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ベアリングと関連機器 EVシフトで需要に変化

(2018/9/27 05:00)

業界展望台

芝浦工業大学大学院 客員教授 町田尚

21世紀は産業革命以来と言われる巨大なイノベーションの時代に突入した。IT革命の進展が巨大な渦を巻き起こし、あらゆる産業がその渦に巻き込まれ、もまれている。かつての栄光ある産業も企業も生き残りに必死だ。一方、新しい産業や企業が次々と表舞台に現れている。まさに経済学者のシュムペーターが指摘した「創造的破壊」の時代である。ではどのようにしてこの波を乗り切っていくのか、ベアリング産業はどうなっていくのだろうか、考えてみたい。

高速化・小型化・低摩擦化 技術開発が重要に

20世紀は機械産業の時代と言われた。その主役は自動車産業だ。内燃機関の自動車は1886年の独ダイムラーと独ベンツの発明によって世に送り出されるのだが、本格的に普及させたのはヘンリー・フォードである。米フォード・モーターは1903年に設立し自動車を大衆のものにすべく大量生産に取り組み、有名なT型フォードを世に送り出した。

個人の移動手段となった自動車は猛烈な勢いで普及した。ベアリング産業もこの時代に大きく発展した。自動車産業は非常に裾野の広い産業であり、自動車産業の拡大に伴い、鉄鋼、化学、ゴムなどの素材産業やベアリング、歯車、ネジなどの部品産業も発展した。

このような機械産業発展のうねりは人々の生活を向上させて中産階級といわれる中所得者層を増加させ、彼らの求める家電製品も普及させた。自動車や家電製品の普及に伴い、素材、部品、産業機械、工作機械など多くの産業が発展した。ベアリング産業は「産業の米」と言われ、生産量を拡大した。

いま世界で年間9000万台ほどの自動車が生産されている。現在の自動車には1台当たり100から150個程度のベアリングが搭載されていると言われることから、自動車用だけでも年間100億個ほどのベアリングが生産されていることになる。

さらにこの自動車生産を支える機械産業にも大量にベアリングが使われているのだから、ベアリング産業は大変な産業である。

ところが最近、この自動車用ベアリングに悲観的な意見が散見するようになった。それは電気自動車(EV)や燃料電池などへの自動車動力源の変化である。ガソリンエンジン車とEVでは動力伝達系の構造がまったく異なるので、自動車に搭載されるベアリングの数が半減するのではないかと言う意見が多い。

たしかに単純に機械的構造だけでベアリングの数を数えれば減少する。さらに追い打ちをかけるように、2040年頃には欧州連合(EU)や中国ではガソリンだけで走る自動車は禁止されると言う話もある。こうなるとベアリング業界には悲観論が出てくるのもわかる。

しかしここで見方を少し変えてみたい。まず世界の自動車生産台数である(図)。これは確実に増えている。これからは中国、アジア、アフリカでの大幅な普及が見込まれる。一般に先進国では自動車普及台数は人口の60%くらいの数を超えると飽和する(米国は特別で79%)。

これを基準に考えると16年比で中国では現在の6倍、インドでは20倍の自動車が必要になる。つまり世界ではそれだけの数の自動車ベアリングの需要が待っている。

もちろんこれらの自動車をガソリンエンジンで石油を燃やして走らせれば、地球環境は一気に破壊されてしまう。そのため再生可能エネルギーで作った電気で走るEVや、究極のエコカーといわれる水素を燃料とする燃料電池車が必要になる。エコカーは先進国よりも中進国での需要が大きい。EVのベアリングには高速化や電喰対策などの独特の技術開発が必要になるし、電池寿命を伸ばすためにさらなる小型化や低摩擦化が求められる。

ロボットさらに進化 高機能ニーズに対応

エンジン車からEVに代わると同時に自動運転が普及する。自動運転には今までなかったセンサーやアクチュエーターが搭載され、ブレーキもハンドルも人間が動かさないですむようにロボット化される。新しい機械が次々に開発され、搭載されるだろう。こうなると自動車の電動化によってベアリングの数が減ってくるとも思えない。

  • 風力発電機には大型ベアリングが多数使用される(日本精工提供)

EVが普及すれば膨大な電力が必要になる。その発電設備の一つとして風力発電が注目される。風力発電機には多数の大型ベアリングが使用される。世界で一番風力発電を普及させているのは中国である。だから風力発電装置の主軸や増速機のベアリング需要は伸びる。こうなると工作機械の需要が増えるため、精密ベアリングの需要は増えるだろう。

21世紀の工場内ではロボットが働くのでロボット用のベアリング需要は増加する。ロボットの発展は21世紀の機械産業の目玉となるだろう。ロボット用のベアリングには小型、軽量、高速、静粛などの高い機能が求められる。もちろんロボットを動かすための人工知能に関わる半導体需要は猛烈に伸びるので、半導体製造装置に使うベアリング需要は伸びる。

このように21世紀のイノベーションの大きなうねりの中では、20世紀型産業のベアリングは減少するのだが、新たに生まれるエコカーやロボットで代表される機械、それを製造する工作機械や工場設備が大きく入れ替わる。まさに我々は創造的破壊の真っただ中にいるのだ。ベアリング産業は大きく業容を変えて成長していくはずである。いま、古い産業にとらわれずしっかりと未来を見据えた経営が求められる。

(2018/9/27 05:00)

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