[ その他 ]

活躍領域広がる 変・減速機

(2018/8/31 05:00)

業界展望台

減速機、増速機、変速機は動力伝達を担う主要機器として船舶や自動車、建設機械、工作機械、ロボットなど幅広い分野で活用されている。産業の競争力向上に貢献するとともに、人々の安全や快適な暮らしを支える重要技術だ。開発の現場では高効率、高精度、高剛性、小型・軽量化などが追究されており、製品・技術の活躍領域は着実に広がっている。そこで、今回は京都大学大学院工学研究科の小森雅晴教授と寺川達郎氏に、新たな分野での利用を目指して開発した全方向移動装置の特徴や要素技術などについて詳しく解説してもらった。

ギヤードモーターの応用技術進展

京都大学大学院工学研究科

教授   小森 雅晴

博士課程 寺川 達郎

【重要性一段と固まる】

変速機や減速機は、エンジンやモーターから出力される回転を、使い勝手のよい大きさの速度・トルクの回転へと変換するために使用される。特に、減速機とモーターを組み合わせたギヤードモーターはメカトロニクス機器に不可欠な要素の一つである。当該分野では、移動装置やロボットアームをはじめ、各種機構の研究開発が進められており、その発展に伴いギヤードモーターの重要性は一層高まることが予想される。これに際し、ギヤードモーターの小型化・高性能化を目指す研究や、減速機に使用される歯車の高精度化に向けた研究などが報告されている。

産業用の無人搬送車や電動車いすなど、移動装置はさまざまな場面で使用されている。これらの多くの移動装置は、前後に移動したり、向きを変えながら斜めに移動したりすることはできるが、真横には進むことができない。このため、工場や倉庫、病院やオフィスのような狭い空間では効率的に移動できない場面があった。この問題を解決するために、真横を含むどの方向にも移動可能な全方向移動装置が求められている。

  • 全方向移動装置「パーモビー」

そこで、筆者らは、前後・左右・斜めへの移動やその場での回転などを行うことができる全方向移動装置「パーモビー」を開発した(写真)[1]。パーモビーにはアクティブオムニホイール(AOW、全方向駆動車輪)という車輪が用いられている。AOWには2個の入力軸があり、各入力軸を別々のギヤードモーターで駆動する。二つの入力軸が同じ方向に同じ速さで回転するとAOWの車輪本体が回転し、二つの入力軸が反対方向に同じ速さで回転すると車輪の外周部に配置された外周ローラーが回転し、二つの入力軸の回転がそれら以外の場合は車輪本体と外周ローラーの両方が回転する。AOWは、車輪本体が回転すると前後に、外周ローラーが回転すると左右に、車輪本体と外周ローラーが同時に回転すると斜めに移動する。これにより全方向への移動が可能となる。

  • 図1 全方向移動装置「SWOM」[2]

他の全方向移動装置として、筆者らは「SWOM」という機構を提案している[2]。SWOMでは、パーモビーと異なりAOWを用いず、普通の車輪のみを使用する。

図1に示すように、SWOMは三つの車輪を備えており、各車輪がリニアガイドを介して接続されている点が特徴である。また各車輪は、ギヤードモーターにより、回転駆動されるとともに、別のギヤードモーターにより、車輪の向きを変えることもできるように構成されている。SWOMは、車輪の位置がリニアガイドに沿って受動的に変化することで、前後・左右・斜めの任意の方向への移動や回転を行うことができる。

【多分野のロボ普及に貢献]

  • 図2 人の腕の動作特性を考慮した操作法[3]

ロボットアームは、産業用途のみならず、福祉分野などさまざまな分野で導入が進められている。そのため、不慣れな人でも容易にロボットを操作できる操作法が求められている。例えば、操作者自身の身体の動きと同期させてロボットをコントロールする方法は、多くの人にとって使いやすいものになると期待される。実際に、人の腕や指、脚などの動作特性を考慮した操作法が提案されており(図2)、その有効性を示す結果が報告されている[3―6]。この操作法では、操作者の意図する動作と実際の動作との間に生じるずれを考慮し、適切に変換することで、操作対象物のコントロールを可能にしている。これにより、ロボットの専門知識を有しない人でも、身体を動かすことにより、より思い通りに操作することができる。このような技術により、今後、より多くの場面でロボットが使われるようになれば、ロボットを駆動するためにより多くのギヤードモーターが必要となる。

  • 図3 減速機構内蔵モータ[7]

ギヤードモーターを応用する技術に関する研究の他に、ギヤードモーター自体に関する研究も進められている。筆者らは、ギヤードモーターの小型化を目的として、減速機と一体化したモーターを開発した。図3に波動歯車装置と呼ばれる減速機の原理を利用した減速機構内蔵モーターの構造を示す[7]。このモーターは、主として1個のフレクスプライン、2個のサーキュラスプラインD、1個のサーキュラスプラインS、複数のリニアソレノイドから構成されている。フレクスプラインは、薄肉の金属円環の外周に歯が刻まれた特殊な外歯車であり、半径方向に外力が加わると弾性変形する。サーキュラスプラインDおよびSは剛体の内歯車である。2個のサーキュラスプラインDが1個のサーキュラスプラインSを挟むように配置されている。サーキュラスプラインDはモーターの基礎部に固定されており、サーキュラスプラインSは回転自在に支持されている。サーキュラスプラインDの歯数はフレクスプラインと同じであり、サーキュラスプラインSの歯数はフレクスプラインよりも2歯多い。リニアソレノイドはフレクスプラインの内側に放射状に配置されている。

本モーターの動作について説明する。まず、対向する1組のリニアソレノイドに電圧を印加すると、リニアソレノイドが内側からフレクスプラインを押し広げ、フレクスプラインは楕円(だえん)形状に弾性変形する。変形したフレクスプラインは、その長軸付近でサーキュラスプラインDおよびSの両方とかみ合う。次に、電圧を印加するリニアソレノイドを隣の組に切り替える。この時、フレクスプラインとサーキュラスプラインDおよびSのかみ合い位置も移動する。ただし、フレクスプラインは、基礎部に固定されているサーキュラスプラインDと歯数が同一であるため、回転しない。一方、サーキュラスプラインSはフレクスプラインと歯数が異なるため、わずかに回転する。以上の動作を繰り返すと、かみ合い位置が1周移動するごとにサーキュラスプラインSは歯数差分だけ回転する。この回転を取り出すことにより、本モーターは直接的に減速された回転を出力することができる。このように、モーターと減速機が一体化されているため、小型化に適している。

なお、フレクスプラインの代わりに剛体外歯車を使用する減速機構内蔵モーターについても研究されている[8]。

その他に、減速機や変速機に使用される歯車に関して、内歯車の測定の精度保証に用いる凹球面基準器[9]、歯車のピッチ測定の精度保証に用いるピッチ基準器[10、11]、内歯車の加工法[12]、繊維強化プラスチック歯車形工具[13]などの研究が行われている。

(※図1、2、3の中の説明は提供資料のまま掲載)

【参考文献】

[1]Komorietal.,J.ofAdv.Mech.Des.,Syst.,andManuf.2016;10(6):JAMDSM0086.

[2]Terakawaetal.,IEEE/ASMETrans.Mechatronics2018;23(4):1716-27.

[3]小森,関西発 選りすぐり大学技術集2015~ロボティクス分野~2015:4-5.

[4]Komorietal.,J.ofAdv.Mech.Des.,Syst.,andManuf.2018;12(1):JAMDSM0009.

[5]Komorietal.,Prec.Eng.2018;53:96-106.

[6]小森・宮内,設計工学2018;53(7):511-26.

[7]寺川他,設計工学2017;52(11):683-94.

[8]Terakawaetal.,J.ofAdv.Mech.Des.,Syst.,andManuf.,2018;12(1):JAMDSM0014.

[9]Komorietal.,J.ofAdv.Mech.Des.,Syst.,andManuf.2016;10(4):JAMDSM0063.

[10]Komorietal.,Prec.Eng.2014;40:160-71.

[11]Komorietal.,Prec.Eng.2016;45:98-109.

[12]Yanaseetal.,Prec.Eng.2018;52:384-91.

[13]Fujisawaetal.,Prec.Eng.2014;39:234-42.

(2018/8/31 05:00)

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