[ 中小・ベンチャー ]

中小が中小を育成、「ガレージスミダ」リニューアル “つながる”モノづくりに期待

(2017/11/30 05:00)

中小企業が中小企業を育成する―。浜野製作所(東京都墨田区、浜野慶一社長、03・5631・9111)が運営するモノづくりベンチャー支援施設「ガレージスミダ」が12月1日、リニューアルオープンする。現在、入居者は5社、年間相談件数は200件に上る。都市型モノづくりのビジネスモデルとして注目される。起業の連鎖が続く秘訣(ひけつ)について、ガレージスミダを探った。(高橋沙世子)

≪ハードとソフト、きめ細かな支援設備≫

【墨田から世界へ】

浜野社長は、「これからの中小企業は自ら新しいプロダクト発信や市場づくりを行う時代。海外にもモノづくり拠点があるが、大手の傘下ばかり。海外のスタートアップも東京・墨田に来てもらいたい。規模は違えども、世界の開発拠点はシリコンバレーだけではない。墨田からも世界にはばたいてほしい」とし、思いを込める。この強い思いがガレージスミダの原動力だ。

具体的には、ハードとソフトの両面からのきめ細かな支援システムが最大の特徴だ。起業をはじめモノづくり企業が利用料を支払えば、拠点提供から試作品開発、経営面などの一貫した支援を受けられる。拠点や設備面の提供、技術面の指導などは浜野製作所が担う。一方、投資など資金面の支援は資本参加するリバネス(東京都新宿区)の子会社グローカリンク(同)が行う。グローカリンク代表取締役も務めるリバネスの長谷川和宏執行役員は「日本の町工場の技術力は世界的に高い。ノウハウを持つ人たちを、モノづくりをしたいベンチャー企業とつなげば広がりが出る」と考え、ガレージスミダへ資本参加した。

【新規相談相次ぐ】

「規模の大小は問わず、新規事業の相談が毎日多数寄せられる」と話すのは、浜野製作所の営業企画部副部長でガレージスミダ総括担当の小林亮氏。

業界別では、ロボット・運搬・農業・食品の省人・省力化に関する相談が多く、案件別では、開発が2―3割、部品加工が6―7割を占める。「図面やデータのない構想段階のヒアリングから、設計図に落とし込むところまで支援している」という。

2014年の開設当初は倉庫の一角、約50平方メートルのスペースで運営し、人数も数人程度だった。今回のリニューアルで約7倍の347平方メートルに拡張し、フリースペースも約40席に大幅拡張した。また、入居者用の個室を4室用意。個室内はエアコンや書類保管用のロッカーを完備し、2人並んで作業ができる机も設置し、机上で電源利用もできる。

  • 入居企業第1号のチャレナジー(墨田区)がガレージスミダで製作した風力発電装置の試作機

≪入居第1号のチャレナジー、風力発電装置開発≫

【大震災が転機】

ガレージスミダ開設は、13年に東京都墨田区が始めた「新ものづくり創出拠点整備事業」への採択がきっかけ。資本参加したリバネスが運営する創業プログラム「テックプランター」から、支援が必要なモノづくりベンチャーを呼びよせた。

14年に行われた同プログラムのビジネスコンテスト「第1回テックプラングランプリ」で最優秀賞を受賞したチャレナジー(東京都墨田区)の清水敦史最高経営責任者(CEO)は、ガレージスミダ初の入居者。清水氏はキーエンスでセンサー開発の技術者だったが、11年3月11日の東日本大震災以来「エンジニアとして、発電に有用なものを何か生み出せないか」と考えていた。再生可能エネルギーについて書籍を読みあさり、設備容量などの点で潜在性が高いのは風力発電であることを知った。「日本は島国で平地も少ないため風力発電は実現しづらいが、日本で風力発電を実現したら世界で通用するとNEDOの白書で確認」し、清水氏は本格的に風力発電装置開発に乗り出した。

14年10月、コンテスト出場後、ガレージスミダに入居しチャレナジーを設立。隔週ペースで技術会議を開き、浜野製作所の最高技術責任者の金岡裕之専務らに技術アドバイスを受けたという。「設計段階から相談しているので話が早い。普通の工場に頼むと約1週間は要する部品加工も、その場ですぐつくってもらえ、1時間後に出てくるのがありがたかった」と、清水氏は振り返る。16年夏、試作機を沖縄県南城市に設置。17年10月28日に台風22号が直撃したが、試作機は屈せず、現在も設置されている。

  • ガレージスミダの共同スペース3

≪ロボ専門人材確保が課題≫

【ボストンに続け】

最近、ロボット製造案件が急増しているという。「産業分野のロボットはさまざまな大手が開発を進める一方、サービス分野のロボットは費用面からも参入しようとする企業はあまりない。いわば“未知の領域”だ」と小林氏は語る。構想段階で寄せられるサービスロボの依頼は、例えば二足歩行をした上で来客対応や案内をさせるといった費用対効果重視の企業では着手が難しい。「個人の趣味レベルでも依頼がある」と小林氏。その上で、ロボット分野に精通した人材確保が課題だ。

ガレージスミダについて、チャレナジーの清水CEOは「米ボストンにガレージスミダのような技術支援を受けられる『グリーンタウンラボ』というモノづくり向けインキュベーション施設があり、ベンチャーが何百社も入居している。ガレージスミダも日本初でグリーンタウンラボと並んでほしい」と期待を寄せる。

経済産業省製造産業局の徳増伸二ものづくり政策審議室長は「ベンチャーの優れたアイデアやとがった技術と、実際にモノをつくる力に優れる中小企業がうまくつながることで、優れたアイデア・技術を迅速にモノの形に具現化することを可能とした。これは“コネクティッド・インダストリーズ”の先進事例」と評価する。その上で「こうした互いの強みを生かした新たなつながりにより新たな価値創出を目指す取り組みを、さまざまな地域や中小企業でも増やすことが課題」と指摘する。全国各地で、新たな融合で価値創出を生み出す動きが広がれば、地域経済の活性化が加速するに違いない。

(2017/11/30 05:00)

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