中小企業における IoT 活用のポイント(上) -『工場管理』2018年4月臨時増刊号

(2018/5/24 15:00)

  • 表1 loT の活用ケース

中小企業でIoT を活用するには

 IoT活用の分野と業務事例としては、表1に示す活用ケースのように、業務効率の改善と新規事業開拓を目的として、主に大手企業を中心に導入が始まったが、近年では、中小企業においても、生産性の向上や新たな商品・サービスの提供による付加価値の創出といった、課題解決型のIoT導入事例が増大し始めている。

[千葉工業大学 森 雅俊、山本 典生]

1. IoTの活用用途

 IoTの導入(事例)は、M to Mの採用時と同様に、大手企業からその利活用が始まった。情報量・資金面・人的パワー・技術の集積に長じた大手企業は、自らの課題認識レベルも高い。しかし中小企業においては、IoTの導入により、社内の変革により競争優位を獲得し、ビジネスへの貢献を期待する思いとは裏腹に、具体的にどこから手を付けるべきなのかが見極められない、という不安が入り混じっているものと推測される。

 IoTの活用用途についてのアンケート調査では、「製造ラインの異常検知」や「サプライチェーン管理」など、製造業や小売・流通業にとって根幹となる業務ではIoTの活用が始まっているものの、その割合は従業員規模が少ないほど、低い活用実態であるという報告もある。

 しかも、IoTの指南書が目指す、コストの最適化・収益の増大・ビジネスの変革といった長期的観点での取組みは、まだ具体的に動き出してはいない。しかし、企業におけるIoT導入は、そのこと自体は目的ではないものの、明らかに事業内容を改善できるものと判断される内容については、積極的な導入検討を始めるべきと考える。

 とはいえ、IoT導入で何ができるかを検討する前段階で熟慮するべき精査事項がある。それは、自社の事業展開において何が喫緊の課題なのかを明確に分析することである。

2. IoT 活用の進め方

 機械部品製造業であれば、製品の歩留りが低い、食品製造業であれば、商品の封入重量にバラツキがあるなどの具体的な問題点の抽出が必要である。またそれぞれの課題には、解決しなければならない優先順位と、各々で異なる所要期間を考慮する必要がある。しかも、初期のシステム開発・テストを含む導入準備には費用が発生する。そのうえ短期的には、その投資に見合った利益を手にすることは難しい。中小企業の経営観点からも、この点に躊躇して導入の検討すら始まっていない現実も数多いものと推測される。

 以下に、中小企業でのIoT導入を成功に導くためのポイントを取りまとめる。

(1)導入目的の明確化(課題の抽出)

 前述のように、IoTの導入は目的ではなく、課題解決のための手段である。製造業であれば、受注・生産・出荷の各段階において、改善するべきまたは改善可能なプロセスを洗い出す。そのうえで、抽出された課題が解決できた場合に達成できる事業目的を明らかにする。

 そして事業展開上の観点から鑑みた優先順位と、費用・必要な期間などを考慮して、IoT導入で解決できるテーマであるのか否かを決定する。

(2)導入の手順

①導入事例情報の入手と現状との差異

 自社と同様の課題を持ち、解決に向けて取り組んでいる成功事例の分析を勧める。そして改善されたものが、品質なのか、スピードなのか、コストなのかを見極める。自社の導入目的と類似している場合には、積極的にコンタクトを取り、その会社に導入支援を依頼してみるといった能動的なアクションも必要である。後述のB社のように、導入を先行した企業がシステムの外販を行っている場合もあり、これにより期間と費用が大幅に改善される可能性がある。

②技術者(協力者)の確保

 熟練者が多く、IoT導入に積極的な機運が高まっていないケースも考えられる。事業プロセスの改善に相応しい人材がいない場合には、トップダウンで舵を切り、外部の力を導入したスピード感も必要である。

③機能の絞り込み

 成功した先行事例をつぶさに分析する必要がある。たとえば、すべてを連動して自動化・省力化を目指すのではなく、従来通り人手による運用の方が、明らかに早く確実な業務も数多く存在するからである。

④必要なIoT ツールの調達

 センサ、ネットワーク、コンピュータ、アクチュエータなどの、IoTツールをどのように活用するのか。IoTシステムの設計とその構成要素を決める。

⑤メンテナンス性

 独自につくり上げたシステムは、その独創性から、障害発生時の対応に長い時間と高額なコストを要する場合がある。基幹の製造装置が高いMTBF(Mean Time Between Failure:平均故障間隔)を誇っても、IoTによる支援・補完システムが低いMTBF では、全体のパフォーマンスが上がらない。十分なテストを行い、不具合発生時の対応に秀でた協力者の確保が必要である。

中小企業における IoT 活用のポイント(下) -『工場管理』2018年4月臨時増刊号

筆 者:千葉工業大学 森 雅俊(もり まさとし)

    大学院 マネジメント工学専攻 社会システム科学部

    金融・経営リスク科学科 教授

    山本 典生(やまもと のりお)

所在地:〒275-0016 千葉県習志野市津田沼2-17-1

E-mail:masatoshi.mori@it-chiba.ac.jp

    s1591302am@s.chibakoudai.jp

→『工場管理』2018年4月臨時増刊号

(2018/5/24 15:00)

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