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4月18日は「発明の日」 時代が求める知財人材とは

(2018/4/27 05:00)

業界展望台

グローバル化の進展、オープンイノベーションの活性化など、企業を取り巻く環境は変化している。これに伴い、企業には時代の要請に合わせた知財戦略の策定と実行が求められる。今後求められる知財人材とは、どのような人材像なのか。これからの知財人材の在り方と知財人材の育成を行う大学の取り組みをまとめた。

時代の要請に応えて進化する知財人材-今後求められる人材像-

東京工業大学 工学院経営工学系 教授 田中義敏

  • 田中義敏氏

グローバル視点

大きな環境変化にグローバル化があげられる。グローバル競争が激化する中で、企業には競争力強化が求められている。

一昨年になるが、特許庁英語知財研修プログラム開発事業により「グローバルビジネス戦略概論」と題する科目をはじめ、膨大な教材が開発された。このプログラムの中で、今後の知財人材育成の方向性として、知的財産や国際標準を戦略的に事業戦略に活用できる人材(知財マネジメント人財)や、世界を舞台に活躍できる知財人材(グローバル知財人財)が示されている。

また、企業組織内においては、知財部門のみならず、経営層、経営企画部門・事業部門においても、経営戦略の観点から知的財産を戦略的に調達・活用することの重要性を認識し、実践できる「人財」を確保していくことが必要であるという基本的な認識が整理された。

これまでの知財人材の大半は、日本国内における特許等の出願から権利化、権利行使に関する実務が中心だった。外国出願を多く経験しているという知財部員や弁理士であっても海外への出願は現地代理人の協力が必須であって、必ずしも世界を舞台に活躍している知財人材が多くいるとは言えなかったのが実情であろう。費用と時間のかかることではあるが、知財専門人材に多くの海外経験を積ませることが重要になるのではないか。また、企業や特許事務所においては、海外人材をいかにして取り込んでいくかも大きな課題だと思う。

経営視点

もう一つの環境変化としては、知財活動が知財部門の中で閉じてしまうのではなく、経営活動の中に取り込まれ、事業部門とともに経営課題の解決に向けて活動していかなければならない状況になったことがあげられる。知的創造サイクルという標語はずいぶん言い尽くされたかと思うが、「知財保護」人材の育成に偏っており、「知財創造」および「知財活用」の人材育成が遅れているのではないか。知財専門人材には受け入れがたいことのようであるが、数年単位の短い期間であったとしても、開発、製造、販売、マーケティング、購買、人事、環境など事業活動の経験を知財の専門に加えて蓄積することにより、知財と経営を結びつけることができるのではないだろうか。

モチベーション視点

知財人材を目指して勉強している方々に、夢と希望を与えることも重要である。人間は高いモチベーションを持ち続けるためには、日頃の学修または就業経験の中で、「自らの成長」と「社会への貢献」を実感することが大切であり、知財専門人材の育成に向けて、このような体験をする機会を提供することも重要である。

◇ ◇

以上、主に、グローバルおよび経営の視点から今後あるべき知財人材育成の在り方について考えてみたが、一朝一夕にはいかない人材育成に当たっては、初等教育、高等教育、企業知財部、特許事務所、政府機関、関連団体などが、将来の知財人材育成のために有機的な連携をしながら時代の要請に応えていくことが必要であろう。

【略歴】たなか・よしとし 東京工業大学原子核工学専攻を修了後、1980年より91年まで特許庁、科学技術庁等における行政経験、92年から2002年まで欧州企業にてビジネスを経験、02年から母校に戻り現在まで東京工業大学工学院経営工学系・経営工学コース教授。

各大学の取り組み

  • (左から)藤本さん、川崎さん、指導教員の五丁龍志准教授(大阪工大提供)

大阪工業大学知的財産学部と同大学院知的財産研究科は、企業で求められる実践力を養う教育に力を入れている。学生が課外活動に積極参加する点も特徴的で官庁や企業・団体が主催する数々の課題解決プロジェクトのコンテストで優勝するなど実績は数多い。2018年度からは大学院で知的財産のビジネス活用のスキルを身につける正規科目「知的財産事業化演習」を新設する。

弁理士試験のための教育にも力を注いでおり、17年度の試験で合格率6.5%の超難関を川崎達哉さんと藤本賢佑さんが学部3年で突破。17年度最年少合格という快挙だった。

金沢工業大学は東京都港区の「K.I.T虎ノ門大学院」でイノベーションマネジメント研究科・同専攻を展開する。知的財産とビジネスの両方を学ぶ社会人に特化した大学院だ。弁理士資格を持つ企業の知財部員でも、経営センスを持って業務に当たるといった幅を重視している。

18年度の目玉は、日本IBMの社員らが講義を担当する人工知能(AI)のコースの開講だ。在学生以外も受講でき、AIビジネスとその基礎、AI技術とその基礎の四つだ。導入プロジェクトの企画立案、ケーススタディー、エンジニアのスキルと幅広い。「AIで計32コマという充実度はほかにない」と加藤浩一郎専攻主任は胸を張る。2月の試行でも高評価を得ている。

  • K.I.T虎ノ門大学院「AIビジネスエンジニアリングプログラム」の構成

  • シンポジウムで多様な活躍人材を紹介する(国士舘大提供)

国士舘大学大学院総合知的財産法学研究科は、知財の経験を積んだ社会人に限定せず、学内進学など新卒生の受け入れを重視している。そのため特許事務所や特許庁関連に加え、企業における活躍をシンポジウムなどで紹介している。

例えばメーカーの知財では技術力を前面に出した「特許」、ノウハウで隠す「営業秘密」、デザインでけん制する「部分意匠」など選択は一つではない。「コストなど全体を見て戦略的に検討する人材が必要になる」と飯田昭夫科長は説明する。パチンコ業界でゲームのプログラムやキャラクターの権利、独特の「パテントプール」など手広く対応する卒業生もいる。弁理士でも商標の専門家が新たなニーズという。専門の広がりが昨今の特徴となっている。

【業界展望台】発明の日特集は、5/1まで全9回連載予定です。ご期待ください。

(2018/4/27 05:00)

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