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【電子版】マーケティングの出番ですか?(24)生活者の真意を見極める「抗菌」の話

(2018/3/17 07:30)

抗菌商品ブームとその時代

90年代半ばに「抗菌」ブームがありました。今では生活の中に定着した抗菌商品ですが、身近での始まりはボールペンあたりから浸透していきました。他人が触った(かもしれない)ものには「基本、触りたくない」というニーズに応えた商品でした。

また、「付加価値」であり「差別化」の急先鋒でもありましたが、人の弱みに付け込んだような、ある意味で「不安陽動型商品」と言えなくもありません。それでも売れたのは事実で、潜在ニーズがあったことを見事に物語っていて、今日では当たり前の機能=「New Standard(ニュースタンダード)」とさえなっています。

住宅関連業界でのパラダイムシフト

当時、各企業が「抗菌」を検討する中で、我が住宅関連業界は、特にキッチン・バス・トイレといった水回り商品も多く、元より「カビ・菌」の温床という宿命を背負っていたことは、以前に浴室の話でも触れたとおりです。

ちなみに「カビ・菌」という表現は、漢字では「黴・菌」、すなわち「バイキン」であることは、若い読者は知らないかもしれません。「カビ・菌」もきれいではありませんが、「ばい菌」だと「病原体」という連想が湧くのでさらに嫌悪感が湧きます。

さて、住宅業界では生活者のこの新しい「清潔要求」以前から、カビによる黒ずみが美観上の問題であり、お手入れの不満として長年の課題でした。つまり、美観上の問題から、清潔志向の問題へとパラダイムシフトが始まっていたのです。

逆に、業界的にはその対応にある種アドバンテージを持つ課題とも言え、コストアップを抑えつつ、技術に見合う対価を得られるかどうか、また生活者の「真の要求」判断が当初の参入要件でした。

一口に「抗菌」といっても、「抗菌洗剤」のような一時的処理、商品の表面を加工コートする処理、効果の永続性を高めた抗菌樹脂、さらには素材自体に抗菌力のある特定木材や銀・銅製品など様々あり、コストも原材料や加工技術との組合せで“ピン・キリ”でした。したがって、生活者ユーザーの要求水準を見極めることが、必要な経営資源投資の決断をする上で重要なカギでした。

そこで、「マーケティングの出番」でした。

生活者のニーズを疑え

私の生活者研究室では、抗菌ボールペンはじめ生活者の清潔志向に対する情報収集は既に出来ていたので、経営サイドの抗菌機能に対するユーザーの評価要求は「想定の範囲内」でした。しかし、当時、すでにその「抗菌ブーム」にある疑問を抱いていたのです。

それは、先の「バイキン」表記問題とも関連しますが、社内でも一部専門家を除けば、「抗菌」の何たるかを正確に理解していない、という想像に難くない事実でした。私自身、長年「防カビ」研究をしていたのに、「抗」菌というのがどんなレベルの防御なのか、明確に言葉にできなかったからです。「殺菌」「滅菌」ならいざ知らず、です。生活者の意識は「無いよりはまし」かもしれませんでした。

そもそも「抗菌」機能とは何か、生活者は何を根拠に「抗菌商品」を信頼しているのか、効き目を実感できるモノサシはあるのか、その対価は幾らまでなら見合うのか、技術的基準以前に、生活者価値としての機能水準こそが、「抗菌」の存在価値を握っていました。

そんな疑問の答えを得るために、事業部から調査費が降り、調査に着手しました。先ずは、ざっくりとした清潔志向やそれに絡めた抗菌商品のとらえ方、購入経験や購買意向を聞きました。予想に違わず、ユーザーの清潔志向意識は高く、抗菌商品への関心・ニーズも相応にあることが確認できた一方では、抗菌が人体の健康に及ぼす影響を懸念する声も聴かれました。すなわち、いたって常識的な範囲で清潔を求めていました。対価については、本当に必要な部位なら相応の「割り増し」を支払ってもよい、と答えていました。

生活者に寄り添った調査設計

結果を受けて項目を精査し、同様な調査をさらに行ったのですが、ここで少し工夫をして2段構えの設計をしました。それは、現状の意識を聞きつつ、「抗菌機能に関する基礎知識」の確認をしてもらってから、改めて設問に答えてもらうというスタイルでした。

実機能を明確化した結果、生活者のニーズは一部で下がりましたが、抗菌の必要性は特定の商品・部位には明らかに存在し、その機能・効果に対する対価はそれなりに支払われる意向が確認できたのです。

経営は、これも拠りどころとしつつ、最終的に「水回りまるごと抗菌計画」を打ち出して、価格据え置きで全領域に抗菌機能を順次展開していきました。また、技術的には生活者の「健康・安全志向」にも対応し、安心な「銀抗菌」を採用しています。

  • 【図1】宣伝部の商品キャンペーン

  • 【図2】「抗菌の絵本」

我々研究室では、宣伝部の商品キャンペーン【図1】と並行して、広報室と「抗菌の絵本」【図2】を制作し、子供を持つ身として心配なお母さんたちに、分かりやすく正しい知識を持っていただき、過剰にならない「抗菌商品」選びを教育啓蒙する狙いで発信しています。絵本作家の先生にお願いし、お母さんが楽しく子供に読み聞かせながら、共に学べる内容を心がけました。抗菌商品はその後も定着していますし、当時の企業としての取組みも大きな成果を上げたようです。

我々のマーケティングの成果がどれほど寄与したかは別として、マーケティング・リサーチをする上での視点の持ち方、生活者とのコミュニケーションの取り方という意味では、その後の調査研究に大きな指針となった事例でした。

(『新製品情報』2017年6月号掲載)

(土曜日掲載)

【著者紹介】

竹見 太郎

イメージライト研究所研究主幹

イメージライター

東京都出身

消費生活アドバイザー(内閣総理大臣及び経済産業大臣事業認定資格)

元株式会社INAX 生活者研究室・室長。入浴スタイル研究から「半身浴」を発掘・提案し、今日の普及に大きく寄与した。『半身浴ABC』発刊。元生活情報誌『い~な』編集長。また、「伊奈製陶」から「INAX」への社名変更を含む全社員運動のCIセンターも担当。

(2018/3/17 07:30)

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