[ トピックス ]

【電子版】経営戦略としてのIoT・第4次産業革命~ビジネス・システム・イノベーションの時代~(16)

(2018/4/13 05:00)

「部分最適の総和が全体最適になるわけではない時代」(下)

~会計的な管理(要素還元主義)とシステム的な管理との相違~

M&Aの際、海外企業は、情報システム、組織、OM(オペレーションマネジメント)を変え、半年から1年程度で自社のオペレーションに取り込む。日本企業のM&Aは、単にBS(バランスシート)とPL(損益計算書)が見えるようにするだけで、あとは日本企業の文化を移植する(?)と真顔で言っている経営者の方が多数派のようにみえる。これでは、M&Aの投資生産性に大きな格差が発生してしまう。

スマートなマザー工場のためのインフラ整備も同様である。統計的に語ることができないが、日本企業の複数の工場管理の方法によく観察されるのは「工場間で互いに生産性を競争させる」という管理方式が多いのではないかと考えられる。これも部分最適の落とし穴に陥りがちである。こうした管理方式では、スマートなマザー工場に必須のグローバルな“共通の知識データベース”を構築しようというインセンティブが働かない。

(中小企業の陥穽<かんせい>)

中小企業の経営者が陥りがちなのは、「全部人手でやっています。うちみたいな規模だと全て人で管理できますから。もちろん、エクセルとアクセスは最大限使っていますよ」というケース。製品の品質は優れているので、何の問題もない、と思われがちだが、これにも、みえにくい潜在的な課題がある。

最近、東南アジアの投資家が日本の中小製造業に強い関心があり、日本に物色に来ている。地方銀行が製品をもってシンガポール等に行き説明すると、「素晴らしい、是非こうした企業を見学したい」ということになる。ところが、約1週間のツアーで10社程度見学したあとの投資家の評価は、「製品は素晴らしい。ただし、大変恐縮ではあるが、残念ながらわれわれの投資適格条件を満たしていません」ということが多い。

理由は、「ERPもスケジューラーも導入されていないこと。かつ、現場管理層の年齢が60歳以上、QCD(品質・費用・納期)などの基本的なオペレーションが人に依存している。これでは投資はできない」ということ。例えば、売上げ50億の企業で利益率10%の企業でも、彼らからすると「製品は素晴らしいが、組織知での経営になっていないため事業の継続性に疑問があり、投資できない」ということになる。50億の企業の価値を約50億とすると、10社あつまれば、500億になる。これらの企業価値がゼロというのは、果たして正しいのか、と言いたいところだが、これが今起きている現実である。

一方、この企業の経営者は「私はものづくりが好きだったからやってきた。息子には継がせられない。売却できなければ、黒字でも廃業して構わない」と言ったりする。これは、地域経済にとっては大変な損失になる。

(“全体最適”視点から、OMを評価・構想・設計する責任組織の設置が効果的)

最も重要なことは、こうしたことは「経営幹部が気づかなければ、現場がいくら優れていても現場から稟議は上がらない」ということである。現場から、全体最適投資の稟議を起案すると、「下手をすると『経営批判』と捉えられ左遷に繋がりかねない」と、エリート街道まっしぐらの優秀なエリートは「手をつけない、構造問題としてわかっていても、変えられない」という問題になることが多い。もっとも、風通しがよかったかつての日本企業は、経営批判と言われようが提言する若手や中堅幹部が多々存在していた。

バブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災を経て、史上最高益を誇る日本の製造業に、今こそ、“全体最適”の視点からOMを評価・構想・設計する責任組織を設けることが必要と考えるが、いかがであろうか。

(隔週金曜日掲載)

【著者紹介】

藤野直明(ふじの なおあき)

野村総合研究所 主席研究員

専門はSCM革新のコンサルティング。近年、第4次産業革命やIoT、オムニチャネルリテイリングでの調査研究・コンサルティング活動を、民間企業、産業政策双方の視点で行っている。日本オペレーションリサーチ学会フェロー、オペレーションマネジメント&ストラテジー学会理事、ロボット革命イニシアティブ協議会WG1情報マーケティングチーム・リーダー

(2018/4/13 05:00)

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