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【電子版】デジタル編集部から(73)『テクノロジー・スタートアップが未来を創る』 TomyK代表・鎌田富久氏に聞く(上)

(2018/3/30 16:30)

東京大学発ロボットベンチャーのSCHAFT(シャフト)を米グーグルに紹介し、買収を橋渡しした人物としても知られる鎌田富久氏。モバイルインターネットの先駆けとなったACCESS(アクセス)の共同創業者で、今ではTomyK代表としてテクノロジー系ベンチャーの起業支援を行うかたわら、母校・東大のアントレプレナー講座のゲスト講師も務める。このほど『テクノロジー・スタートアップが未来を創る』(東京大学出版会)という本を出版した鎌田氏にインタビューしたところ、モノづくりも含めたテクノロジー・スタートアップの重要性と社会の支援、さらには大企業とスタートアップの協創などについて熱く語ってくれた。

  • ACCESS共同創業者/TomyK代表の鎌田富久氏(撮影:冨家邦裕)

若者はテック起業家めざせ

■この本のテーマは「若者は起業家をめざせ」という部分だと思いますが、なぜサービスなどではなく、テクノロジー・スタートアップなのですか。

サービスやネット系、ゲームなどのスタートアップは日本でもけっこう出てきている。むしろテック系は少ない。一方でインターネットやデジタル関連は米国勢に牛耳られてしまっているので、次のイノベーションを狙えるのはテクノロジー・スタートアップだと思っている。

■そこでは、まだまだ日本のスタートアップが活躍できる余地があると。

そうだ。そこにはモノづくりも含まれるし、あったほうがいい。ただ、モノづくりだけだと安く作るところが後から出てきてひっくり返されるので、モノづくりとソフト、サービスをくっつけるようなパターンが望ましい。

■今まで日本はハードウエアでは強みを発揮していましたが、コンシューマーの電機中心に競争力が失われてしまいました。

薄型テレビやスマートフォンもそうだが、モノづくりの良さだけでは勝ち残れない。そこにサービスを融合してプラットフォームにするようなものが重要。たとえば、ソニーや任天堂のゲーム機は、ハードウエアとその上で動かすアプリケーションサービスをプラットフォーム化したので大勝ちできた。ロボットでもIoT(モノのインターネット)でも人工衛星でもいいが、ハードの上でほかの事業者がビジネスできるエコシステムを作り、グローバルに展開できれば勝ち目がある。

社会の支え必要に

  • 『テクノロジー・スタートアップが未来を創る』

■一方で、シリコンバレーだけではなく、中国がスタートアップを大量に輩出しています。日本のスタートアップは対抗できますか。

対抗しなければいけない。中国は自国の市場が大きいので、日本の製造業が伸びたときのように何をやっても売れる状況にあり、スタートアップがたくさん出てきている。日本は高齢化に医療費削減、労働力不足と世界が将来直面する課題を先取りして抱えているので、そこでいいテクノロジーやソリューションを作り出していけば、かなり行けると思う。

■中国やシリコンバレーなどの海外勢に比べ、日本のスタートアップに足りないものは何ですか。

中国と比べてはいけなくて、中国はみんな豊かになりたい、金を儲けたいというガツガツ感がめちゃくちゃある。それに対し、今の日本の若い世代は生まれたときから裕福でガッツさを求めても無理。それよりも日本では社会を良くしたいとか、課題を解決したいという思いから新しいタイプのスタートアップが出てきている。足りないのは社会の支え。メディアにはスタートアップを応援する記事が載ったりするようになったが、失敗しても次に生かせばいいという環境づくりが必要だ。一方で、日本は大企業による新卒一括採用のようなやり方はそのうちなくなると思うが、多様性を大事にする空気ももう少し必要だと思う。

外国から人材を呼び込むには

■多様性という点では、外国人がメンバーのテクノロジー系スタートアップも増えてきています。外国の優秀なエンジニアや起業家にシリコンバレーではなく日本に来てもらうにはどうすればいいでしょうか。

僕が応援している中で外国人の従業員が多いのは人工衛星のアクセルスペース。宇宙関連の事業をやりたいのに、自国に大きな研究所や企業がない人は外国に出ていくしかない。米国が一つの候補にはなるが、ビザが出にくく、国防上、宇宙分野で外国人の雇用を絞っている。対して、日本は宇宙関係で頑張っているほうなので、いろんな国から人材が来ている。JAXAもこれからスタートアップと組むということを言っているが、スタートアップ向けに施設や設備を使わせたらいいと思う。そのほか、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の研究も進んでいるし、医療系もいいかもしれない。日本がリードできる分野で政府が支援し、外国人を呼び込めば結構集まるのではないか。

「リアル世界モノづくり×AI」

■テクノロジーの分野ではAIがカギになっていて、米国、中国が先を行っている。日本のスタートアップは今後、AIをどう取り込みながら、あるいは開発しながらやっていけばいいのでしょうか。

データを牛耳られているのでインターネット上のAIで日本が勝つのは難しい。僕の考えでは「リアル世界モノづくり×AI」を日本はやるべき。自動車もそうだし、医療機器とかセンサーを組み合わせたものにAIを使うとか、そうした分野はこれからが勝負。決して日本が有利というわけではないが、たとえば日本のCT、MRIなどの医療データは質が高い。眠らせておくのはもったいない。AIを適用して早期診断への活用をどんどん進めていけばいい。

■企業の間ではIoTが叫ばれ、データを集めようという話にはなっているのですが、集まったデータをうまく使って、どうビジネスにつなげていくかの視点が足りないのではと感じています。かたや第4次産業革命と言っているので、ビジネスモデルなり、やり方をガラリと変える考え方を持つ人材が大企業やスタートアップには必要なのかもしれません。

大企業には優秀な人が多いが、既存の事業もあるし、そっちをつぶすことになるかもしれないので同じ組織ではやれない。外に出さないと難しい。本の中では「特区」と書いたが、社長のコミットメントをもらい、全責任を負って既存の事業に関係なく取り組める体制にしてあげないと。既存の事業は長期的に見てシュリンクしていくので、大企業こそこうした取り組みを採り入れるべきだ。

日本の製品は品質も高いし、故障もしないので長持ちする。本当はシェアリングの方が向いていて、稼働率を上げて使い倒したほうがいいはずなのだが、ビジネスモデルを急に変えられないところがネックになっていると思う。

本気で取り組め

■20世紀型の製造業の在り方に慣れてしまっているということですね。

組織も大量生産型になっている。それを壊すやり方としてはスタートアップにやらせておいて、買収で外側から取り込むとか、内側の優秀な人を分離して先にやらせるとか、いろいろ手はある。CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)やオープンイノベーションの取り組みも含め、ちょっとやるぐらいでは変わらない。本気で取り組むことが大切だ。(次回に続く)

(デジタル編集部・藤元正)

【略歴】(かまだ・とみひさ)東大大学院理学系研究科情報科学博士課程修了、理学博士。ACCESS共同創業者。東大在学中の1984年にソフトウェアベンチャーACCESSを荒川亨氏とともに設立。組み込み向けTCP/IP通信ソフトや、世界初の携帯電話向けウェブブラウザーなどを開発。携帯電話向けのコンパクトなHTML仕様「Compact HTML」をW3C(World Wide Web Consortium)に提案するなど、モバイルインターネットの技術革新を牽引した。2001年に東証マザーズに上場しグローバルに事業を展開。11年に退任。その後、スタートアップを支援するTomyKを設立し、ロボットベンチャーSCHAFT(米グーグルが買収し、現在はソフトバンクグループ傘下)の起業を支援するなど、ロボット、AI、IoT、宇宙、ゲノム、医療などのテクノロジー・スタートアップを多数立ち上げ中。愛知県出身、61年生まれ。

(2018/3/30 16:30)

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