[ オピニオン ]
(2019/4/29 05:00)
第2次大戦後の自由貿易の規範であった関税貿易一般協定(GATT)は、ウルグアイラウンドの議論を経て1995年(平7)に世界貿易機関(WTO)を誕生させた。平成期に世界の自由貿易は、新たなステージに立った。
しかし実際に通商分野で起きたのは、地域連携や2国間の自由貿易協定(FTA)という潮流だった。欧州6カ国の経済協定だった欧州経済共同体(EEC)は加盟国を増やしつつ93年に欧州連合(EU)に発展。99年には通貨統合を実現した。東南アジア諸国連合(ASEAN)は90年代に10カ国へ拡大し、域内の関税撤廃を積極的に進めている。2000年代初頭にかけて、全世界で100以上のFTA網が発足した。
WTO体制は、各国に公平な形で貿易自由化を進める。これに対しFTA網は、互恵的な関係が見込める特定国の間だけで関係を深めるものだ。WTOの水準を超え、カバー分野も広い。だが日本はFTA網をWTOの補完的役割に過ぎないとの立場をとり続け、世界の通商のパラダイムシフトに乗り遅れた。
日本がようやく戦略を転換し、一気に遅れを挽回しようとしたのが環太平洋連携協定(TPP)である。きっかけは、米国がTPP交渉への参加を決めたことだ。通商関係者は「米国と1対1のFTA交渉では日本の意思が通りにくいが、TPPという多国間交渉なら入りやすい」と打ち明ける。
TPPは15年に大筋合意したが、その後、当選した米国のトランプ大統領が離脱を表明。日本の狙いは挫折したものの、米国を除く11カ国でTPPを発足させ、レベルの高い多国間連携を主導して自由貿易を広げる戦略に転じている。
平成の終わるいま、米トランプ政権は日本など各国に個別交渉を迫り、EUでは、英国の離脱が混迷の度を深めている。新興国経済の高まりとともに、一部では保護主義の台頭も懸念されている。ただ、資源小国の日本にとって貿易自由化は常に求められる課題だ。歩みを止めることは許されない。
(2019/4/29 05:00)
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