[ トピックス ]

建設業界を変える新技術 ビルディング・インフォメーション・モデリング

(2017/12/21 12:30)

業界展望台

建設業のあり方を変える、新たな技術が生まれている。それが「ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)」だ。業界が抱えている生産性向上の必要性、プロジェクトの長期化など、あらゆる問題を解決できる。建物の設計、施工から維持・管理まで多くの工程で活用でき、今後、建設業界ではBIMが主流になると予測されている。

3D形状に情報付加 施工から維持管理まで活用

BIМとはコンピューター上で作成した建物の3次元(3D)の形状情報に加え、材料・部材の仕様や性能、仕上げ、コストなどの属性情報を持つ3Dモデルを活用すること。作成した建物情報モデル(BIМモデル)は企画から設計、施工、維持・管理に至るまで、あらゆる段階で利用できる。建物情報を一元的に統合できるので、建物のライフサイクル全体を通して活用することも可能だ。

従来のCADとの大きな違いは、BIMモデルに属性情報が含まれていることである。CADデータは図面の線をデジタルデータにしたもので、情報としては手書きの図面と変わらない。一方、BIMモデルは3Dの形状の情報だけでなく、図面以外の多くの情報を盛り込める。例えば、建材パーツには幅や奥行き、高さに加え、材質、組み立ての工程などが盛り込める。

今までは2次元(2D)の図面を作った後、3Dのコンピューターグラフィックス(CG)やアニメーションを作るのが主流だった。一部に修正が入ると関連する2Dの図面を全て修正し直す必要があり、大きな手間がかかっていた。

BIMでは、BIMに対応している3DCADで、初めから3Dモデルを作製する。このモデルから必要な部分を切り出して、平面図や断面図など2Dの図面やパースが作成できる。BIMモデルを部分的に修正しても、関連する部分は全て自動で反映されるので、常に図面間に整合性が保たれる。これらの特徴を生かすことで、図面間の不整合を防ぎ、作業を効率化できる。

  • 従来のCADとBIMの違い(出典:日本建設業界連合会『施工BIMのすすめ』)

工数削減、省力化に

国内でBIMの活用が本格化してきたのは、ここ数年である。最近では、設計段階だけなく施工段階でもBIMの活用が進んでいる。2016年に日本建設業連合会が会員企業62社に対して行ったアンケートの結果によると、施工段階の中でBIMを活用している業務は、発注者・設計者との合意形成(もの決め検討、確認など)が多かった。3Dモデルを任意の角度から眺めたり、断面を必要な箇所で切ったりすることができるため、形状の理解が早まる。

設計上で部材同士が重複して存在していないかを確認する「干渉チェック」にも多く活用されている。意匠、構造、設備の担当者ごとに設計した結果、施工時に構造部材や配管などがぶつかることが分かり、図面を修正することが多く起こる。また、平面的にダクトや配管が何段も重なる部分や縦方向に貫通する配管スペースなどを、平面図と断面図から3次元的に想像するのは難しい。これらの問題を解決するためにBIMの活用が有効だ。3Dモデルをコンピューター上で重ね合わせることで、干渉部分が判明し、施工に取りかかる前に解決できる。

元請けと専門工事会社が連携した施工BIMは効果が実証されつつある。例えば、BIM連携が必要な作業の割合が特に高い鉄骨工事では、鉄骨と昇降設備の調整にBIMモデルが活用されている。従来の鉄骨と昇降設備の調整では、まず、昇降機メーカーが鉄骨ファブリケーター(FAB)に対して昇降機鉄骨部材の要求図面を作成する。次に鉄骨FABが鉄骨と昇降機鉄骨部材の取り合い部分を検討する。その際、昇降機メーカーは鉄骨メーンフレームも作図しており、鉄骨FABは昇降機鉄骨部材をチェックするための詳細図を作成している。お互いに異工種の図面を作成しているため、作図、チェック、修正に多くの工数を要している。建物の規模によっては、チェック用の要求図面が数百枚になることもある。昇降機鉄骨部材の調整をBIMモデルのみで行うことで、これらの2D図面を省略できる。

  • 鉄骨と設備の干渉チェック例(出典:日本建設業界連合会『施工BIMのすすめ』)

国際標準化で実証続々と

異なるソフトウエア間でBIMモデルを相互運用するための国際標準仕様の形式「IFC(Industry Foundation Classes)」が開発されており、世界各国でIFCを活用したBIM実証実験や実プロジェクトが行われている。

2000年にフィンランドで行われた実験プロジェクトでは、大学の建物に施設を増築する際、IFCを活用したBIMデータ連携を行った。3D建築CADから出力されたIFCデータを中心に、さまざまな異業種ソフトウエア間のデータ連携が試された。例えば、ホール空間の空調や照明のシミュレーション、ライフサイクルコストや環境負荷の分析、施工計画検討、仮想現実(VR)を用いた設計案検討などである。これにより、発注者の意思決定の効率化や投資判断リスクの低減に効果があったとされている。

米国では公共発注者がBIMの普及をけん引している。連邦調達庁(GSA)は07年度予算以降の主要なプロジェクトでBIMとIFCの活用を発注条件としている。GSAは連邦政府所有施設の建設、管理を行っている連邦政府機関。膨大な量の施設管理を効率化し、発注したプロジェクトのコスト、工期のオーバーランなどの問題を解決するため、BIMを活用している。実証プロジェクトで、空調、エネルギー、ライフサイクルコストのシミュレーション、施工計画の検討など、IFCのデータ連携によるさまざまなBIM活用の検証を行った。米国の中でも最大級の発注者であるGSAが方向性を示すことで、民間によるBIMの新しい技術の開発やプロジェクトへの導入が進むことが予想される。

今後は設計、施工だけでなく維持・管理にもBIMの活用が期待される。ビルディングスマートジャパン技術統合委員会の足達嘉信委員長は「今後は拡張現実(AR)やVRを使って天井や壁の裏にある設備を可視化し、管理に生かす技術が発展してくるだろう」という。まだ発展段階にあるBIMの技術。今後も新たな活用法を生みだす可能性を秘めている。

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(2017/12/21 12:30)

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