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【電子版・新連載】出張中に遭遇した小さな事件簿 第1話「車内捜査」

(2018/5/27 05:00)

  • さかい三十郎。彼は重工業メーカーで造船・プラント・工作機械事業に携わって40年の経歴を持つ出張多きサラリーマンである。彼はサムソナイト鞄(かばん)とバインデックス手帳を愛用している。ちなみにサムソナイト鞄は時に、新幹線の車内混雑時にはいすに替わる(イラスト:小島サエキチ)

 彼の名は「さかい三十郎」。正義感にあふれた庶民派である。そんな彼が出張時に出会ったノンフィクションのハプニングを「小さな事件簿」としてつづったのが本連載である。

 「本当にそんなことが新幹線内で起こるの? 信じられないなぁ…」との思いで読まれる方も多いかもしれないが、すべてノンフィクション(事実)なのである。彼の大好きな「映画の話」もちりばめてあるので、思い浮かべていただければ幸いである。

 それでは車内で遭遇した事件簿の数々をご紹介させていただく。

* *

「痴漢行為は犯罪です!」

 都内の満員電車の車内でも、こんなアナウンスがされるようになってきた。そう言えば、三十郎は「痴漢被害(痴女)」に遭ったことがある(JR中央線中野駅で犯人が下車する際に、手の甲にボールペンで印を付けたが…)。

 さて、本編の第1話は京都駅から東京駅へ向かう新幹線ひかり号車内で目撃したエピソードである。

 彼、さかい三十郎は1号車自由席の通路側に着席する習性を持つ。1号車は上り車線では最後尾となる。名古屋を過ぎ、静岡を通過する車内で事件は発生した。

 車内全員の顔を確認していく中年の女性。後ろには車掌が付き添っていた。尋常でないことは女性の目つきから容易に想像がつく。目が血走っているのだ。

* *

  • (イラスト:小島サエキチ)

車掌「お客さん大丈夫ですか? 人違いだけはしないで下さい」

 その女性はうなずくでもなく、見つめ返していた。

女性「間違えるもんですか。40年生きてきて、このような辱めを受けたのは初めてです。絶対に間違えません!」

 おそらく進行方向先頭車両である16号車から回ってきたのであろう。1号車の前列乗客から一人一人確認される。会話が弾んでいた車内に緊張が走った。確認されているのは女性ではない。「男」である。

 《捜している人物は誰? まさかとは思うが私だろうか、いや面体を確認されるような仕業をしたことはない…》

 何があったのだろうか? 車内空間は静寂を維持していた。そして、最後尾に座っていた三十郎の元へ車掌と女性の二人が向かって来る。やがて彼の前で立ち止まる気配がした。

 《まさか…俺か…》

 心臓が口から飛び出すとはこのことであろう。やがて…、

女性「違います。この人ではありません」

車掌「この車両で終わりですよ。大丈夫ですか」

 女性の顔が蒼白(そうはく)となっていた。と、その時、一人の中年男がデッキから1号車内に現れた。トイレにでも入っていて、戻って来たのだろう。

女性「あ、あの人です。間違いありません」

 男の顔がゆがんで見えた。

女性「この人です。間違いありません! トイレ内に押し入り、私に痴漢をした人です!」

 男のつぶやきが聞こえた。

男性「そんなに騒ぐことはないだろう。君もいい気分を経験したんだから」

女性「あんな恥ずかしい思いをしたのは、初めてです。許すことはできません」

 女性は車掌に向かって、ハッキリいった。

女性「警察に引き渡して下さい。訴えます」

 事の経緯は容易に察することができた。一瞬の間があって車掌の落ち着いた声が響いた。

車掌「立派な外見に見えますが、これであなたの社会人生も終わりですね。車掌室へ同行願います。よろしいですね」

* *

 車内に平穏が戻りつつあった。三十郎は男が座っていたであろう右側座席を目で追った。そこには…、週刊誌が広げてあった。それは“車内恋愛エッチ行為”のページであった…。

 《週刊誌に載っている小説みたいなことは、そうは起こらないよなぁ。期待はしてみたいが…》

事件始末記

 近頃、満員電車内で痴漢に間違えられ、しかも訴えられるという事件を耳にする。裁判ざたとなり、無事無罪の判決が得られた事件もあるが、そうでない事件もあるだろう。

 《満員の車内では荷物を持つか、つり革を持ち自己防衛しないと、万が一にでも無実で起訴されてはかなわない…》

 車内サスペンス映画を思い出した。「オリエント急行殺人事件」である(原点は「バルカン特急」だろうが。制作1974年、上映時間127分、監督シドニー・ルメット)。列車内で殺人事件が発生し、乗り合わせていたアルバート・フィニー扮(ふん)する名探偵ポワロが犯人を推理する一作である。

 原作はアガサ・クリスティ。共演陣が豪華であり話題になった。イングリッド・バーグマン、ローレン・バコールのよきハリウッド黄金時代を担った女優に、ショーン・コネリー、アンソニー・パーキンスも顔をそろえている。

 無実の名誉挽回については「12人の怒れる男」がある(制作1957年、上映時間95分、監督シドニー・ルメット〈「オリエント急行殺人事件」と同じ監督〉)。殺人容疑に対する若者の「陪審員評決の推移」を描いている。

 「当初11人が有罪に投じるが、やがて12人全員が無罪投票する」までの議論の模様を舞台劇のごとく緊張の中に描いた秀作である。最初に無罪を主張する一人を演じたのは名優ヘンリー・フォンダだ。

 (雑誌「型技術」三十郎・旅日記から電子版向けに編集)

(2018/5/27 05:00)

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