【コネクテッド インダストリーズ vol.6】日立製作所・中西会長インタビュー/立ち上がれ日本の経営者たち

(2018/4/23 09:30)

  • 日立製作所・中西宏明会長

「常に壊していかないとダメなんだ」

 2009年の巨額赤字を受け社会インフラ事業へ経営資源を集中した日立製作所。今では「コネクテッドインダストリーズ(ソサエティ5・0)」をけん引する代表企業だ。会長の中西宏明氏は日立の経営改革をリードする一方で、最近は政府の政策に対し民間の立場から積極的に提言している。日本の産業革命と世界の潮流をどう捉えているのか。自らの経験を元に、日本企業が向き合うべき課題などについて語ってもらった。

営業の前線がプロフィットセンターに

 ーいきなりライバル会社の話題からですみません。製造業の中でもコマツは建設機械を遠隔監視する「コムトラックス」で、モノを売った後のサービスで稼いでいます。日立よりコマツは約10年早く経営危機があって、逆にそれで思い切ってかじを切れたとの見方もできます。

 「日立はこれまで徹底して製造業を貫いてきて、工場のオペレーションについては相当訓練されているんですね。多くの失敗をバネに改善していくことに長けた人は数多くいる。でも、これからはその延長線だけじゃ全然ダメなわけだ。お客さんがこう考えているから、自分たちの事業もこう変えていこうというのは、それこそ経営層が決定すべきことですよ。その意味でコマツの坂根(正弘元社長)さんのリーダーシップは大きいと思いますよ」

 「工場ではなく、お客さんに近い営業の前線がプロフィットセンターにならないといけない。この原材料はいくらで買って製造コストはこれだけだから、いくらもうかります、というモデルでは、もう通用しない。自分たちのソリューションを提供することで、お客さんの売り上げが増え、どのくらいコストを下げられるから、得られたプロフィットを『7対3』とか『6対4』でシェアしましょうという発想・説明をしなければいけない。顧客体験をどう創るかが競争軸です」

  • 「顧客体験をどう創るかが競争軸」(中西会長)

お客さんと一緒に市場をクリエイション

 ー坂根さんはコマツにしか創れない“断トツ”サービスという言い方をしています。日立はここ数年、IoTにフォーカスしていますが、日立にしかない顧客体験はありますか?

 「コマツは建機という領域に絞ってコネクテッドな世界を作り付加価値を広げていきましたね。我々の持っている事業領域は広範囲なため、ビジネスのやり方が異なる。まず、業種や国・地域が違うと、求められるニーズも変わってくる。分かりやすい例でいえば鉄道。日本の鉄道事業者は、運行管理やデジタル化を事業者自身で手がけているが、海外の鉄道事業者からは、そういった企画・管理・運営も含めて『全部やってほしい』という要望を受ける。日立は、日本の鉄道事業者と一緒になって鉄道システムを作り上げてきた経験やノウハウがあるので、その経験を生かし、海外地域でも花開こうとしている」

 「でも日立が本当にやりたいのは、さらにその先を行く市場のクリエイションです。どういうことかというと、新興国では、鉄道の駅を降りてから、次の交通手段に誘導するようなトランスポーテーションの総合サービスを、お客さんと一緒になって発見し、定義し、展開していかないと市場の成長に結びつかない。だからお客さんに対する見方もアカウント(個別企業)だけではダメで、パイプライン(営業プロセス全体)で見なきゃいけない。そういうことができる人材を社内で数多く育てる必要があって、そのステージに上がるところでうちも手間取っていますよ」

柳井さんや似鳥さんに刺激

 ーそのようなビジネス転換において、中西さんは常々、経営トップそのものが変わっていかないといけない、と強調していますよね。

 「最近、柳井さん(ファーストリテイリングの柳井正会長)や似鳥さん(ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長)などともお会いして話をする機会もあるんですけど、彼らは本当に面白く、全然衰えを感じさせない。大企業の社長は守りに入りやすと言うけど、彼らはそうじゃない。似鳥さんは『うちは小売りじゃなくて製造業ですから』と言う。逆に、日立のような伝統的な製造業がサービスを目指しているわけですが、事業はシフトしてくものだから、どちらも正しいと思っていますよ。問題は事業ポートフォリオや会社組織を変えていけるような経営者をどう育てていくかですね」

リーダーになるなら二回は海外勤務をやるべき

 ーそれは自社で20ー30代の頃から選抜して幹部候補教育していくのか、米国のように他社から“経営のプロ”としてCEO(最高経営責任者)を引っ張ってくるのか。柳井さんとか日立のCEOを引き受けますかね。

 「嫌だって言うんじゃない(笑)。まぁ、両方です。例えば米ゼネラル・エレクトリック(GE)は昔から自社で育てていくことを伝統とする素晴らしい会社だけど、『GEデジタル』を作った時から数多くの人材を外から引っ張り込んでいる。その経営資源をうまく使っていくために、GEだってそのほかの海外企業も、人材ミックスや組織改革を年中やってるじゃないですか。そういう試行錯誤をやっていかないと。日立でも、最近は若いうちに海外の子会社に送り込んでマネージャーをさせてみたりしているけど、まだまだトレーニングする機会が少ない」

 ー中西さんが米国のHDD(ハードディスク駆動装置)子会社の立て直しにトップとして送り込まれたのは60歳近くだったかと。

 「年齢が絶対というわけではないけど、50代じゃもう遅いよ。将来、リーダーになろうと思ったら二回は海外勤務をやるべきだ、と言ってます。一回は外国人のボスの下で働く、二回目は外国人のボスになる。僕の最初の海外は、欧州法人の代表。あの経験はすごく大きかった。工場出身者がいきなり輸出営業のファイナルポジションですから。1998年ー2000年はDRAMで食っていけなくなる半導体産業の変わり目の時で、標準品を売っていればいい従来型の輸出営業じゃダメだ、という想いからの人事だったと受け止めています」

 「世界のトップレベルの経営者は、デジタルエコノミーに限らず幅広いテーマで常に議論していますが、欧州駐在中は、米国とはまた違う独特の多様性を経験しました。当時の最大顧客はフィンランドのノキア。先方と10人くらいの会議をやると、日本人は僕一人で、ノキア側もフィンランド人は一人か二人で、エンジニアはデンマーク人、インド人だったり、購買はフランス人とか。外国人は結構できっこないことでも『できる、できる』と主張して、自分から仕事を取りに来る。逆に、日本人はできる仕事があっても、自分からは仕事を取りに来ない文化で、その差は大きいと思いますね」

  • 「日本人はできる仕事があっても自分からは取りに来ない」(中西会長)

若い人に大きい仕事をやらせて欲しい

 ー中西さんは大きな仕事をしたいと思って日立に入社したとおっしゃっています。最近の若い人たちはそういうモチベーションを持っているように見えますか。

 「10年くらい前は、すごく内向き志向だと感じた時期もありましたが、最近は意欲の高い人が多いですよ、特に女性は。でも、入社した時に指導する人が、スキルばかりを教えると良くないと思っていて、若い人にこそ、大きい仕事をやらせて欲しい。そのほうが面白いんだよ。僕が最初に配属された大みか工場(茨城県日立市、現大みか事業所)は、伝統ある日立工場(同、現日立事業所)などからあぶれた人を集めてできたようなものだから(笑)、反骨というか自由にやらないと生きていけなかった。上司がなんといおうと、声を大にして、お客さんがこう言ってますから、と言えば通ってしまう雰囲気もあって。でも最近の大みか事業所は、IoTの主力拠点なのにエスタブリッシュになり過ぎているので発破をかけています。常に壊していかないとダメなんだよね」

経理のメカニズムから変えよう

 ーGEは2011年くらいからデジタル革命に向け企業カルチャーの変革に大きく踏み込みました。それでも最近はなかなか株価が上がらずジェフ・イメルトCEOの退任が発表されました。従来の損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)は、モノの生産や移動する数字が中心です。コネクティブな社会では企業価値を測る尺度も変わってくるのでは。

 「GEは米国企業だけあって、お金や人の動かし方も早い。ただ、イメルトさんともよく話しますが、ソフトウエアカンパニーになれているかと言えば、まだまだだと言っている。製品やサービスがコモディティ(汎用)化する時間軸は格段に早くなっていて、そうなると内部評価の前提も違ってくるよね。デジタルエコノミー時代の企業をしっかりと測る手段は、まだ確立されていない。昔は設備投資して、その回収期間が何年と計画し、実際にその通りになったかどうかを各拠点ごとのPL、BSがあれば一通り管理できた。しかしビジネス形態が変わっている状況では、同じやり方ではCFO(最高財務責任者)も儲かるのか、儲からないのか分からないから困るよね。経理のメカニズムを変えないと管理ができないので、日立も取り組んでいるところです」

日本は課題解決パートナーになれる

 ー日立は日本でコネクテッドインダストリーズのフロントランナーという意識や手応えはどの程度ありますか。

 「デジタライゼーションもロボティクスもAI(人工知能)もツールであって、それらのツールを有効的に社会課題の解決に使いましょうというのが政府が掲げる『ソサエティ5・0』というコンセプト。安倍さん(安倍晋三首相)も国際会議の場でアピールしていますが、日本は先進国でも発展途上国でも、一緒に課題を解決することができるパートナーになれる大きな可能性を持っている。日立もいろいろ試行錯誤しながら手を打ってきて、そのフィードバックを待っているところですね」

  • 「日立も試行錯誤しながら手を打ちフィードバックを待っている」(中西会長)

【略歴】

中西宏明(なかにし・ひろあき)東京大学工学部電気工学科卒業後、1970年(昭45)日立製作所入社。米国スタンフォード大学大学院に留学し、コンピュータエンジニアリング学修士課程修了。大みか工場副工場長、日立ヨーロッパ社社長、北米総代表兼日立グローバルストレージテクノロジーズ社会長兼CEO(最高経営責任者)などを経て2010年に社長就任。14年会長兼CEO、16年から現職。神奈川県出身、71歳。

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