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【電子版・連載】出張中に遭遇した小さな事件簿 第14話「ハンカチ事件簿かな」

(2018/8/26 07:30)

  • さかい三十郎。彼は重工業メーカーで造船・プラント・工作機械事業に携わって40年の経歴を持つ出張多きサラリーマンである。彼はサムソナイト鞄(かばん)とバインデックス手帳を愛用している。ちなみにサムソナイト鞄は時に、新幹線の車内混雑時にはいすに替わる(イラスト:小島サエキチ)

 彼の名は「さかい三十郎」。正義感にあふれた庶民派である。そんな彼が出張時に出会ったノンフィクションのハプニングを「小さな事件簿」としてつづったのが本連載である。

 「本当にそんなことが新幹線内で起こるの?信じられないなぁ…」との思いで読まれる方も多いかもしれないが、すべてノンフィクション(事実)なのである。彼の大好きな「映画の話」もちりばめてあるので、思い浮かべていただければ幸いである。

 それでは車内で遭遇した事件簿の数々をご紹介させていただく。

* *

 忘れ物の話は以前も紹介したが、本話は車内で見かけたハンカチ事件簿である。

ハンカチの用途はさまざま

 例によって1号車に席を確保した。窓側には若い男が着座している。東京駅を出て新横浜駅を通過する頃、車窓に隣席の男の顔が映った。眠っていそうだが何かおかしい。何か尋常ではない気配を感じた。窓から本人の顔へとパンフォーカスしたところ一筋の赤が確認できた。三十郎は焦った。こ、これは血だ、間違いない鼻血だ(プロ野球巨人軍マウンド上でこのようなシーンがあったような記憶も……)。男も自身の異常に気づいた模様だ。今にも顔面から胸部に落ちそうである。彼はティッシュを取り出そうとしたが、間に合わないと察した三十郎は咄嗟に自分のハンカチを取り出し血を押さえてあげた。どうやら上着・Yシャツは助かり、ハンカチのみが赤く染まった。血気盛んな若い頃に経験することだがちょっと慌てた。男は洗面所へ移動し顔を洗い、鼻にティッシュを詰めて現れた。ハンカチの処分に困っていたので捨てるように伝えた。

 東京駅到着時に老夫婦が手荷物整理をされていた。手土産品が多く2人で持つには苦労されると察した三十郎は、持参していた手提げ袋を差し上げ、さらに3個の袋をハンカチで結び持ちやすくしたことも。荷物が解けそうなケースではズボンのベルトを外し、括ってあげたこともある。

 三十郎はハンカチを通路に落としたまま下車することもある。こんな場合のハンカチは踏みつけられた挙句に車両の片すみにおしやられ、無残な末路をとる。洗面所にも多くのハンカチが残されるが、この場合は近くのゴミ箱行きとなるであろう。

ハンカチがロマンスのきっかけに

 素敵なシーンを演出したハンカチもあった。

 駅到着後に慌てて座席を立ち車両からプラットホームへ向かう人がいる。座席上には若い女性のモノと思われるハンカチが残されていた。後部座席から下車しようとした若者がこれに気づいた。

 恐らく“おばはん・男モノ”なら追いかけはしないだろうが、若い女性と確信できたからであろう……、早足で追いかけた。

 三十郎は車窓からこの様子を眺めていたが、このような会話は察しがつく。サイレント映画の弁士が喋るシーンと同じだ(メリーさんメリーさん……の呼びかけで始まる会話であろう)。

 若い男「お嬢さん、このハンカチは貴方の忘れ物では……」

 若い女「ありがとうございます。思い出のハンカチだったので助かります」

 本来なら手渡した時点で完結するのだが、この男は違った。

 若い男「これからどちらへ向かわれますか」

 若い女「○○駅へ向かいます」

 若い男「(本当は××駅に向かう筈なのに)偶然ですね。僕も同じ路線です。よかったらご一緒させていただいてよろしいですか」

 こんなドラマみたいなことはそうは起こらない。大抵は次であろう。

  • (イラスト:小島サエキチ)

 シーン1

 若い男「このハンカチは貴方の忘れ物では……」

 若い女「ありがとうございます。彼からのプレゼントだったので助かりました」

 シーン2

 若い女「あら捨ててもらっても良かったのに、届けてもらってごめんなさい」

 若い男「……(あぜん)」

 社交界の紳士と淑女の出会いはハンカチが取り持つ。女性が目当ての男性を見つけると彼の前にわざと落とすことも。

 三十郎は夏場に利用するハンカチは四半世紀前からタオル地を利用している。お客様用の粗品としてタオル地のハンカチを手配したことも(ブルーミング中西社製)。最近は大形工作機械のヒット記念としてつくろうか悩んでいる。

 ハンカチが印象的な映画は多くある。

 「荒野の決闘(1946年ジョン・フォード監督)」

 トゥームストーンで保安官になったワイアット・アープはドク・ホリデーとともにクラントン一家と決闘する。持病があるドクは吐血し、その血をハンカチで押さえているうちに撃たれる。牧場の柵に血に染まったハンカチが残されるシーンは寂しかった(余談だがラストの女性との別れシーンにこんなセリフがあった。“俺はクレメンタインという名の女性が好きだ”。このフレーズはいつか使ってみたい)。

 「幸福の黄色いハンカチ(1977年山田洋次監督)」

 6年の刑期を終えた高倉健は妻(倍賞千恵子)が待つ北海道へ向かう。“自分を待っているなら物干し場にハンカチを出していて欲しい”の連絡を受けた妻は、物干し場いっぱいに黄色のハンカチを結び付ける。鮮やかに映されたこの感動シーンは忘れ難い(原作はハリウッド作品の「黄色いリボン」だろうが)。

 「ナイル殺人事件(1978年ジョン・ギラーミン監督)」

 名探偵エルキュール・ポアロがオリエント急行殺人事件(1974年)に続き難事件を解決する。本作では赤インクのハンカチがアリバイ工作に利用されるなどハンカチによるどんでん返しが仕掛けられた作品である。

(2018/8/26 07:30)

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