[ オピニオン ]
(2019/5/15 05:00)
日米両政府が新たな貿易協定の締結に向けて交渉を本格化している。米国は農産物の関税撤廃・削減や通貨安誘導を封じる「為替条項」の導入などを議題に挙げ、早期の妥結を求めている。対する日本は米国との良好な関係を保ちつつ、日本企業への悪影響を最小限に抑えるよう、双方が納得する着地点を探る必要がある。
新日米貿易協定は、二つの争点を抱えている。一つは、為替介入など人為的な為替操作を禁止する為替条項だ。米国を除く環太平洋連携協定(TPP)11でも同様の内容で合意しているが、強制力の弱い共同宣言にとどまっている。米国、カナダ、メキシコが結んだ新貿易協定(USMCA)のように、条項が本文に記載されれば一定の制約が生じるのは間違いない。
日本は大規模な量的金融緩和政策の結果、円安になっており、介入ではない。だが強制力のある本文に記載されるとトランプ米国大統領の意向次第で量的緩和を協定違反と見なし、政策変更を要求することも考えられる。米国は協定交渉の議題に組み込むよう打診しているが、議論を始めれば他の交渉項目への圧力にもなり、交渉そのものを避ける努力が求められる。
二つは、自動車分野の交渉だ。2018年の対日貿易赤字676億ドルのうち、自動車・部品が約8割を占めており、トランプ米国大統領は貿易不均衡の主因とみている。米国は赤字縮小に向け、いずれ対米輸出の数量規制を要求し、メキシコやカナダと同様に管理貿易の枠組みにはめ込む可能性が高い。
数量規制が導入されれば日本企業は輸出が制限され、生産計画の大幅な修正や生産拠点の海外移転などを余儀なくされる。日本は日本企業による対米投資拡大策など米国産業への貢献度合いを積極的に提示し、数量規制を回避すべきだ。同時に、農産物の関税をTPP11の水準まで引き下げるなど他の交渉項目で譲歩案を示し、米国の歩み寄りを促す必要がある。
日本は米国との貿易協議を軟着陸させ、自由貿易を拡大する役割を担いたい。
(2019/5/15 05:00)