸送に切り替え、さらに同社が青果物の調達から現地販売まで一括管理するところに肝がある。

  • 世界市場の村田卓弥社長(写真/冨家邦裕)

  • スーパーの陳列棚に並んだ巨峰、梨など(香港)

  • 香港のスーパー内に設置された特設コーナーで日本産の青果物を販売

親会社の農業総合研究所が取り組む「農家の直売所」(登録生産者約6700人)の仕組みを生かし、日本全国から船便のコンテナ単位で運べる量の青果物を集める。

また中間業者が担った役割を世界市場が引き受け、中間マージンをカットする。流通コストを抑え、現地での販売価格を引き下げる狙いだ。

■まず香港をターゲットに

当面のターゲットは香港。現在、青果物の買い付けから販売までの商流づくりを急いでおり、現地の小売り大手、ASワトソングループの傘下であるパークンショップの店舗などで契約を取り付けた。

村田社長は「価格が下がれば、日本産の青果物を買える人たちがもっと増える。それをこの仕組みで証明する」と話す。19年2月までにこの仕組みを立ち上げ、22年に売り上げ50億円を目指す。

海外の目/高品質と信頼感を支えに

  • フランス貿易投資庁のパスカル・ゴンドラン貿易投資参事官(写真/冨家邦裕)

”日本ならでは”のモノが注目されている理由について、フランス貿易投資庁のパスカル・ゴンドラン貿易投資参事官は、そもそも日本の製品・サービスの質の高さと信頼感には、世界でも定評があるという。

その上で、フランス国内での評価として「伝統や文化を重んじるところ、新しいテクノロジーを取り入れるところ、そして、その両面を併せ持つところがフランス人の感覚に似ている。そこに共感が生まれているのではないか」と持論を語る。

ゴンドラン氏によると、フランスではここにきて、日本の市場に興味がある、あるいは日本の企業と長く付き合える関係を結びたいといった声がますます増えている。「日本のモノがほとんどなかった頃から、どんどん浸透してきた様子をつまびらかに見てきた。今やパリでは、日本のモノを称した“ニセモノ”が出回るほど。それも日本のモノが市民権を得た証だろう」。

フランスでは、エマニュエル・マクロン仏大統領がスタートアップ立国を表明し、ベンチャー企業への優遇措置を手厚くするなど、産業振興の担い手となる企業の育成に一段と力が入っている。こうした中で、グローバル展開を目指す日本の成長企業と、勢いあるフランスのスタートアップ企業のコラボレーションが生まれれば、それはとても魅力的なことだ。

「日本の企業がさまざまな国の人たちとチームになってワークすることが当たり前になれば、コラボレーションのチャンスが広がる。その先には、世界を驚かすようなイノベーションが待っているはずだ」 と、ゴンドラン氏は言葉に期待を込める。

インタビュー/仏ジャーナリスト ドラ・トーザン(Dora Tauzin)さん

  • 仏ジャーナリスト兼エッセイスト ドラ・トーザン(Dora Tauzin)さん(写真/Sasho)

日本の“素晴らしさ”、アピール不足

”日本ならでは”のモノがもっと世界に受け入れられるには何が必要か―。日仏文化交流の架け橋となり、仏政府からレジオンドヌール勲章を受けた仏ジャーナリスト兼エッセイストのドラ・トーザンさんに聞いた。

 ―日本の家電や自動車は有名ですが、それ以外の”日本ならでは”のモノも海外でよく目にするようになりました。評判はいかがですか。

 「故郷の仏パリでは、日本のモノはとても人気がある。最近では日本酒。フランスにはブルゴーニュ、ボルドー、シャンパーニュなどワインの産地がたくさんあるが、それでも日本酒を選ぶ人たちがいる。わが家では、ピッツァを食べながらテレビでサッカーを観戦していたのが、今ではテイク・アウトのすしを食べながらというのが当たり前になった」

 「日本人シェフのフランス料理店の幾つかは、新鮮で洗練されていると評判だ。シェフはリスペクトを持って受け入れられている。ユニクロや無印良品といったお店も、パリの人たちの日常に溶け込んでいる。若い世代には漫画が人気だ。『ワンピース』『フェアリーテイル』がよく読まれている。インターネットで最新情報を手に入れているようだ」

 ―日本で生活する時間も長いドラさんにとって海外に薦めたい日本のモノは。

 「日本を訪れたフランス人がまずびっくりするのがトイレだ。強弱を細かく調整できるシャワーがあったり、便座を暖かくできたりなど、さまざまな機能が付いており、いろんな心遣いが見て取れる。ただグローバルに見ると、こうした素晴らしい日本のモノは十分に知られていない」

 ―それはなぜですか。

 「アピールが足りていないし、そのアピールも決して上手とは言えない。日本は英語で話せる人がとても少なく、自分の国の文化についても詳しく知らない人たちが多い。せっかく世界を驚かせるモノがあるのに、その説明をあきらめている人たちが多い。コミュニケーションが乏しいがゆえに、海外の人たちの目線で考えることも難しそう」

 ―それを改善するアイデアはありますか。

 「製品の開発・評価に、どの企業もこれまで以上に海外のスタッフを加えるなどしてはどうか。いろんな国が日本をポジティブに捉えているので、それだけで良いビジネスチャンスに出会う機会が増えるだろう」

(2017/8/17 05:00)

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