[ エレクトロニクス ]

【電子版】幻の勝利宣言、米WDミリガン社長の誤算-東芝威嚇の結末

(2017/10/8 08:00)

  • ウエスタンデジタル(WD)(ブルームバーグ)

(ブルームバーグ)スティーブ・ミリガン氏(54)は東京で勝利宣言する寸前だった。発表予定の声明の草案が用意され、握手シーンを撮るためカメラマンたちも呼ぼうとしていた。それはシリコンバレーの最高経営責任者(CEO)として、自身のキャリアのクライマックスとなるはずだった。

しかし実際には、ミリガン氏がカメラにポーズを取る前に交渉は中断していた。結局その数週間後に東芝メモリの売却先に決まったのは、米ウエスタンデジタル(WD)陣営でなく、ライバルの米投資会社 ベインキャピタルが主導する陣営だった。WDのCEOの功績の中で最大の誤算となった。

東芝が8カ月前に入札を開始したとき、ミリガン氏率いるWDには他の買収候補より優位性があった。それは東芝とのメモリー事業での合弁パートナーとして、ライバルを脅かすために使える可能性のある法的効力だった。

だが結局、ベインが交渉の最終段階で、東芝の最大顧客の1社である米アップルの介入に助けられ、2兆円でこの案件を勝ち取った。ミリガン氏には金額以外の部分への配慮が欠けていた。

マコーリーのアナリスト、ダミアン・トン氏(東京在勤)は「非常に多くの利害関係者がいたが、取引は常にタフで、WDにはもっと巧妙さが必要だった」と指摘する。「これは本質的にイチかバチかのポーカーゲームで、WDは自身の手口を過大評価していた」という。

「わがままな弟分」

WDはこうした記事の内容についてコメントを避け、ミリガン氏にコメントしてもらうことも拒んだ。東芝もコメントを差し控えた。この記事は、交渉の詳細が非公開であるとして匿名を条件に取材に応じた複数の関係者へのインタビューに基づいて執筆している。

ミリガン氏のWDトップまでの道のりは険しかった。最高財務責任者(CFO)を務めた会社を辞め日立製作所傘下で問題を抱えるハードディスク駆動装置(HDD)メーカーの経営を主導。2011年に再建を果たし50億ドル近くで元事業主のWDに売却した。WDはHDD業界最大手となり、ミリガン氏はCEOに上り詰めた。

ミリガン氏はさらに野心的に動いた。WDの市場価値とほぼ同等の160億ドル(約1兆9000億円)を費やし、東芝と長年の合弁関係にありフラッシュメモリーを製造するサンディスクを昨年買収した。しかし、それは「対等の合弁」ではなかった。三重県四日市市にある工場の敷地や建物、従業員、知的財産のほぼすべてを東芝が所有していた。

「東芝から見ればWDはある意味、弟分のようなものだった。技術もオペレーションも全部東芝が面倒をみていた」 と日本のメモリ-業界の重鎮であるエルピーダメモリ元社長の 坂本幸雄氏は語った。「その会社のトップが『お前の会社を買う』と言ったらどう思いますか。それは感情的になるでしょう」

猜疑心

サンディスクの買収直後で別の大規模な取引をする資金はなかったが、WDにとって東芝の「宝石をあしらった王冠」は魅力的だった。東芝はメモリ-の生産で首位に立つ韓国 サムスン電子の背中を追いかけていた。

メモリーは「iPhone(アイフォーン)」を含むあらゆる携帯電子機器の鍵となっている。さらに記憶容量の大きい最新世代では、サムスンと東芝が他社との差をますます広げ、ひいてはWDが手掛けるHDD市場を侵食していくことになる。

東芝のいら立ちはWD本社で4月に開催されたミーティングから始まった。メモリー部門の責任者だった成毛康雄氏(62)の反対側にはWDのミリガン氏が座っていた。会議出席者によると、ミリガン氏は買収に130億ドル(約1兆4600億円)という低価格を示す一方、他社への売却を阻止するため東芝の合弁相手としての権利を行使すると述べた。

関係者によれば、会議では冷静そうに見えていた成毛氏(62歳)は帰国する飛行機の中で憤慨していた。成毛氏はミリガン氏が事業を安く買うため東芝との問題を利用しようとしていると確信したという。

しかし、WD経営幹部の考えをよく知る人々によると、130億ドルという数字はあくまで初期段階の試験的なものだった。ミリガン氏が示したかったのは、競合他社を含む投資家グループに自分たちの共同事業が売却されてしまう可能性があるという懸念だったという。

「法的手段」対「アップル」

ミリガン氏はその後数カ月にわたり買収のためにあらゆる手を打った。5月に一方的に国際仲裁裁判所に事業売却中止で仲裁を申し立て、6月には米カリフォルニア州の裁判所に売却の差し止めを求めた。ライバルの入札者は、WDから訴訟をちらつかせる手紙を受け取ったという。

9月上旬までは、こうした威嚇は効果を発揮していたようだ。ライバルのベイン陣営の主要な投資家はWDを恐れた。官民ファンドの 産業革新機構と日本政策投資銀行は、訴訟が解決されるまでは支払いには応じられないとし、経済産業省もWDの支援に回った。早期決着を求める取引銀行もミリガン氏を勝利させることが最速の方法だと考えていた。

しかし、ミリガン氏らが祝杯を準備する中、企業買収の世界で何十年もの間、数々の激しい競争を戦い抜いてきたベインはあきらめていなかった。東芝メモリの案件では、早くから優先交渉先の地位を獲得するなど一度も有力候補の座を譲ったことはなかった。

WDのミリガン氏が自陣営がまだ優位にあると思い込んでいた9月初旬、買収資金上乗せのため新規の投資家が必要だったベインはアジア事業担当のデイヴィッド・グロス・ロー氏らが、アップルのティム・クックCEOと面会するため米加州クパチーノに飛んだ。アップルがサムスンとWDによるフラッシュメモリー市場の独占による価格上昇を懸念していたからだ。アップルはベインに対応を一任した。

不毛な交渉の果てに

先週、東芝がベイン連合と売却契約を締結したことで、8カ月間にわたる壮絶な交渉は終了した。わずか数週間前には勝利するように見えていたミリガン氏の立場は以前より悪化したようだ。ベイン連合には競合する米シーゲート・テクノロジーや韓国のSKハイニックスが加わり、東芝は単独で四日市工場に 増産投資すると発表した。

WDは今も提訴したままで東芝との対立は続いている。WDの弁護士であるジョン・ヒューストン氏は「仲裁手続きで成功するため法的努力を継続するつもりだ」とし、訴訟は2019年まで続く 可能性があると述べた。一方、訴訟が未解決でも東芝に買収資金は支払う契約をしたベインや東芝は、仲裁裁での勝訴を確信している。

WDの株主であるピッツバーグのフォート・ピット・キャピタル・グループの チャーリー・スミスCFOは「WDが最終的には裁判で勝利すると確信しているが、怒った東芝に合弁のメモリー事業から閉め出されるようなことがあってはならない」との考えを示した。そしてWDのHDDは「今はお金を生んでいるが7、8年後には終わる。そのときはまさに苦境に立たされているだろう」と語った。

原題: How to Make Enemies and Lose Influence in the Chips Business (1)(抜粋)

(2017/10/8 08:00)

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