[ オピニオン ]
(2019/6/12 05:00)
その茶室はトタンや合板でできていた。床の間の掛け軸には、マクドナルドのおなじみの「M」マークが。ホストはクッキーやペパーミントキャンディーでゲストをもてなし、茶を立てる。
米国人アーティストであるトム・サックス氏の個展「ティーセレモニー」が東京オペラシティアートギャラリー(東京都新宿区)で開かれている。同氏は既存の工業製品を段ボールなどを使って手作りする手法で知られる。
5年以上、本格的に茶道を学んだ上で伝統的な茶の湯の世界を独自の解釈で再定義して「ティーセレモニー」を作り上げたという。モーターで高速回転する茶筅(ちゃせん)には思わず笑ってしまったが、どの作品も手仕事のぬくもりを感じさせる。
茶道が大切にする「おもてなし」の心がそこにあった。精神性はそのままに、アメリカ文化やテクノロジーといった異質なものを加えて、茶道の新たな魅力を我々に示してくれた。
人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)など工業製品の再定義を促す“種”は豊富だ。自動車、電気機器、ロボット…。日本が得意とする工業製品が、新たな魅力をまとった姿を見てみたい。メーカーの異質なものを受け入れる度量や、アート精神に期待する。
(2019/6/12 05:00)