[ 機械 ]

【別刷特集】生産のIoTで工場はどう変わるか “人に頼らない自動化”目指す

(2018/11/1 11:00)

 IoTは新しい産業革命をもたらすキーワードとして注目され、“つながる工場”や“工場の見える化”の取り組みが始まった。しかし、ゴールであるスマートファクトリーや、顧客のニーズに合わせたカスタマイズ製品を大量生産と同等のコストと効率で生産するマスカスタマイゼーションを達成する具体的な方法や道筋が見えてこない。ここでは、工作機械における「人に頼らない自動化(自律化)」について考えてみたい。

神戸大学大学院 工学研究科教授 白瀬 敬一

つながる工場登場

  • 図1 “つながる工場”と“工場の見える化”を実現するプラットフォーム

 工場のモノ、設備、情報システムを接続して“つながる工場”や“工場の見える化”を実現するためにプラットフォームが必要となる。プラットフォームは図1に示すように工作機械やロボットを接続するためのインターフェース、ネットワークやデータベースを接続するためのインターフェースを提供する。また、収集したデータを見える化し、分析・解析するためのアプリケーションのインターフェースも備えている。

 FA機器や工作機械のメーカー各社が提供しているプラットフォームとアプリケーションを表1にまとめて示す。各社とも自社の設備や新しい設備だけに限らず、他社の設備や古い設備も接続できるように配慮している。

  • 表1 各社が提供するプラットフォームとアプリケーション

 “つながる工場”のさきがけは、ヤマザキマザックが1998年に本社大口工場に完成させた部品加工工場であろう。

 この工場はサイバーファクトリーと命名され、製造に関するすべての部門をネットワークで接続し、生産情報を共有して生産性の向上と製造リードタイムの飛躍的な短縮を実現している。

 その当時に、サイバープロダクションセンターと呼ばれるアプリケーションが開発され、ツールパスのシミュレーションや加工時間の見積もり、機械の稼働スケジュールの管理、工具の管理や工作機械の運転状態のモニタリングが行われている(1)。約20年前に“つながる工場”や“工場の見える化”が実現されていたことになる。

 約20年前と現在との違いは、計算機の処理能力とネットワークの通信能力の圧倒的な差にある。また、大型の汎用計算機による集中処理から、複数のサーバーやパソコンによる分散処理に移行したことである。さらに、ネットワークで接続できる範囲が、自社の一つの工場に限らず、複数の工場や海外の工場、協業する複数の企業間から中小企業にまで大きく広がったことである。

生産見える化実現

 生産情報は企業の経営戦略やサプライチェーンマネジメントに関する経営情報、製品設計や生産設計に関する生産技術情報、生産の進捗や納期を管理する生産管理情報、機械の制御や監視を行う各種のプログラムなど多岐にわたる。こうした生産情報の階層構造に合わせてネットワークを階層化することが考えられていて、上位からクラウド、フォグ、エッジと呼ばれる。“つながる工場”では、エッジと呼ばれる最も製造現場に近い階層のネットワークで工場のモノや設備を接続して、そこで収集される情報を活用して生産効率や加工品質の改善を迅速に行うことができる。

  • 図2 機械加工における加工状況の監視、分析・解析、最適化・制御

 機械加工においては、図2に示すような加工状況の(1)監視(見える化)(2)分析・解析(3)最適化・制御―により、加工トラブルを回避する安全機能や、加工状況に応じて切削条件を修正する適応機能が実現されることが望まれる。これまで日本のモノづくりは、現地現物主義で製造現場の作業者のノウハウに任せてきたため欧米に比べてデジタル化が遅れてしまった。しかし、加工プロセスや加工品質の最適化・制御が実現できれば、欧米にはまねのできないサービス(付加価値)を提供できるようになる。

 加工プロセスや加工品質の最適化・制御を成功に導くためには、現場の作業者が行うトラブル回避や切削条件修正の履歴データを精確に収集しなければならない。また、こうした履歴データに潜む加工ノウハウをAIで学習する場合には、収集したデータから質の高いデータを選択・抽出することが良い結果につながるカギとなる。

 現場力の高い日本が欧米に比べて優位であることは間違いがない。

工作機械を知能化

 工業製品の生産において、生産形態は大量生産から一品生産(カスタマイズ生産)へ、製品寿命はより短く、部品形状や加工工程はより複雑になっている。一方で、日本は少子高齢化のために製造業に従事する作業者が減少し、熟練技能者が退職するという問題に直面している。

 工作機械の自動運転を例にすると、自動化のために加工用の数値制御(NC)プログラムを作成する労力が今後ますます増加していくにもかかわらず、作業者や熟練技能者の不足でNCプログラムが作成できず、自動化に支障が出る状況に直面することになる。この状況を回避するためには、これまでの“人に頼る自動化”から“人に頼らない自動化(自律化)”への転換が必要になる。

  • 表2 工作機械における自動運転の自動化レベルの定義

 近年、クルマにおける自動運転の自動化レベルが向上している。この自動運転の自動化レベルの定義をまねて作成した工作機械における自動運転の自動化レベルの定義を表2に示す。(1)NCプログラムの作成(2)加工状況の分析・解析(3)加工状況の最適化・制御―をシステムが担当するのかどうかで自動化レベルが異なる。現状はNCプログラムを作成する作業者の労力をコンピューター利用製造(CAM)で支援するレベル1の自動化である。

 筆者らは“人に頼らない自動化(自律化)”を実現する知能化工作機械の研究で、システムが切削力のシミュレーションの結果を用いて加工状況の分析・解析を行い、適応制御によって加工状況の最適化・制御を行うレベル4の自動化を達成している(2)。また、内閣府の戦略的イノベーションプログラム(SIP)/革新的設計生産技術の研究開発プロジェクトにおいて、このシステムを実装したマシニングセンター(MC)を試作し、その効果を検証した。

 試作したMCでレベル4の自動化を達成したものの、このMCが広く普及するまでには時間を要する。このため加工する部品とその素材の3次元(3D)モデルを用意すれば、作業者に代わってNCプログラムを自動で作成するCAMを開発している(3)。このCAMの特徴は熟練作業者のノウハウを学習して加工順序の決定に反映する点と、データベースに蓄積した加工事例を参照・再利用して切削条件の決定に反映する点にある。

 筆者らが過去に開発したCAMが現場で受け入れてもらえなかった最大の理由は、アルゴリズムに従って決定する加工順序や切削条件が、熟練技能者が決定するそれと異なるためであった。そこで、新しく開発しているCAMでは、熟練技能者がCAMを操作して加工領域の加工順序を決定していく際に、加工領域の幾何学的特徴と加工順序との因果関係を学習する。学習後は加工領域の幾何学的特徴と学習した因果関係から加工順序を自動で決定する。その後、加工順序が決まった加工領域ごとに、データベースに蓄積された加工事例を参照しながら加工に使用する工具と切削条件を自動で決定する。

 この仕組みによって、熟練技能者が考える加工順序と切削条件でNCプログラムが自動で作成できるようになり、レベル2の自動化が達成できる。

 クルマの自動運転で交通システムが大きく変わろうとしているように、工作機械の“人に頼らない自動化(自律化)”で生産システムも大きく変わることになる。クルマの自動運転ではタクシーの配車システムやカーシェアリングといった新たなサービスの創出に注目が集まっているが工作機械の自律化でも、納期最短・コスト最小を満足する受発注システムや企業の枠を超えた工作機械シェアリングといった新たなサービスの創出が期待できる。

 “つながる工場”や“工場の見える化”が大企業だけでなく中小企業にも普及・浸透していくことで、スマートファクトリーやマスカスタマイゼーションの実現に必要な革新技術が生み出されることに期待したい。

〈参考文献〉

(1)長江、大橋「情報技術と機械技術を融合したサイバーファクトリー」精密工学会誌、69巻、12号、(2003)、pp.1689―1692.

(2)長谷川、佐藤、白瀬「被削材のボクセルモデルを用いたエンドミルの切削力シミュレーションと切削力の予測結果に基づく適応制御」精密工学会誌、82巻、5号、(2016)、pp.467―472.

(3)西田、平井、佐藤、白瀬「CAM操作者の意図を考慮したエンドミル加工の自動工程設計システム」日本機学会論文集、84巻、860号、(2018)、pp.1―12.

JIMTOF2018特集

(2018/11/1 11:00)

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