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【電子版】マーケティングの出番ですか?(25)事業開発としてのM&A戦略事例

(2018/3/24 07:30)

M&Aは究極の事業開発?

国内のM&Aは、不況期における生き残り戦略としての金融機関の合併統合に始まり、ITバブル時代における新興企業の事業拡大、多角化戦略、そして昨今では成熟市場における寡占化戦略の一環や、事業の「選択と集中」戦略から不振事業の売却など、市場環境に応じて様々にその経営手法が利用されてきました。

最近では、電力業界の再編機運や業績不振の大手製造会社における生き残りをかけた優良事業の売却など、技術保護の国策も相まって、より複雑な様相を呈する例も見られます。

欧米において、M&Aが事業開発の有力な手法として定着している一方、経済の低迷が20余年と長期に渡る日本経済にあっては、M&Aはどちらかと言えば、最後の手段という後ろ向きのイメージがあるのではないでしょうか?

このような認識を持つ筆者のところに、長年取引を行うA社の社長より「会社、もしくは主力事業の売却を検討したい」と相談を受け、とても意表を突かれました。一般的に国内でM&Aが検討されるきっかけは、売却の立場では業績不振や後継者の不在など、経営の持続が困難である場合が多いと思われますが、A社は過去10年間黒字を堅持しており健全な経営状態です。

そんなA社の社長が中長期的な視点からM&Aを検討する背景には、「人材確保、育成の負担感」「経営資源(人、モノ、金)管理実務のマンネリ化」「会社の高い資産価値」、加えて、現場からたたき上げのオーナー社長の「経営の煩わしさから解放され、再び現場の第一線に復帰したい」という強い意向がありました。このような理由から、国内ではまれな出口戦略としてM&Aを検討することになりました。

出口戦略として理想的な売却方法

国内では、会社や事業の「買い手」も「売り手」も、その選定・評価、意思決定プロセスに十分なノウハウを持つ企業が少ない現状から、金融機関、M&A仲介専業会社等が支援サービスを行っていますが、財務体質に問題が無く、また、10年以上にわたる優良な顧客と安定的な取引、信頼関係を構築しているA社において今回のM&Aを成功させるポイントは、買収元における買収後の事業の最大化を描くことにあります。

実際には、水平型M&A(シェア拡大、ノウハウ吸収など)であれ、垂直型M&A(生産・流通・販売強化など)であれ、買収元にどれだけの収益をもたらすのかを具体化することが必要であり、通常、買収側が行うPMI(ポストマージャーインテグレーション ※買収後の統合プロセス)の取り組みを、検討の段階より売却側であるA社も一体となって行うことが理想的です。

無形資産の見える化

M&Aによるシナジー検討、PMIの取り組みに際して、A社の「商品」「ブランド」「企業文化」「人的資源」などの無形資産価値を“見える化”することはとても有効です。A社は小規模ではあるものの主力事業においては業界でも先駆的な取り組みを数多く行っており、認知度、知名度ともに申し分なく、また、好立地も相まって、確固としたブランド力で数多くの顧客との取引実績を有しています。また、非主力事業においても、主力事業のブランド力を利して、新規顧客の開拓、他社との差別化、高付加価値サービスの提供を行っています。

ここで、A社の無形資産を資産項目とそれに適した売却における価値評価手法を例示的に表にまとめてみました。

会社の売却か、事業の売却か

自明ですが、「A社をまるごと売却するか、あるいは主力事業のみを売却するか」は、両社におけるM&Aの目的、およびM&A戦略(そしてPMI展開)に大きく影響します。短期的(財務面)、中期的(経営面)、長期的(市場面)な視野で両社における最大価値を見出すことが求められますが、候補となる買収元企業という要素も相まってM&Aプロセスをより一層複雑なものにします。

当認識のもと、事業開発支援コンサルティングを行う弊社として、A社に以下の検討プロセスを提案しています。

(1)M&A基本方針の策定(目標、体制、期間)

(2)買収元企業の選定(水平型:2~3社、垂直型:1~2社)

(3)両社におけるM&A基本方針の合意形成

(4)M&A実務の確認

(5)M&A戦略、PMIプロセスのプロジェクト発足

ゲーテの格言に「利己的でない好意的な行いが、最も高い最も美しい利子をもたらす。」がありますが、現代のM&A戦略にあって、A社と買収候補企業がこの格言の深謀遠慮に迫れるか期待を膨らませています。

(『新製品情報』2017年7月号掲載)

(土曜日掲載)

【著者紹介】

武道 誠芳

株式会社テンプロテクシー代表取締役

(マネジメントコンサルタント)

所属:(株)テンプロクシー にて、コンサルティングサービス、マーケティングサービス、ロボットビジネスを展開

生年:1960年

出身:富山県

学歴:横浜市立大学商学部卒業

経歴:外資系コンピュータメーカー、システムコンサルティング会社、サイパン航空事業への参画後、1996年起業

(2018/3/24 07:30)

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