[ ロボット ]

WRSインフラ・災害対応部門 タフなロボットが悪戦苦闘

(2018/10/18 05:00)

WRS2018

 17日に開幕したワールド・ロボット・サミット(WRS)のインフラ・災害対応部門は、階段やグレーチングからなる通路を走行したり、バルブに備え付けられたメーターの数値を読んでバルブを操作する、といった「災害対応標準性能評価(STM)」競技や、バーチャルシミュレーションでトンネル災害時の人命救助を競う「トンネル事故災害対応復旧」競技、製造プラントにおける日常点検や異常発生時の対応をする「プラント災害予防」競技で構成する。STMとプラント災害予防は、ロボットのタフな機体が目を引く競技だ。斜面や階段などの不整地を走破するロボットたちは頑丈に作られている。

 一方で目には見えない頭脳戦も存在する。人が入れない環境で作業するため、センサーのデータから3次元マップを作製したり、機体の動きをシミュレーションしながら制御したりする。この配点が大きいため、大会直前に作戦を変えるチームも出てきた。(小寺貴之)

  • 京都大学のチーム「シノビ」の会場テスト。「フーガ2」は足回りを強化しつつ軽量化、作業能力と移動能力を兼ね備えている

 京都大学のチーム「シノビ」は大会前日に3Dマッピング機能を開発することを決めた。「タスクに挑戦する日までには間に合わせたい。だが、間に合う保証はない」と京都大学の竹森達也大学院生は説明する。インフラ災害対応部門のSTMでは、壁面に並んだ大小の2次元コード(QRコード)読み取って地図を作るマッピングタスクが出題された。

 京大は2Dマッピング機能を持っていたが、3Dの地図を作ると配点が高いことがわかった。そこで急きょ開発を決めた。大会3日目のテスト枠をとれれば4日間の開発期間がある。2日目の枠なら3日間だ。会場ではメンバーの一部がプログラミングに打ち込んでいる。

 京大の災害対応ロボ「フーガ2」は二世代目。初代はアームの器用さがウリだった。二世代目で足回りを強化しつつ軽量化し、作業能力と移動能力を兼ね備えた。さらに大会の会場で頭脳面を強化し、得点を積み上げる作戦だ。

  • 本番に向けてテストを行う会津大学チーム。トンネル事故災害対応復旧とSTMの両方に参戦

 会津大学のチームはトンネル事故災害対応復旧とSTMの両方に参戦した。トンネルはシミュレーター、STMは実機で技を競う。会津大の成瀬継太郎教授は「大会が終わればトンネルで培った技術を実機に移植する」と戦略を描く。そのために実機とシミュレーターを同じソフトで開発した。

 シミュレーターは作業を自動化しやすい。例えばトンネル内で車のドアを開ける場合、取っ手をつかむところまで遠隔操縦すればドアを開く動きは自動化してしまえる。取っ手を確実につかむ動作が自動化できれば、操縦者はドアに近づくだけで済む。シミュレーターはボタン一つで同じ動きを繰り返せるため、確実性の高い動作を見つけたら自動化してミスをなくす。

 この自動化モーションはそのまま実機に転用できる。成瀬教授は「実機でいきなり自動化するのはリスクが高い。シミュレーターでいくつも試して、安定した動作を実機に移植する。これでできる作業がグッと増え、かつ簡便になる」という。

独テレロボのアンドレアス博士とロボ独テレロボのアンドレアス博士とロボ

 海外チームも同様だ。ドイツから参戦したチーム「テレロボ」はアームの両脇にツールホルダーを備える。ボタン一つでツールを交換し、毒ガス検知機やワイヤカッターなどを装着する。

 一般的に、機体に付けたツールをアームで触れて失敗すれば、アームの関節か、機体が壊れる。これを防ぐには力覚センサーが必要になる。力覚センサーは高価なため、多くのロボはアームは伸ばして展開するか、折りたたむだけで、機体に触れるようには設計しない。だがボタン一つでツールを交換できれば、作業の幅が広がる。

 テレロボのアンドレアス・シオセック博士は「もう、このロボを50カ国で売っている。現場で簡単にいろんな作業ができないとね」とにこやかに説明する。WRSにはロボットと一人で来日し、大会中は一人で運用する。14年間、連れ添っているロボットの扱いはこなれたモノだ。

 会場での練習はパイプの引き抜きタスクに費やした。このタスクは鍵のように枝分かれしたパイプが入り組んだ隙間に差し込まれており、どうひっかかっているか分からない状態で手探りで引き抜く。最も難しいタスクの一つだ。

  • 独テレロボの会場テスト。奥で操作しているアンドレアス博士は、ロボットと一人で来日し、大会中は一人で運用する

 「他のタスクはそう難しくない。パイプタスクは自動化できない。僕の頭の中にいいシミュレーターを作らないとね」と練習に打ち込む。

 災害対応ロボは遠隔操作で操縦するが、いくつも自動化された動きが存在する。ロボット単体の動作も、周囲環境を含めた動作の自動化も進む。ロボットやシーン、作業によって、自動化率が常に変わる。目の前の作業を操縦者が行っているのか、ロボットが行っているのか、わからないのが特徴だ。大きく頑丈な機体の中の頭脳戦が勝負をわける。

(2018/10/18 05:00)

おすすめコンテンツ

電験三種 合格への厳選100問 第3版

電験三種 合格への厳選100問 第3版

シッカリ学べる!3DAモデルを使った「機械製図」の指示・活用方法

シッカリ学べる!3DAモデルを使った「機械製図」の指示・活用方法

技術士第一次試験「建設部門」受験必修キーワード700 第9版

技術士第一次試験「建設部門」受験必修キーワード700 第9版

モノづくり現場1年生の生産管理はじめてガイド

モノづくり現場1年生の生産管理はじめてガイド

NCプログラムの基礎〜マシニングセンタ編 上巻

NCプログラムの基礎〜マシニングセンタ編 上巻

金属加工シリーズ 研削加工の基礎 上巻

金属加工シリーズ 研削加工の基礎 上巻

Journagram→ Journagramとは

ご存知ですか?記事のご利用について

カレンダーから探す

閲覧ランキング
  • 今日
  • 今週

ソーシャルメディア

電子版からのお知らせ

日刊工業新聞社トピックス

セミナースケジュール

イベントスケジュール

もっと見る

おすすめの本・雑誌・DVD

ニュースイッチ

企業リリース Powered by PR TIMES

大規模自然災害時の臨時ID発行はこちら

日刊工業新聞社関連サイト・サービス

マイクリップ機能は会員限定サービスです。

有料購読会員は最大300件の記事を保存することができます。

ログイン