[ オピニオン ]

【電子版】デジタル編集部から(62)ドイツに学ぶ産業のデジタル化(下)デジタルサービス企業へ変貌とげるシーメンス

(2017/10/17 05:00)

  • シーメンスのローランド・ブッシュ取締役兼CTO

ドイツが進める「インダストリー4.0」の中核企業の一つが電機大手のシーメンス。その事業領域は医療機器・ヘルスケアから鉄道など交通関連、エネルギー関連、情報通信、生産設備と幅広い。中でも電化や自動化以上にデジタル化が今後の市場の成長をけん引すると見て、会社全体でデジタル化を中心に据え、設備・インフラのモニタリングや効率運用を行うデジタルサービス、ソフトウエア事業、デジタルモノづくりを積極的に展開しています。

同社の2016年9月期の業績を見てみると、受注高が865億ユーロ(約11兆4000億円)、売上高796億ユーロ(約10兆5000億円)。前年度比でいずれも約5%の増加となっています。

9月に来日したローランド・ブッシュ取締役兼最高技術責任者(CTO)は同じ期にソフトウエアで33億ユーロ(約4300億円)、デジタルサービスで10億ユーロ(約1300億円)の売上高を上げていることから「世界トップ10に入るソフトウエア会社」という点を強調。同じく産業向けデジタル事業で先行するライバルの米ゼネラル・エレクトリック(GE)に対しては、「外部からは同じような取り組みに見えるかもしれないが、ソフトウエアの売上高の多さが当社の差別化要因だ」と断言しました。

ソフトウエア事業へのシフトを後押しするための買収戦略も活発化しています。07年に3次元CADの米UGSを35億ドルで買収したのに続き、主要なものだけでも11年にスマートグリッド(次世代電力網)向け電気・ガス計測管理ソフトの米イーメーター、複合材用構造設計・製造ソフトの米ビスタジー、12年には機械系シミュレーションソフトを手がけるベルギーのLMSインターナショナル、14年には製造実行システム(MES)の米キャムスター・システムズを取得しました。

さらに16年には流体・気体・伝熱シミュレーションの米CDアダプコに続いて、電子回路設計大手の米メンター・グラフィックスを45億ドルで買収し、大きな話題となりました。同年には米ベントレー・システムズの7000万ユーロ相当の株式を取得するとともに、3Dプラント設計ソフトなどの分野で戦略提携も行っています。

ただ、こうした買収はソフトウエア単体での売り上げ拡大を狙うというより、「デジタルツイン」を活用し、デジタルモノづくりを支えるピースの役割も果たしています。デジタルツインとはインダストリー4.0の中核となるコンセプトで、実物の工場設備や製品をデジタルデータとしてコンピューター内部にリアルタイムに再現し、あたかも実物の双子(ツイン)のような形でシミュレーションを行う仕組み。ほとんどの作業をコンピューター上で実施することで、製品開発や生産プロセス設計にかかる期間やコストを削減し、「高い生産性を担保できる」(ブッシュCTO)というものです。

シーメンスではデジタル事業拡大に向けて過去10年間で約1兆円をM&Aに投じたといいます。それでもブッシュCTOは、「市場は常に動いていて、そうした変動への対応が課題となる。今後もM&Aでソフトウエアの品ぞろえを強化し研究開発に力を入れながら、シェアを拡大していきたい」。こう述べ、今後も企業買収の手を緩めない考えを示しました。

もう一つ、産業用デジタル事業での切り札としているのが、クラウドベースのIoT用プラットフォーム「マインドスフィア(MindSphere)」でしょう。日本向けには4月にベータ版(正式リリース前のテスト版)の提供を始めています。産業用IoTの基本ソフト(OS)として、機械・設備のモニタリングやダウンタイムの削減、予防保全、エネルギーデータ管理、リソース最適化といったデジタルサービスに活用でき、個別の事業会社にとどまらず、都市の大気モニタリングや交通システムといったスマートシティー向けにも使われるとのことです。

「IoTの世界では1社で提供できるものは限られる。すべてのバリューチェーンをつなげるには、さまざまなパートナーとタッグを組む必要がある」(ブッシュCTO)とのことから、コンサルティングやアプリケーション開発などでのオープンなパートナーづくりを掲げるシーメンス。クラウドについても、独SAP、米マイクロソフト「アジュール」、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、仏アトス(AtoS)などのサービスに対応。最近では米グーグルがクラウド事業で攻勢をかけていますが、同CTOは「われわれはクラウドを持たない。グーグルクラウドでもまったく問題ない」とオープンさを訴求しています。

とはいえ、オープンなIoTプラットフォームやデジタルツインを切り口に、顧客の事業の根幹に入り込むのは、オープンな形でいながら顧客を囲い込む実に巧妙なやり方とも言えるでしょう。産業向けデジタルサービスのうねりとともに、かつてのパソコンOS戦争とは次元の異なる、企業連合でのIoTのプラットフォーム競争が世界レベルで加速していきそうです。

(デジタル編集部・藤元正)

(2017/10/17 05:00)

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