金属加工のエキスパート、金属技研が欧州企業買収で何をする?【PR】

(2020/7/30 19:00)

板金を成形・溶接して作られたカプセル。中に金属粉末を充填し、HIP処理する

 金属加工のエキスパート集団である金属技研(東京都中野区、長谷川数彦社長)がこの4月、同業であるスウェーデンの粉末冶金事業社を買収し、完全子会社化した。日本の中堅金属加工企業が欧州の同業を買収するのは極めて珍しい。金属技研は今回の買収を機に、世界市場へ本格的に打って出る。欧州事業推進室長の平山鉄人取締役が語ったその勝算と真意とは?

 サンドビックグループは切削工具、金属材料、鉱山機械などの世界大手。世界130ヵ国以上で4万人超の従業員を抱える。金属技研が今回買収した同グループ傘下のサンドビック・パウダー・ソリューションズ(SPS、現在はMTC Powder Solutions(MTC-PS)に社名変更)は、粉末冶金製品の製造・販売を手がける。金属技研とSPSは、高圧で粉末金属を焼結する熱間等方圧加圧(HIP)技術が得意。

―買収の経緯を教えてください。

 金属技研は売り上げの大半を国内で占めているが、国内市場がシュリンクしていくことが確実の中、以前から危機感を抱いていた。一層の飛躍のためには海外市場の獲得が必須だった。一方、SPSとしては、以前から自社内のサプライチェーンとしてHIPと熱処理が不足していると認識しており、この分野に強い企業に買収してほしいと望んでいた。一方、金属技研は2年ほど前からSPSのHIP処理を受託していた。その縁もあって買収オファーを受けた。

―受託していたHIP処理とは具体的にどういう分野ですか。

 主に海洋開発で用いられる大型の継ぎ手やダクトといったニアネットシェイプ(NNS、後加工の手間を大幅に減らせるほど完成品に近い状態)部品のHIP処理だ。NNS製品を製造するには、「カプセル」と呼ばれる金属の入れ物に金属粉末を詰め、高温高圧で固める必要がある。一般的に製造する製品が大きいほど、カプセルの変形が大きく、製造が困難だ。SPSは、大型だが、処理前後で変形量の少ないカプセルの設計・製造技術を持っていた。金属技研もNNSの技術開発はしていたが、大型部品の安定した製造には至っていなかった。世界最大級サイズのHIPを有する金属技研で、大型NNS製品の設計・製造ができることはサプライチェーンの川上から川下へと自社で展開できるということであり、理想的だ。そうした技術の取得も買収の目的だった。

 NNSはHIPと親和性が高く、金属技研がずっとやっていきたかった仕事だ。当社はキャッチフレーズに「the metal solution」を掲げているが、SPSもそういうマインドを持ち、ソリューション営業を非常に大切にしている。当社は創立以来、ソリューションを増やすことを重視しており、そういう意味でもいい流れだと思っている。

MTC Powder Solutions

―買収を機に、SPSはMTC-PSに社名変更しましたが、今回の買収は人的や企業風土の変化も含め、金属技研にどういう相乗効果をもたらすでしょうか。

 まず両社の技術移転が挙げられる。MTC-PSは大型製品のNNS技術が秀でている。金属技研としては、拡散接合や熱処理、機械加工などでさまざまな技術の蓄積がある。特に我々は高度な設備を持っており、そうした設備を使うノウハウや効率化などを提供できる。両社の知見の共有で事業の幅が広がる。

 また、欧州市場へは独自に出るにはハードルが極めて高い。今回の話をいただいたとき、波に乗る大きなチャンスだと思った。何が何でも実現しようと思った。現状、オイル&ガスの海洋開発市場は日本にいると参入障壁が高いが、MTC-PSの既存顧客との継続取引が期待できる。

 人的や企業風土の面では、金属技研の社員の国際感覚の醸成が進むはずだ。日本はやはり島国であり、当社のように国内企業との取引が大半な会社は、国際的な常識や感覚に欠けている。技術や製造ノウハウ、会計、管理などあらゆる業務を両社で交流することで、言語だけでなく、国際的な感覚を身に着けられると思っている。

―ところで現在の業界の景況感はどうでしょうか。

 新型コロナウイルスの感染拡大もあって見通しが難しい面があるが、日本では、エネルギー関係のお客様からの受注は、現在堅調だ。コロナで需要が落ちている自動車や航空機関連はしばらく厳しそうだ。一方で、半導体の製造設備関連の受注は相変わらず好調で、この流れは当面続くだろう。

 MTC-PSの事業領域でいえば、オイル&ガスは非常に不透明な状況ではあるが、開発製品の販売が主なため、今後1年程度の発注は既に受けている。その先はコロナの影響と原油価格の長期低迷で業界自体がどうなるか見通しづらい。

 一方、肥料用の尿素プラント向けで、耐腐食性の高いパイプやチューブは食品業界自体がコロナ禍でも比較的安定していることから、受注は順調だ。また、社名は明かせられないが、防衛関係の特殊合金製造を受注しており、これが順調に伸びている。欧州の政府からの仕事であるため、長期に安定した売り上げが期待できる。

平山鉄人取締役

―MTC-PSは中国などアジアでの展開を考えているそうですね。

 まずはオイル&ガスを中心に考えており、中国やアジアに進出している欧米企業が当面のターゲットだ。その先は航空や原子力発電などさまざまな分野を対象にしたい。これらに共通するのはサスティナブルなモノづくりだ。欧州では環境や社会問題への関心が非常に高く、グリーンテック、いわゆる国連の持続可能な開発目標(SDGs)を念頭に置いた製造が盛んで、企業に求められている。この潮流は欧州とも貿易量が多い中国、アジアへも必ず来ると以前から考えていた。これがコロナで各国がとったロックダウンで世界的に、「何が本当に大切か?」を考えるきっかけとなったことで加速すると考えている。

 MTC-PSが提供できるSDGsは限定的ではあるが、現在製造している製品は既存の製品に比べ、より材料を少なく、より製造に要するエネルギーを少なく、より使用後のエネルギーとコストを削減することに注力している。NNSならこれを一層実現できる。

―今後、金属技研は欧州市場をどう開拓しますか。

 現在MTC-PSの顧客の多くはオイル&ガスで、その他は防衛、食品(尿素プラント)、海上輸送だ。一方、欧州は航空分野の顧客も多く、サスティナブルな部品・製品製造へと変わりつつあり、多くのチャンスがある。

 また、MTC-PSを拠点に欧州の航空分野、火力発電分野、工具鋼関係分野へのアクセスが非常に良くなると考えており、日本からの取引と比べ、輸送費の問題が解決されるはずだ。このため、地の利を生かして金属技研同様の精密鋳造品や工具鋼材料のHIP処理受託事業も視野に入れている。ただし、これには大型の設備投資が前提となるため数年後となる。

NNSで製造されたバルブ

―ところで「withコロナ」の環境下で、今後の海外事業のハンドリングはどうあるべきでしょうか。

 「べき論」から言えば全てリモートコントロールできる環境が望ましいとは思う。しかし、実際私は4月からスウェーデンに赴任する計画だったが、コロナで今も行けずに、ジレンマとストレスを感じている。

 多くは人の感情の部分の話かもしれない。しかし、こればかりはWebミーティングでは解消することができないかもしれない。ただ、ありがたいことに私の部下に日本と欧州の両方の文化と国民の感覚を理解できる優秀な英国人がいる。コミュニケーション能力にたけており人の感情変化に敏感な人材だ。その点で私は多くのサポートを受けている。非常に救われていると思うと同時に、やはり人材は重要で、欠かせないのだと思う。

(2020/7/30 19:00)

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